【3/22書籍化!】落ちこぼれ次男は辺境で気ままな開拓生活を送りたい〜追放先で適当領主としてのんびり暮らすはずが、気づけば万能領主と呼ばれることに〜【新人賞受賞】
第1話 身体が入れ替わってたら罪を着せられて、戻ったら追放された
【3/22書籍化!】落ちこぼれ次男は辺境で気ままな開拓生活を送りたい〜追放先で適当領主としてのんびり暮らすはずが、気づけば万能領主と呼ばれることに〜【新人賞受賞】
たかた ちひろ
1章
第1話 身体が入れ替わってたら罪を着せられて、戻ったら追放された
「残念だが、アルバ。お前をここに置いておくわけにはいかなくなったよ」
父からそう告げられるのを、俺はずっと心待ちにしていた。
残念だなんて思いはみじんもない。
やっと、やっと念願が叶った。
ここ数ヶ月、祈るような思いで待ち続けて、ついにこの日がきたのだ。
許されるならありったけの力で大跳躍を決めて、握り拳を掲げたかったが……それは少し先に取っておく。
まずは空気を読まなければなるまい。
「理由は分かるね、アルバ」
普段は温厚に振る舞う父の言葉にも、さすがにとげがある。諌めるように声を低くして言う。
それに対して俺はいかにも悲しそうな、今に泣きそうな面を作った。
粛々と、この通告を受け取るために。
「……はい、分かっております」
「城下での恐喝、酒乱による器物破損、盗み――。挙句には、自分の進路に立っていたからという理由だけで婦女に暴行も加えたそうじゃないか。
ここ最近は反省が見られるようだが、この数々の蛮行はいかに私とて庇いきれなかった。お前には期待していたんだけどね……。これ以上、お前を貴族の表舞台に置いていたら、我がハーストン家の品位が地に落ちる」
うん、そりゃねぇ。
こうして改めて列挙されれば、さすがに酷すぎる。
俺が辺境伯家の人間でなかったら、即お縄になって、しばらくは暗く寒い牢獄生活を強いられるに違いない。
なぜこう他人事みたいに言うかと言えば、本当に他人事だからだ。
今挙げられた罪はすべて、俺が犯したものではない。
だがそれでも、俺は神妙な顔で父の話を聞く。
「アルバ、お前にはこのハーストン城下の地を出てもらう。代わりにお前には、領内の辺境地の開拓努めてもらう。トルビス村だ。ここがどんな地か知っているな?」
「トルビス……北方の山間地域にあるとは存じておりますが」
「そうとも。トルビスは都市ではなく、完全なる未開拓地だ。最近では、荒れ地になってもいる。アルバには、この地の開拓と整備に努めてもらう。サポートもつけず、一人でやってもらうよ。いいね?」
「……はい、かしこまりました」
俺は沈痛そうに装って顔をうつむけるが、その下では思わずにやけてしまった。
願ってもない展開だ。
未開拓地であるならば、他にうるさく言う役人などはいないに違いない。
となれば、なにに縛られることもなく、自由気ままに暮らせるかもしれない。
日がな野原に寝そべって過ごす最高の一日――、そんな青写真を頭に思い浮かべる。
「これは罰だ、アルバ。逃げ帰ってくることは断じて許さないよ。死んでしまったのなら、それはそれだ。理解をしてくれ。そうしなければ、我が家の面子が立たないの。すまないね」
辺境伯として、貴族社会の中で生き抜いてきただけのことはある。
父の言いようは、かなり厳しい。
だが、理想郷を思い浮かべて心が浮ついている俺にはいっさい響かない。
追放先がどこだろうと、どちらにしても辛気くさい貴族社会とおさらばできることには清々する。
なにより次期領主候補を外れることほど嬉しいことはない。
父の様にこれから何年も働き続けるつもりもなければ、権力を保つための人付き合いも、俺の性に合わないのだ。
「はい、かしこまりました」
訓示を受けた俺は、深々と頭を下げる。
そうしつつ、あと少しで全てから解放されるのだと密かに心の高まりを感じていた時だ。
ちょうど背後の扉が開いた。
「まぁ当然の処遇だな、アルバ。お前には下民どもと未開の地で暮らしてるのがお似合いだ」
その声は耳障り極まりない。
せっかく幸福な気分だったのに、一挙に台無しにされた気分だ。
俺は仕方なく、後ろを振り返る。
そこにいたのは、実兄であるクロレル・ハーストンだ。
「……クロレル」
「おっと、ちゃんと敬称で呼んだほうがいいぜ? 忙しい中、わざわざ見送りに来てやったんだからよぉ。
罪を犯して辺境地に飛ばされるお前と違って、優秀なお兄様は主要都市の統括を任されてるんだぜ? はは、1歳しか違わねえってのに、すごい差だな」
クロレルは高い背丈から俺を見下ろして、鼻で笑う。
嫌味ったらしい最低な性格だ。
今だって、追放される俺を馬鹿にする為だけに自分の屋敷からこのハーストンシティまでやってきたのだろうから、分かりやすい。
だが、こんなクズでも貴族の社交界においては令嬢からの人気を集めている。
その理由は、彼の圧倒的に恵まれた容姿にある。
無駄なほどに透き通った印象を与える銀髪、やたらと怜悧に見える青色の瞳――。そして、それら全てを完璧に見せる高身長。
父も、今は亡き母も同じ。
腹違いでもない兄弟なのに、俺とはつゆほども似ていない。
髪や目の色こそ同じなのだが全てが異なる。自分で言うのもなんだが、俺はなんの変哲もない超凡人な見た目をしているのだ。
クロレルの横に立って、ただの従者に間違えられたこともあったっけ。
「おぉ、怖いねぇ。これだから野蛮な人間は。それにしても、一般人に暴行を加えるなんて考えられないな。ただでさえ生き恥を晒しているカスだと言うのによ」
黙り込む俺に、クロレルが自慢げに見せつけてくるのは、左手首に浮かぶ炎の紋章だ。
それこそが、18歳になると発現する魔力を持つ証であり、貴族であることの証――。
そのはずなのだが、今年で18歳になった俺に、その紋章はない。
「貴族だというのに、魔法の一つさえ使えない無能とは笑わせるよなぁ。魔法詠唱のメモ帳なんか作ってたみたいだけど、使えないんじゃ意味ねぇなぁ。無能さんよ」
「……うるさい」
「おぉ、怖い怖い。生きてるだけで恥だと言うのに、犯罪まで犯す奴は野蛮で嫌だね。
そんな奴と血がつながっているとさえ思いたくないぜ」
クロレルはお手上げだと言わんばかりにため息をつく。
が、とんだ猿芝居だ。
なぜならば、俺がやったとされている蛮行の全てを行ったのは、実際にはこの男である。
綺麗な容姿に比して、心の底まで腐りきっているのだ、こやつは。
弟である俺の評判を下げることで、嫡男としての自分の地位を確固たるものにしたかったのだろう。
彼が俺の身体を使って行った数々の狼藉は、傍から見ていても容赦がなかった。
問題はなぜクロレルが俺の身体を使うことができたか、という点だが……
これについては、いまだに原因ははっきりとしない。
ざっくりと言えば、摩訶不思議な怪奇現象が起きたのだ。
はじめこそ、こんなことはあるわけがない! デタラメだ! と思ったが、起こってしまった以上は、その現状を受け入れるほかなかった。
2週間前まで俺たち兄弟は、中身が入れ替わっていたのだ。
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