第68話 クロレル軍団の策?
よもやの展開だったのだろう。
会場がしーんと静まり返る中、俺は一人、やっちまったと頭を抱える。
手加減はしたはずだ。たしかにこのナイフにはいつもより魔力を吸われた気がしたが、そんなものは軽度の話だ。しっかりと抑え込めていた。
が、結果はこれだ。
自慢のクロマントは千切れて悲惨なことになっているし、剣は粉々に折れて地面に散らばっている。
結果は見るまでもなく、一目瞭然であった。
なんともあっさりと、俺は勝ってしまったのだ。
静寂がやがてどよめきに変わる。会場内が騒然としだしたところで、審判が俺の勝利を宣言した。
これにより会場は盛り上がり、ブーイング、半々といった状況へと変わる。
「すごいぜ。強すぎるだろ、アルバ様!! ありゃ本物の強さだぞ!!」
なんて声もあれば、
「あんな犯罪者が次期領主!? あんな奴が、あの麗しいクロレル様をさしおいて!? しかも倒した!?」
こんなふうに嘆く声も聞かれる。
俺はそんなスタンドの中から、セレーナの姿を見つける。セレーナは両手を広げて、首を横に振っていた。
どうやら同情してくれているらしい。
一方のメリリはといえば、
「やっぱりアルバ様が一番です!!! クロレルになんて負けなくて当然です!!」
どういうわけか観衆たちを扇動していた。
さっきは俺が負けることをよしとしてくれていたが、いざ戦いとなったら俺が勝つ姿を見たくなったのかもしれない。
それ自体は構わないが、大衆を巻き込むのはやめてくれないかな、うん。
ともかくこれ以上、人前に晒されるのはごめんだ。日陰に帰ろう。いったん下がって、作戦を立て直そう。
そう考えた俺が会場を後にしようとしたところ、唸るような叫び声が地を這うようにして聞えてきた。
「待てよ、愚弟……!!」
振り返れば、クロレルが胸を押さえながら、よろよろと立ち上がる。
「まだやるつもりか? やめとけよ」
加減したから命を落とさなかったとはいえ、見るからにクロレルは満身創痍だ。
それに、もう決着がついてしまった以上は無駄な戦いはしたくない。
俺は無視して去って行こうとしたのだが、退場へのゲートがスタンドから現れた連中によって阻まれる。
その黒い衣装を見るに、さきほどまで廊下で後ろに控えていたクロレルの手の者らしい。
「……なんのつもりだ」
俺は問いかけるが、彼らはいっさい答えない。
睨みあいを演じていると、背後からクロレルの怒鳴り上げた声が響く。
「全員聞きやがれ!!!!!」
後ろを見れば、満身創痍ながらクロレルがフィールドの真ん中に立っていた。
「入れろ」
こう彼が合図をすると、黒服の男に付き添われて一人の民間人らしき男が中へと入ってくる。
右腕に怪我を折っておるようで、包帯によっておおわれていた。
「端的に言うぜ! この人は、罪なき被害者だ。アルバの屑野郎が酒に酔ってお代を踏み倒そうとしたうえで暴力を振るったことにより、腕を折られた!! 全治は一年近くかかるし、いまだに痛んでいるそうだ。
おかげで酒屋の店頭には立てず、生活は困窮している。誰がこんなことを招いたと思う?」
そうきたか、と俺は他人事のように感心する。
要するに、はじめから二段構えだったわけだ。
クロレルが戦闘に勝ったら、こうして暴行の被害者を出すことで俺を悪者にして徹底的に叩き潰す。
今のように万が一負けた場合は、批判を俺に向けさせることで、勝負の結果をうやむやにして自分の正義を訴え観衆を味方につけて結果を覆す。
……よく考えられたものだ。
こんなところまでクロレルの頭が回るとも思えない。
たぶんこれも、クロレルのバックについたという怪しい連中が考えた作戦なのだろう。
俺はつい、ほくそ笑む。
この展開はむしろ好都合だった。
俺自体の評価が今さら落ちようと、どうとも思わない。
なんならこれで、俺がなにかせずとも次期領主候補を外れることができるのだからありがたいくらいだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます