第31話 会議

「え? な、何?」


 虎太郎はみんなの視線を受けて戸惑っている。

 少しの間、時が止まっていたが……。


「金脈は~! わしのやからな~!」

「いいえ~! わたくしは不審な人魚からハナ様をお守りします~!」


 リヴァイアさんとツバメさんが、なぜか演劇のような語り口で争い始めた。

 そして、次のセリフを求めるように、揃って虎太郎の方を見た。


「え、えっと……」


 ああ、虎太郎が追い詰められている……可哀想!

 同じノリを求めるのはやめてあげて……!

 止めようと思っていたら、空気を読まざるをえなかった虎太郎が意を決して口を開いた。


「い、一色さんと一緒にいるのは僕だからっ!」


 虎太郎がそう言うとほわっと温かい空気が流れた。

 祝福するような空気に虎太郎がいたたまれなくなったのか、手で顔を覆っている。

 がんばってノッた虎太郎が可愛いなと思いつつ……。

 ノリだと分かっているのに、言ってくれた言葉が嬉しくて、顔が熱くなってしまう。

 私も同じように手で顔を覆っていると、芳三達も真似し始めた。

 何なの、この状況!

 さらにほんわかした空気が流れはじめたんだけど……どうしたらいいの!


「えっと……あの……今の流れに、オレも入るべきだった?」

「大丈夫。リュリュはいらないから」


 虎太郎の後ろにいたリュリュにミンミがツッコミを入れたことで、なんとか一段落したので、私達は居間に移動して話をすることにした。




「…………」

「あの、リヴァイアさん? 大丈夫ですか……?」

「…………」


 気持ちええ水くれー! とうるさいリヴァイアさんのために、リュリュが大きな洗濯桶を持ってきてくれたので、そこに『流水』の水を入れたら、ずっーーっと頭を突っ込んでいる。

 人魚だから息ができないということはないと思うけど、ずっと水に頭を突っ込んで動かない人がいるのは不気味だ。

 あ、コッコが下半身の魚の部分を突いている。

 それでも動かないけど、痛くないのかな?

 リヴァイアさんのことは心配だが、しばらく好きにしてもらうことにして、私は虎太郎の方を向いた。


「おかえりなさい。洞窟はどうだった?」


 虎太郎とリュリュ、そして諭吉はフィッシュアンドチップスとチキンナゲットを食べながら話すことになったのだが……。

 つまみながら話す感じかと思ったが、次々と口の中に放り込んでいるので、食べ終わるのを待った方がいいのでは?


「んぐ、勇者様に協力して貰って、遺品を探してきた」

「んーしゃじゃないから」


 虎太郎はもぐもぐしながらも勇者は否定している。

 話しづらそうなので少し待っていると、口の中がすっきりしたのか話し始めた。


「僕は鑑定できるから、村にいる間にできるだけ遺品を集めて、情報を伝えておこうと思って」

「そっか。私もお手伝いできたらよかったんだけど、寝すぎちゃった……」

「一色さんは大活躍だったからね。ゆっくり休んでくれてよかったよ」

「ぎゃ!」

「う~ありがとう! おかげさまで元気いっぱいになりました!」


 ここからも私もがんばるぞ! と意気込んでいると、食べ終わった虎太郎が「ごちそうさま」をしてこちらに向き直した。


「あと、大事なことも確認してきたよ」

「大事なこと? ゾンビが残ってるか、とか?」

「それも見てきたけど大丈夫だったよ。僕が確かめてきたかったのは魔王の欠片についてなんだ」

「ああああっ!!!!」


 どうしてこんな大事なことがすっぽり忘れていたのだろう!


「虎徹! 大丈夫!?」

「にゃ?」


 素早く近くにいた虎徹を抱き上げてお腹を見る。

 食べた後でぽっこりした可愛いお腹だが、ここに恐ろしいものが!?


「諭吉のときみたいに突き刺さないと駄目かな!? 私、全力で回復するから! 大丈夫だからね!」

「にゃ!? にやー!」


 バタバタして私の手から抜け出した虎徹が、虎太郎の背中に隠れてしまった。


「大丈夫だよ。虎徹の中にあった魔王の欠片は消えているよ」

「え、そうなの!?」


 諭吉のときはあんなに大変だったのに……いつの間にか消えていた?


「最初からなかった、とかじゃないんだよね?」

「うん。一色さんと結晶化を治そうとしていたときには、まだ虎徹の中にあったよ。でも、いつの間にか消えていたんだ。僕も色々焦っていたから、消えた瞬間を把握できていなくて……」


 虎太郎は悔しそうな顔をしているけれど、そこまで把握できているのがすごい。

 私なんて、今まですこーんと忘れてました……!


「虎徹の体から別の場所に移ったりしていないか確認してきたけど、洞窟内は大丈夫だった」

「じゃあ、ちゃんと消えたのかな? 何がよかったんだろう? 青白結晶を食べさせてコツコツ治すんじゃなくて、直接魔力で治そうとしたからかなあ?」

「思い当たるのはそれしかないけれど……うーん……」


 虎太郎は納得がいっていないのか、すっきりしていない様子だ。

 しばらく俯いて考え込んでいる様子だったが、何か思い出したのか顔を上げた。


「あ、あと、例の装置が山の麓にあったよ」

「!」


 装置というと、魔物の活性化を抑えるけれど、守護獣の結晶化を進めるアレか。


「でも、村の人達は、装置をあまり気にしていなかったらしいんだよね」

「そうなの?」


 首を傾げていると、ミンミが説明してくれた。


「この一帯は精霊様加護のおかげなのか、魔物の被害とかあまりなかったの。村長に聞いたけど、そういえば国の奴が何か置いていったな、くらいの感じだったよ」

「そうなんだ……」


 村にあまり魔物の被害がなかったのは良いことだ。

 でも、装置があったと言う事は……。


「虎徹の結晶化は加速してたのかな?」

「その可能性はあるね」


 虎太郎の背中からこっそりこちらを覗いている虎鉄を見て思う。

 ……間に合って本当によかった。


「麓にある装置だけど、村長さんと相談してそのままにしてきたよ。村としてはあまり国とは関わりたくないから、触らずに放っておきたいんだって」


 虎徹の結晶化は治ってるから、私達としてもそのままで構わない。

 私は「そっか」と頷いた。


「あ、でも、ここにも装置があるってことは、国がこの場所も把握してるってことだから、追手が来ちゃうかな?」

「うん。そもそも、ポータルの転移先は把握してそうだし、そろそろ離れた方がよさそうだね」

「やっぱり、すぐに旅立っちゃうのかあ。猫〜! あ、じゃなくて守護獣様〜! 旅立つ前にお腹吸わせて〜!」

「にゃう!?」


 会話を聞いていたミンミが、虎徹を捕まえようとしたけれど逃げられた。

 でも、ミンミは諦められないのか、追いかけっこが始まってしまった。


「ぎゃ!」

「ぐぉ!」

「こけー!」


 芳三と諭吉、ニワトリのコッコまでミンミの援軍として虎徹を追い始めたが、遅くて試合にほぼ参加できていない亀の諭吉が可愛い……おっそ……。

 というか、みんな可愛くて癒されるけど、まだお話し中なのでほどほどにしてね!

 私と同じように追いかけっこを見ていた虎太郎が、苦笑いを浮かべながらこちらを見た。


「僕達は次の行き先を決めようか。他の守護獣がいる場所が分かればいいんだけど……」

「今までの流れで言うと、ポータルの移動先として残っていたところ、かな?」

「諭吉と虎徹もポータルの近場にいたから、そうした方がいいんだろうけど……」

「国の人達に先回りされているだろうから、気をつけなきゃだね……」


 私達の行方を掴むヒントになるポータルは徹底的に調べられているだろう。

 危険を承知で行っても、守護獣が見つかるかは分からないし……。


「あ、今は使われていないポータルの近くとかにはいないのかな?」

「芳三はそのパターンだったし、可能性はあると思うんだけど……。今も稼働しているポータルに意味があるような気もするんだよね」

「諭吉と虎徹に会えたもんねえ」


 二人でうーんと唸っていると、虎太郎がツバメに声をかけた。


「ツバメさん、ラリマールの地図はありますか?」

「もちろん、ございますよ」


 テーブルの上に地図を広げると、虎太郎が芳三達を呼んだ。

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