彼女が雀士に育つまで

作家:岩永桂

第01話 副露したら立直は出来ない

認知症予防、健康麻雀のその先に……

始まりは実父の認知症予防の為の通信麻雀対戦だった。

僕はスマートフォン、父はタブレットを駆使して、

同じ仏間に居ながら違う画面を見詰めると言う、

いかにも近代的な仕様で僕達は45分間の闘牌に興じていた。


僕が開始して直ぐに注目していたことがある。実母の存在である。

彼女は実父を援護するべく、アドバイス的なコメントを矢継ぎ早に残して行く。

それは対戦者の僕にとっても有意義な情報だったので

本来はお口チャックでお願いしたかったが

三人目の参加者になるべく素質を、その頃から感じていた。

実母はしきりに立直を掛けたがった。例え、実父が副露していても、だ。

※副露した状態では、立直は宣言出来ない仕様。

立直は聴牌の時にだけ許された戦法で、「リーチ 」と読む。

聴牌はあと1枚で手牌が完成する状態。「テンパイ」と読む。

副露はポン、チー、明カンをすること。「フーロ 」と読む。


立直は絶対+1翻と言う評価点が付くが、

麻雀には時に0翻と言う評価点しか下らない場合もある。

上記の副露をみだりにおこなったり

一生懸命手作りしても、評価に繋がらないことも。

故に実母の立直至上主義は理に叶っていると言える。


しかし、彼女の関心を他所に、実父は副露をかましまくる。

実父は混一色と言う限定役を好んで作り

その破壊力は時に凄まじいのだが

ガードを思い切り下げて戦うような戦術なので

相手に見切られ、カウンターを喰らい易い。

前半は実母を主人公に、

後半は実父を主人公にしても遜色は無い気がする。

先ずは若かりし頃に、セブンブリッジで鍛えた数字力。

実母の数字構成力にスポットを当てて行きたい。

彼女はひたすら順子(=シュンツ)と言う

女性の名前みたいなのを集めたがる。

その作戦は間違ってない。実戦を見て行こう。

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