第20話 万能魔法でサントウルフを救う!


「サントウルフ。エメラルド色の毛並みに、一筋だけ入った白の模様。間違いないわ、数百年生きると言われてる幻の聖獣よ。これはその子供のオスね」


セレーナがすぐに鑑定をかけると、実際にそうだったらしい。


その名は、勉強嫌いの俺でも知っていた。


この世界には、瘴気を帯びる魔物もいれば、逆に光属性の魔力を帯びる聖獣もいる。

その中でもかつては人と共存し、繁栄したとされるのがサントウルフだ。


しかしある時からはその立派な毛皮を目当てに狩りがされるようになり、その数を大きく減らした。今や狩猟を禁じられているほど貴重な存在だ。


「昔は人間とコミュニケーションが取れたなんて伝承もあるそうだけど、今のサントウルフは敵意をむき出しにするそうよ。人間が自分たちに害をなす存在だって分かってるの。賢い生き物ね」

「うーん、それにしてはおとなしくないか? 誰かが飼い慣らしてたのかな」

「その線は薄いと思うわよ。せっかく見張り番にもなるのに、わざわざこんなゴミの下で飼う必要がないもの」

「となると、ちょうどいい寝床だったのかも」


なるほど、賢いと評されるのも頷ける。


これまで捨てられては積み上げられる一方だった魔導具の山である。

その下を住処にすれば、たいていの脅威を凌ぐことはできよう。


だとすれば、無粋な侵入者は俺たちの方だ。


なにより相手が狼といえど、俺はその眠りを妨げてしまった。


自分がされるとなったら、たぶんかなり不機嫌になってるね、うん。


「えっと、とりあえず……まだ余ってたよな? クロツキノワの干し肉」

「えぇ、あまりすぎて困っていたくらいよ」

「じゃあ、寝床を作って餌をおいて、そっとしておこうか。暴れられても困るし、大カゴの中にいてもらうとしよう」


俺は集会所へと戻ると、すぐに鉄製のカゴを『有形創成』によって生成する。

サボりばかりを極めてろくに特訓してこなかった俺だが、実践する中でだんだんと慣れてきていた。


単純な構造である鉄柵くらいなら、あっさりだ。

なんなら、落ちていた錠をそのまま利用して扉を作る余裕もあった。


だがそれを引きずってサントウルフのところへ戻ると、どうも様子が変だ。


「寝てたわけじゃないみたいよ。調子が悪いみたい。ずっと小さくうめいてたもの。ほら、目も一応開いてるわ」

「……弱ってるってことか」

「うん。『状態鑑定』もしてみたけど、間違いないわね。原因は、ほらこれ」


セレーナはサントウルフの両足に手をかけ、仰向けに返す。

すると、お腹が凸凹に出っぱっていた。

立派に生えた柔らかな毛の上から触ってみれば、ゴリっと固い。


「魔導具のなにかを食べたんだな」

「そうね、魔導灯みたいよ。下手に動かせないわね、もし割れた破片が中で刺さっていたら、大変だもの」


セレーナの的確な分析により、その場にいた数人の間に落胆の空気が流れる。


そんななか俺は一人、合理的判断と自分の思いとを天秤にかけていた。


本来なら、その強靭な手足や牙でもって、人を襲うほど凶暴性のあるサントウルフだ。下手に助けて暴れられたら敵わない。


判断に迷っていると、


「くぅ…………」


サントウルフがか細く鳴いた。

そのつぶらな輝きを持つ瞳で俺を懸命に覗き込んでくる。


はたして、これが決定打であった。


後先考えるのはやめだ。なにか起きたら、あとで責任を取ればいい。


俺は鉄カゴを脇に置いて、一歩前へと出る。


「まさかヒールスキルでも使えるの?」

「いいや、俺はスキルの類は何にも持ってないよ。こんな状態に使える薬草も今はないし」


でもその分、属性魔法なら有意に操れる。


俺はぐったり横たわるサントウルフの前に屈むと、その腹部分に手を当てた。


そこへ加えていくのは、『風』の魔力だ。


俺はそれをじっくりとサントウルフの体内へと浸透させていく。

魔力の先に意識を向ければ、それが触れているものの全容がだんだんと分かる。


一部が欠けた魔道灯を見つけた俺は、そこに魔力を集中する。


少しもサントウルフにダメージを与えないためだ。


そして万全の準備ができたのを確認したら、拳を握ることをキーに、風属性魔法を発動した。


胃の中から鈍い音がする。

同時に大きく膨れでていた腹が、だんだんと収縮していく。


少なくとも、やりたいことはできたようだ。

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