第63話 親父はクロレルより俺を時期当主にしたいらしい


「で、親父。なんの話をするために呼んだんだ? 事情を聴くためだけじゃないだろ?」


遠回りなのがわずらわしくなって、単刀直入に聞いてしまう。

親父は一瞬とぼけたように目をまたたくが、顎に手をやり、うんうんと頷いた。


「やっぱり、アルバは察しがいいね」

「もういいよ、おだててくれなくても」

「そう急かすな。悪い話をしにきてもらったわけじゃないさ。もうこうなったら端的に言うが、クロレルが失政を繰り返して街の秩序を乱したことは耳に入っているだろう? 私の元にも事が大きくなってからその情報がもたらされた。あいつは失政を報告せず隠ぺいしていたんだよ」


やっぱりそれか、と思った。

前にセレーナが話していたとおり、これは最悪のシナリオへと向かっている。


「そこでだ、アルバ。お前の方はうまくやっているか心配になり、実はトルビス村の様子をこっそりと視察にいかせた」

「……もしかして、移住希望者の中に紛れさせてたな?」

「ほう、そこも見抜くか。いやはや、面白い施策をするものだと思ってね。物は試しと派遣してみたんだ。そうしたら、これが大絶賛だよ。

トルビス村はただ綺麗になるだけではなく、生活水準も文化レベルも大幅に引き上げられた。しかもアルバは希望者たちの心を一度に掴むほどのカリスマ性も見せたというじゃない?

これは、アルバとクロレルへの扱いを再考する大きなきっかけとなったよ」


俺はその先を聞きたくなくて、欲しくもなかった茶菓子を口に入れて、もさもさとかじった。

しかし、その宣告は待ってくれなかった。


「簡単な話、次期領主候補にはアルバを推す方向で進めたいのさ。分かるね?」


決定的な一言が飛び出して俺は盛大にむせかえる。


もっとも恐れていたことを、ついぞ言われてしまった。


親父は物腰柔らかな風だが、一度決めたら梃子でも動かぬ頑固さも持ち合わせている。

ただ断っても、受け入れてくれるわけもない。


俺はとりあえず反論を試みる。


「けど、それじゃあクロレルが納得しないよ。それに、さっき民衆の声も聞いたけど、みんなが今日の模擬決闘で決まると思い込んでいるようだし」

「……あぁ、その件か。あれはクロレルの奴が勝手に画策したものだ。本来なら効果はないし、中止にしたいところだけれど、それは無理そうなんだよね?」


俺もセレーナも、それには首を縦に振る。

さっきの街の雰囲気を見れば、いくら親父の一存だからと言って、納得してくれるかは怪しい。


「それにこの街の人は、ここで犯罪を繰り返した俺をかなり嫌ってるうえ、クロレルの悪政による被害を直接受けたわけじゃない。この街の人が、俺を次期領主に……なんて話、ただで受け入れてくれるとは思えないな」


俺は一気に攻めへと転じようとしたのだが……、親父はここで一つ咳払いを入れる。


「ふむ、それについてだが……。今日の模擬決闘に、なんとかして勝ってほしいのだ。そうすれば、アルバ。お前を嫌う民は当然まだまだ多かろうが、次期領主の座につく理由にはなるからね」

「いや、兄上の能力はかなり戦闘向きで強いですよ?」

「はは、魔法を使えないお前には荷が重いか。だが、どうにかお前には勝ってもらわねばならぬ、アルバ。そこでだ。大量の攻撃用魔導具を用意した」


親父が指を鳴らすと、奥からは使用人らがいくつもの武器の乗ったキャスターをこちらへと運んできた。

中には実際、魔物退治に利用されているような代物まである。


「これらを使ってでも、どうにか勝つんだ。お前は昔から物の扱いには秀でたものがあった。できるね? できない場合のことは考えていないよ。できた場合は君たちの仲も公的に認めるし、できる限りのはからいはしよう」


そして、これだ。潮目が完全に変わってしまっていた。


やはり親父は、一筋縄ではいかない。

セレーナのことを引き合いに出されれば、俺が「できない」とは言えないことを読んだうえで、そう持ち掛けてくるのだからこれ以上の反論はできなかった。


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