第15話 金脈
「こんなにレアドロップがゴロゴロと……どうなっとんねん!」
怒っているのか喜んでいるのか分からないテンションで、魚の人が詰め寄って来る。
「えっと、私……結構運が良くて……」
手を突き出して、なるべく近づかないようにバリアをしながら答える。
近くで見るとまん丸な目が余計に怖いよ~!
「結構運がいい? そんなレベルの話じゃないやろ!」
「そう言われましても……」
「ぎゃ!」
芳三が青い火球を放って威嚇してくれたので、魚の人は「おっと!」と下がってくれた。
「レアドロップの確立が高いみたいやけど、それだけか? ツイとるのは、ドロップアイテム関連だけか?」
「いえ、『なんでも』ですけど……」
「!」
そう答えると、何を考えているか分からいまん丸な目が輝いたように見えた。
「なんでも! ……ちゅーことは……! ちょっと待っといてくれ!」
魚の人はそういうと、腰にあるポシェットから、分厚い本を取り出した。
本はポシェットより大きくて、表紙には魔法陣、魔女が持っていそうな装丁で素敵だ。
「それは何ですか?」
「見たことないんか? まあ、今ではこのやり方は主流じゃないからなあ。魔力が多い者しかできないし……。これはなあ、『アイテム生成の書』や」
「! アイテムを作るための本、とういことですか?」
「そうや。この本には、アイテムを作るために魔法陣が入っとる。魔力を入れることによって、発動させることができるんや」
習いたかったアイテム作りをこんなところで知ることができるなんて!
でも、今は虎太郎と合流するのが優先だ。
「あの、私は急いでいるので……」
「あんたに干渉してもろた方がいいんかな……。なあ、素材を持っといてくれへんか?」
断りを入れて去ろうとしたのに、魚の人はポシェットから次々と取り出したものを私に渡してきた。
綺麗な鱗や何かの海藻……まではよかったのだが……。
「うえ……」
ピンポン玉サイズの目玉、そして、干からびた人型のものを渡された。
サイズからして、藁人形のように見えて不気味だ……。
「この気持ち悪いの、なんですか?」
「それか? 一つ目くらげの目玉と……。あんた、フロドモンクフィッシュ知っとるか?」
あまり見たくないで、顔を背けながら首を振る。
「じゃあ、チョウチンアンコウは?」
「あ、はい。それは分かります」
「姿はそれに似た大型の魔物でな。提灯の部分が美男や美女になって、海から人を誘惑するんや。まんまと釣られた奴は食われてしまうわけやな」
「こわー……。え、まさか、その魔物ってこの洞窟にいます!?」
海、と言っているからいないとは思うが、ここは異世界だ。
……というか、あの子どもは、もしかしたら……!
そう思って辺りを見回すと、魚の人が噴き出した。
「ははっ! 安心せえ。ここにはおらん。……で、それは美女になっていた部分を切り取ったやつなんやけど、しぼんで……って捨てるな! 貴重なんやぞ!」
「……うっ! すみません、手が勝手に……」
怖くて反射的に投げようとしてしまったけれど、弁償することになったら大変なので我慢した。
でも、これ以上触りたくないよ~!
「何をするか知りませんけど、早くしてください!」
「ぎゃ……」
「ねー、芳三。気持ち悪いよねー」
芳三と顔を歪ませながら頷く。
ミイラみたいでやだー。
「すぐに始めるから、やいやい言うな。ほな、始めようか。【生成開始】」
魚の人がそう言うと、本が風と光を放って宙に浮かび上がった。
どうやら本に魔力を送って起動させたようだ。
「……よし、安定したな。さっき渡したものを、本のところへひょいと投げてくれ」
「あ、はい……」
言われた通りに、受け取っていたものを浮いている本の元へと投げる。
すると、素材は落ちることなく本の近くで同じように光を放って留まった。
少しすると、勝手に本が開き、パラパラとページが捲れ始める。
目の前で起きているファンタジーな光景に「わあ……」と声が零れる。
見惚れている内にページは止まり、大きく見開いた状態で止まった。
「あれ、何も描かれていない?」
「そうや、今作っているのは未成功の薬や。この本には載っていない」
「じゃあ、作れないんじゃ……」
「いや、こいつは成長する本でな。ごっつ低確率やけど、本にない魔法陣が生成され、新たなアイテムが生まれることがあるんや! わしはそれを狙ってる!!」
魚の人の真っ黒な目がキラキラしている。
失敗したら「幸運だなんて嘘つくな!」と怒られないか心配になってきた……。
「今回はめっちゃ魔力を持って行かれるな……って、来たっ!」
真っ黒な目が一層輝きだす。
浮かんでいた素材が消えると、本の上にバスケットボールくらいの光の玉が生まれた。
玉の中は、虹色がぐるぐる回る渦のようになっている。
少しすると、真っ白だったページに魔法陣が描かれ始めた。
見えないペンが走っているように描かれていく魔法陣が綺麗だ。
「あと少し……あと少しで成功や!」
「ぎゃ!」
魚の人が固唾を飲んで見守っている。
何だか私もわくわくして来て、芳三も前のめりになっている。
「…………っ!」
光の玉は強い光を放つ。
眩しくて思わず目を閉じてしまった私達だったが、光はすぐに止んだ。
ゆっくり目を開けると、光があったところに小瓶が浮いていた。
深い青から明るい水色のグラデーションが綺麗な液体が入っている。
浮いていた本と小瓶は、ゆっくりと魚の人の元へと下りてきた。
「できた……ほんまに成功しよった……!! これで治るぞ~!! 魚の頭ともおさらばや!! あははっ!!」
本と小瓶を両手に掲げ、魚の人がはしゃいでいる。
本当に成功したんだ……すごいな……と思っていたら、魚の人の黒い目が私を捕らえた。
え、何!?
「金脈~~~~!! ずっと一緒にいてくれ!!」
魚の人が私に向けて突進して来る。
「え、ちょ……来ないで! 金脈って何!?」
「ぎゃっ!」
芳三がまた火球を放ってくれたので、魚の人は止まったが、今度はよけずに真正面からくらった。
威嚇の炎なのでそれほど威力はないようだが、ちょっと鱗が焦げている。
ちょっと焼き魚のにおいがするのは気のせいだろうか。
少し心配になったのだが、魚の人はまだ機嫌が良さそうだ。
「滅多に取れないレアドロップをゲットできる上に、成功率が低いアイテムの生成が成功するなんて救世主や! それにとんでもない金脈やで! あんたは歩く金の成木や!」
人を『金のなる木』だなんて、失礼だなー!
「さよなら~」
「ぎゃ~」
アイテムに作成も見ることができたし、虎太郎を探しに行こう。
「待ってくれ! わしも連れていってくれ! まだ同じ薬が欲しいんや!」
魚の人が追いかけて来るが、私と芳三は気にせずに歩き出した。
虎太郎の声が聞こえた方向に歩いて行く。
「そんなに離れていないような気がするんだけどなあ」
「ぎゃー」
「大きな声で呼んでみる? 魔物がいたら呼び寄せちゃうかなあ」
「ぎゃー」
「はあ……早く奥村君に会いたい~会いたいな~どこにいるの~」
「ぎゃ~ぎゃっぎゃ~」
つい即興ソング「早く会いたいな」を歌ってしまったけれど、ふと我に返って恥ずかしくなった。
虎太郎に聞かれたら更に恥ずかしくなるから、もう歌うのはやめておこう。
「オクムラクンに会いたい~。情熱的やな!」
「…………っ」
「青春やな~」
「…………」
勝手についてきている魚の人が前をしてきたので、天日干ししたくなってしまった。
干物になっちゃっても、私は助けない。
分かれ道があったが、自分の勘を信じて進んで行く。
すると、視界の先に複数の人影が見えた。
背が高いから、あの子どもではない。
虎太郎達かと思ったが、着ている服が違う。
ボロボロだし……。
この人達も洞窟に入れられてしまった人だろうか。
近づいて来たので、声をかけようと思ったら――。
「あっ! おい、待て!」
後ろからついて来ている魚の人が私を止めた。
何? と思って振り返ろうとしたら、先にいるボロ服の人達がこちらを見た。
「ぎゃ!」
「…………っ! ゾンビ~!!」
血色悪い……なんてどころではない。
明らかに体が腐敗している状態の人達だ。
「だから止めたのに! アンデッドや! 逃げるぞ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます