アンダーグラウンド

タカ

第1話

2045年。

ムーンショット目標により、人間は身体の制約から解放される技術が完成した。

当初、人々は恐怖心からその技術を使う者は少なかった。


しかし、時が経つにつれて体の制約から解放される人間が増えていった。





俺もその中の一人だった訳だが、今では後悔している。

何故なら今現在、ゲームの世界に閉じ込められてしまったからだ。


そのゲームの名前はアンダーグラウンド。

このゲームは、プレイヤーが魔物になって守護者と呼ばれる存在が支配する世界から脱出するというものだ。


俺は、単なるVRサバイバルゲームだと思ってログインしてしまった。

それが運の尽きだった。




そして、俺以外にも不幸なプレイヤーは沢山いた。

そんなプレイヤー達は始まりの広場と呼ばれている石畳の広場を中心にして、その周りに自分の棲家を作り、魔物としての生活を始めた。


このゲームの仕様で空腹状態になるとHPが減り続け、いずれ0になる。

それは死を意味しているので、俺のような肉食の魔物の1日は狩りから始まる。


広場の周りは大きな木々が生い茂る森林地帯で、少し森を進めば弱い魔物が居る。

そいつらを狩って空腹を満たすと棲家に戻って時間を潰す。

俺のアバターは狼の魔物なので、気配を消して気晴らしに奥へ進むこともある。

だが戦闘は行わず、偵察して戻るだけだ。


そんな毎日を俺達は続けた。いつか助けが来ると信じて。


しかし、そんなものは来なかった。

来るのは俺達と同じ不幸なプレイヤーだけだった。




そんな毎日が続いたある日の事。

いつも通り俺が狩りに向かおうと棲家から出ると、広場の方から女の声が聞こえてきた。


「皆さん!助けを待つのではなく、力を合わせてここから脱出しましょう!」

見ると広場の中心で1匹の赤い狼が他の魔物達を説得していた。


だが結果は芳しいものでは無さそうで、野次が飛んでいるのが分かる。

そして最終的には彼女の声に耳を傾ける魔物は居なくなり、それぞれの日課をこなし始めた。



「何で分かってくれないの…」


「みんな死にたく無いんだろ」

しょぼくれた狼を放置するのも後味が悪いので、俺は彼女に話しかけた。



「確か…黒さんでしたね」


「さんはいらない、敬語もいらない」


「じゃあ黒、貴方の言っている事は分かるけど、このままだと此処から出る事はできないわ。それなら皆んなでここから出る為に守護者を倒すべきじゃない?」


「そうだな、赤の言っていることは正しい。そして皆んなもその事に気づいてるんだろう。だが、赤と違って彼らは未来よりも今が大事って事だろう。人間なんてそんなもんさ」

そして森に入って戻って来ない魔物達を見ているのも原因の一つだろう。



「それならどうしたらいいの…」


「とりあえず、頭で考える前に行動してみたら良いんじゃないか?」


「…それもそうね」

そう言うと彼女は広場から離れていく。その途中で立ち止まり、振り返って一言。



「そこまで言ったなら手伝ってくれるわよね?」


「…分かった」

手伝うつもりで話しかけた訳ではなかったが、俺もこのままでは埒が開かないと思っていた所だったので手伝う事にした。



それにしても、もう少しマシな頼み方があるんじゃないか?

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