走れ! 〜臆病な青柳梓の鉄道旅行記〜

実話空音

第1話

鉄道メモ1

 関東史上最強ローカル路線。久留里線。

 久留里線。営業係数15000の大赤字ローカル路線である。その理由として、盲腸線であることが考えられる。終点、上総亀山。そこは山中にあるくせに、他の鉄道との接続が一切ない。というより久留里線自体が始発、木更津駅を除いて、他路線と接続がない。そのため非常に不便な路線だ。どうしてこんな盲腸線が出来てしまったのか。じっくり、路線図を見ればその答えは見つかる。こんな赤字路線でも、何か思惑があって作られたのだ。そしてこんな赤字路線でも、作った町がある。確実に。


 茅野ちゃんが行方不明になった。

 中学の修学旅行で、京都に行った時の話である。


 大丈夫。怖い話ではない。

 だって、その後、すぐに茅野ちゃんは大垣にいたことが判明したのだから。

 誘拐とかではない。自分の意思で大垣に行っていたのだ。


 二日目は、班による自由行動。

 それぞれ、時間までにホテルに帰るように。そう言った。

 そして茅野ちゃんは、同じ班のメンバーに「私は別行動するから」と言ってそのまま単独行動をした。


 班のメンバーは誰もそれを止めなかった。むしろ、茅野ちゃんは班のメンバーから嫌われていたのだから喜んでいたのかもしれない。


 そして夕方。時間になっても茅野ちゃんはホテルに帰ってこなかった。

 先生は一生懸命、茅野ちゃんに電話。だけど繋がらない。校長先生が、これは明日のニュースになるかも、ヤバイと顔が青ざめていた。

 私、その発言にがっかりした。誰も茅野ちゃんのことを心配していないんだね。結局自分の保身ばっかり。


 みんなは、茅野ちゃんのことを忘れて、ワイワイ。夕食。

 誰も彼女を心配する人はいなかった。


 だけど、私だけ。私はどうも食が進まない。茅野ちゃん大丈夫かな?

 不安になる。


 夕食の時間から1時間経った頃。ホテルの入り口に茅野ちゃんがいた。驚いた。

 行方不明だった彼女は、怪我ひとつなく元気そうにしているから。


「どう? 先生たち騒いでいる?」


 その時、私は初めて茅野ちゃんと喋った。

 同じクラスなのに、そういえば茅野ちゃんの声、知らなかった。


 私は頷いた。

「あーヤバいな。いや、あれよ。本当は岐阜から高山線、太多線に乗って可児駅まで行ってそこから名鉄に乗り換えて名古屋まで行って、そこから京都に帰ろうと思ったんだけどね。何か、線路トラブルで運悪く電車が止まってしまって」


 それで大垣で足止めを食らった……そうだ。

 私には分からない。どうしてこの子は、修学旅行が京都なのにそんな場所にいたのか。私は怪訝な目で彼女を見た。


「だって京都で観光とかつまらないじゃん」


 と、彼女は私の言いたいことを察したのかそう答えた。


「そんなことないと思うよ。色々なお寺とかあってさ」


「いや、でもそいつら動いたりしないんだよね?」


「はい?」


「だからそいつらって動いたりしないんだよね?」


 この子は一体何を言っているのか。私には到底理解が出来なかった。


「そりゃ、街は動いたりしないと思うけど」


「それだとつまらないでしょ。私は移り変わる街を見たいのに」


 そう言って、茅野ちゃんはグッと背伸びをした。


「ま、ちょっと怒られてくるよ」


 今思えば、それが茅野ちゃんとの最初の会話であったと思う。

 そして茅野ちゃんは先生の元へ向かうことに。本当に不思議な子だ。

 茅野ちゃんは鉄道好きな変わった女の子。私には鉄道好きというのが理解出来ないのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る