第13話 暴走

【雄太 視点】


 朝ご飯を食べたあと、俺は制服に着替えて学校に向かう。


 昨日は彩乃とラブホテルの中でプロレスごっこをした。

 連続で10回もしたから流石に疲れたよ。

 まだ腰が痛い。けど、最高に気持ち良かったなぁ。


 ずっと彩乃のことを考えているうちに、学校に到着した。

 俺は教室の中に入って自分の席に座る。

 ボーっとスマホをイジッていると、真奈美が話しかけてきた。


「雄太くん、おはよう」

「え? あっ、うん、おはよう、真奈美」


 俺の顔を見て、真奈美はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 何か企んでいるように見えた。

 ん? なんだ? 今日の真奈美はちょっとだけ変だな。何かあったのかな?


「ねぇ雄太くん。私ね、君以外いらないっ」

「え……?」

「友達なんかいらない、お父さんもいらない、お母さんもいらない。雄太くんさえいれば何もいらない」

「ま、真奈美……?」


 コイツ、さっきから何言ってんだ?

 左右に首を動かすと、真奈美の発言に色んな生徒が困惑していた。

 呆気に取られている俺を無視して、真奈美は話を続ける。


「雄太くんっ、好きっ。大好きっ。愛してるよっ」


 真奈美はそう言って俺の唇を奪ってきた。

 真奈美の大胆な行動に俺は目を見開く。

 他の生徒たちも驚愕に満ちた表情を浮かべていた。

 

 俺と真奈美の関係は中学の友達と彩乃しか知らない。

 そう、クラスメイト達は俺と真奈美が付き合っていることを知らないんだ。

 だから、チュッチュッとキスしている俺と真奈美を見て、クラスメイトたちは驚きを隠せずにいた。

 唇を離すと、ドロッと透明な唾液が引いていた。


「ま、真奈美……何してんだよっ。みんな、見てるぞ?」

「いいじゃん、私たちがイチャイチャしてるところ皆に見せつけよう」

「……」

「みんな見て~。私と雄太くんはね、付き合ってるの。いつもこんなことしてるんだ」


 真奈美はそう言って俺の側頭部を掴む。

 そして、また自分の唇を俺の唇に押し当ててきた。


 真奈美が俺の口内に舌を入れてきた。俺は彼女の舌を受け入れる。


 真奈美は男子生徒に大人気だ。

 今月もこの学校の同級生と先輩に告白されたらしい。

 男子生徒の間で行われた『ヤりたい女の子ランキング』で真奈美は二位だった。ちなみに、一位は彩乃だ。


 男子生徒たちに大人気な真奈美が俺と楽しそうにキスしている。

 それを見て、男子生徒は絶句していた。

 女子生徒は「きゃぁぁっ」と黄色い悲鳴を上げている。

 全員、俺と真奈美に無我夢中だ。

 俺たちはそっと唇を離す。


「ふふ、学校でキスすんの興奮するね」

「……」

「ねぇ雄太くん、もう一回キスしよっか」


 また真奈美が俺の唇に顔を近づける。

 もうすぐ俺と真奈美の唇は重なる。はずだった。

 俺と真奈美の唇が重なる前に、一人の男子生徒が俺たちに疑問を投げた。


「真奈美ちゃんっ、雄太ソイツと付き合ってるのか……?」

「うん、そうだよ。アタシと雄太くんはラブラブなんだ」

「そ、そんな……」


 真奈美の言葉に男子生徒たちは絶望に染まった表情を浮かべる。

 俺に殺気を向けてくるヤツもいた。

 真奈美はトロンとした目を俺に向けてくる。


「雄太くん、好き。世界で一番好き……。君さえいれば何もいらないっ」


 真奈美はそう言って俺の唇を奪う。

 また俺たちの唇が重なったのだ。


 ただ唇を合わせるだけのキスじゃない。

 舌を絡め合う熱くて濃厚なキスだ。

 

 熱いキスをしていると、真奈美の口元から涎が垂れる。

 その涎は教室の床に零れ落ちる。


 何十秒も真奈美とキスしていると、教室全体にパシンと乾いた音が鳴り響く。

 それと同時に真奈美は床に倒れ込んだ。


 誰かが真奈美の頬を叩いたんだ。

 一体、誰が真奈美の頬を叩いたんだ? 

 

「アタシの雄太に触らないでっ!!! このクソビッチ!!」


 突如、横から女性の怒鳴り声が聞こえてきた。

 横を振り向くと、制服姿の彩乃がいた。

 彩乃は鋭い目で真奈美を睨んでいる。

 

 たぶん、彩乃が真奈美の頬を叩いたんだろう。

 彩乃は真奈美から俺に視線を移す。


「なんで真奈美ちゃんとキスしてんの?」

「それは……」


 彩乃の言葉に俺は黙り込む。


 俺は彩乃と付き合っている。真奈美は過去の女だ。

 なのに、どうして俺は真奈美とのキスを楽しんでいたんだ……?

 黙り込んでいる俺を、彩乃は冷たい目で睨みつける。


「雄太の彼女はアタシだよ? 雄太はアタシのモノなんだよ? なのに、どうしてこの真奈美クソビッチとキスしてんの!?」

「ごめんっ、彩乃……」


 俺がそう言うと、彩乃の表情は冷たくなる。

 目は真っ暗に染まっていた。


「雄太は本当に最低な人間だよっ。クズすぎるよっ……けど、そんなアンタが好き。大好きっ。世界で一番愛してるっ」

「っ……」


 彩乃がちょっと強引に俺の唇を奪ってきた。

 彩乃は意図的にチュッチュッとリップ音を鳴らす。

 イチャラブしている俺と彩乃を見て、他の生徒たちは困惑していた。


「雄太は真奈美ちゃんと付き合ってるんだろ……? なのに、どうして彩乃ちゃんとキスしてんだ?」

「もしかして、浮気……?」


 困惑している生徒たちを無視して、俺たちはキスを楽しむ。

 やっぱり、彩乃とキスするのは最高だ。

 どんどん頭の中が蕩けていく。


 もっと彩乃がほしいっ。

 もっと大好きな女の子の肌を感じたい。

 真奈美のことを忘れて彩乃とキスしていると、パシンと乾いた音が俺の耳を劈く。      

 それと同時に彩乃は床に倒れ込んだ。

 真奈美が思いっきり彩乃の頬を叩いたのだ。


「私の雄太くんに触るなぁ!! このクソビッチぃぃ!!」


 真奈美はそう言って彩乃を睨みつける。

 彩乃は真奈美を睨み返した。


「なんでっ……なんで真奈美おまえはアタシと雄太の邪魔ばっかりするの!? マジでウザいっ! 消えろぉぉぉ!!」


 彩乃は床から起き上がり、思いっきり真奈美の顔面を殴る。

 すると、真奈美の鼻からボトボトと血が出てくる。

 真奈美は鋭い目で彩乃を睨む。


「何すんだよっ!! このクソ便器っ!!!」


 真奈美は彩乃の顔面に向かって拳を振るう。彩乃は真奈美のパンチを華麗に回避した。

 そして、また彩乃は真奈美の頬を叩く。

 何度も、何度もビンタする。

 ペシン、ペシン、ペシンと教室全体に乾いた音が鳴り響く。

 どんどん真奈美の顔は歪んでいく。


 二人の喧嘩を見て、俺は混乱する。


 コイツら、何してんだっ……。

 みんな、見てるんだぞ……?


 左右に首を向けると、色んな生徒が彩乃と真奈美を見て困惑していた。

 生徒たちの目を気にせず、彩乃と真奈美は殴り合いを続ける。


 慌てて俺が「二人とも、もうやめろっ!」と注意しても二人は喧嘩を止めない。

 しばらくして担任の先生が教室にやってきた。


 今も喧嘩している彩乃と真奈美を見て、担任の先生は驚愕に染まった表情になる。

 不味いっ、先生に見られたっ……。


「お前らっ! 何してんだぁぁぁぁぁ!!」


 先生は怒鳴り声を上げる。

 そして、すぐに彩乃と真奈美は職員室に連れて行かれた。



 ◇◇◇



 ――一週間後――




 朝ご飯を食べたあと、俺は制服に着替えて学校に向かう。

 やっと学校に到着した。

 俺は教室の中に入って自分の席に座る。

 ボーっとスマホをイジッている俺を見て、クラスメイト達はソコソコと話し始める。


「おい、見ろよ。雄太が来たぞ」

「うわぁぁ……ヤリチンじゃん。キモっ」

「アイツ、彩乃と真奈美、二人と付き合ってるらしいぜ」

「なにそれ、浮気じゃん」

「最低だな、アイツ」


 あの事件のせいで、俺は『ヤリチン』や『浮気男』と呼ばれるようになった。

 色んな生徒が俺に冷たい視線を向けてくる。


 俺だけじゃない。

 彩乃と真奈美も『ヤリマン』や『クソビッチ』と呼ばれるようになった。

 真奈美と彩乃の机には『クソビッチ死ね』と悪口が書かれている。


 彩乃と真奈美は学校に来ていない。

 教室で激しい殴り合いをしたせいで、2人は停学になったんだ。

 外出も禁止されているらしい。

 

 クソっ、なんでこうなったんだ……。

 

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