第67話 直接対決! えっ、クロレル弱すぎん?

俺が試合会場へ出ていくと、そこではすでにクロレルが一人待ち構えていた。


会場全体から大歓声を浴びて、黄色い声も彼へ向けて飛ばされる。その容姿を考えれば、当たり前のことと言えた。


それを受けたクロレルは腕組みをして仁王立ち、気にしていないように振る舞ってこそいるが……


うん、明らかに得意げな顔をしている。

唇がたまにぴくつくのが、その証拠と言えた。


「逃げずにきたじゃねえか。びびりの愚弟だと思っていたが、そこだけは評価してやるよ」


と、彼は剣をゆっくりと抜くと、彼はそれを振り回し始める。


ただの準備運動ならば、剣を抜く必要はない。

彼はたぶん観衆たちの歓心を買いたいのだ。実際、会場中がそのパフォーマンスに沸き立つ。


「で、お前はどうするつもりだ? 親父に魔導武器、借りてきたんだろ? どこに忍ばせてやがる?」

「……忘れてきた」

「はんっ、しょうもない嘘をつくなよ。魔法を使えないお前だぞ? それはつまり丸腰でくるようなもんだろ。それとも、そのオンボロナイフ一本で俺とやろうってか?」

「そのつもりだけど?」

「言ってくれるじゃねえかよ。どうせ隠してるんだ。とっとと出しとけよ、痛い目見るぜ? それに、決闘を楽しみにしている皆さんだって残念がるだろうよ。赤子と歴戦の魔術師がやるようなもんだ。差が歴然すぎる勝負は逆に面白くない」


……まぁある意味、そうかもしれない。


いかにして手を抜くか。そこをしっかり考えていないと、この勝負でうまい具合に負けるのはかなり難しい。



たしかに兄は炎属性魔法を使えるし、ハーストン家固有の特殊スキル『威風堂々』を有している。


が、鑑定をしたセレーナから見れば、正直強くはないそうだ。


いかに恵まれたスキルと魔法であろうと、使い手の修練具合により、その威力は大きく変わる。


クロレルの場合、あまり熟練度は高くなく本気でやれば、まず間違いなく勝ってしまう。


そう、セレーナに教えてもらっていた。



ならば、その分手を抜けばいい。


大人が子供の目線になって一緒に遊んであげるみたいに。

実力を上に合わせることは難しくても、下に合わせることならできるはずだ。


「返す言葉もねえようだなぁ、愚弟よ。ならいい。現実を分からせてやるよ」

「あぁ、うん。早くはじめようか」

「はは。これから大けがするってのに、その顔かよ。まぁいいさ。手加減はゼロだぜ?」


こっちは手加減マックスだけどね?


俺が心の中でそう答えていたところ、審判が俺たちを会場の中央へ集まるように促す。

俺たちはお互いの開始線につまさきを乗せて、武器に手をかけあった。


「模擬決闘は、どちらかが戦闘不能になるまでとします。武器はなにを使っても問題ありません。私は外部機関のものです。公平な基準をもって審判をさせていただきます」


軽いルールの説明がなされてから、審判の腕がすっと上にあがる。


「はじめ!!」


という掛け声とともに、戦いの火ぶたが切られた。

クロレルはさっそく、こちらへと踏み込んでくる。


「火よ、炎となりて我が手に盛りをもたらせ。炎炎纏剣えんえんてんけん……!!」


詠唱とともに剣に炎を纏わせると、その先から火の球を飛ばす。


正直余裕で見切ることができた。


「逃げてばっかりかよ、愚弟が!! 俺のスキル・『威風堂々』におじけづいたか!?」


いいえ、まったく?


本来ならば、相手を委縮させる効果があるスキルなのだが、実力の差のせいかそれをまったく感じない。



だがまあ、とりあえずはおびえたフリをするくらいがちょうどいい。

俺がまずは避けることに徹していたら、奴は炎の球を乱雑に飛ばし始める。


フィールドの外側には結界が張られているため、観客に影響はない。


俺はまず淡々とそれを避け続ける。

一見すると広範囲攻撃だが、見切ることができれば穴も多いのが、雑な攻撃だ。

安全地帯を探すのは難しくない。


無詠唱で風属性魔法を使い、こそこそと短い距離の縮地を繰り返す。

はじめこそ俺には非難の声があがっていたが……


「……アルバ様はいったいどうやって、あれを避けてるんだ!?」

「たしか魔法がつかえないんだよな。なのに、あの回避力はどうかしてるぞ!?」


こういった決闘イベントの際、最前列で観戦するような玄人たちには、見抜かれ始めていたようで歓声が一部でどよめきに変わる。


まずい……。


このままじゃ俺が無駄に評価されてしまう。

とりあえずはここらで一度、刃を交えるくらいの展開を見せて、競り負けた方が自然なのかもしれない。


一気に近づけば、俺が魔法を使えることがクロレルや玄人連中にばれてしまう。

俺はわざわざ遠回りに、小刻みに移動してクロレルの元へと接近した。


「きたか、雑魚め。俺の剣の餌食となりやがれ!!」


飛ばしていた炎を剣へと集中させ、クロレルは俺へと振り付けてくる。


俺はナイフを抜いて、それに応じることした。


あくまで魔力はそこまで通さずに、一割くらいの力で。そう心がけて、ナイフを握りこむと、どういうわけかいつもよりかなりの勢いで魔力が吸われる。


そういえば呪いのナイフとか言ってたっけ……。


ならば、その呪いを押し殺すまでだ。

俺は無理矢理ナイフに吸われる魔力を断つ。


そこで、いよいよ刃と刃が交差した。


あとは俺がやられたフリをして後退すれば……


「う、うぁあぁあああ!!!!!」



と思っていたのに。


待っていたのはよもやの結果だった。


……どういうわけか、クロレルがまっすぐ後方へと吹き飛んでいたのだ。

その衝撃は恐ろしいくらいのもので、次の瞬間には彼は結界を突き破って、観戦スタンドのフェンスにまで到達する。


衝撃波が起きて目を瞑ってしまったが、次に目を開いた時には、クロレルはそこで傷だらけになって倒れていた。


えっ弱すぎん?

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