凄腕ハンター赤ずきんは奥手なstalkingオオカミ(人狼)から襲われたい
柴犬丸
第1話 襲いに来るならさっさと来い!
私は目がいい。
なので見えてしまうのだ。
ここ一年間ずっと私につきまとっている灰色の髪の人狼のオスが。
「今日もいる」
向かいの山、木立の影に隠れるでもなく。
チラチラチラチラこちらを覗っている。
悪いけど、私には全部見えてるんだけど。
こちらが人間だから気づかないって思ってる?
あんまり私をなめないでほしい。
襲いに来るならさっさと来い!
****
「おばあさま、今日も人狼がいたよ」
森で一人暮らしをしている祖母の元へ私はそう報告した。
「おやおや、リリィは可愛いから気をつけないとダメだよ?」
「うん」
そう言っておばあさまは愛用の猟銃に手を伸ばし、黙々と整備を始める。
おばあさまはこの森最強のハンターだ。
この童話の森に住む住民は皆おばあさまの事を尊敬しており、隣の村の村長だって一目置く凄い人なのだ。
もちろん私もおばあさまみたいになりたくて日々ハンターとして修行の毎日を送っている。
「嫁に欲しいなら、欲しいってきちんと頭を下げて人の村に来なくちゃ駄目。そもそも挨拶にも来れないような気の小さい人狼にうちの可愛い孫は絶対にやらないんだからね」
そう言っておばあさまはいつもプンスカ怒っている。
気にするとこってそこなの?
孫の私を可愛がってくれる大好きなおばあさまなのだけれど、ちょっと孫贔屓過ぎるんじゃないかなあ?
「おばあさまったらまたそんな事を言って…あの人狼が私の事をお嫁さんにしたがってるかどうかも分からないじゃない」
「いや、あれはあんたに懸想してるね。間違いないよ」
「そうかなぁ」
「そうさ! アタシが間違った事を言ったことがあるかい?」
「…ない」
最近、こんな風にすぐに私の結婚話が話題に上がる。
おばあさまの許しがなけりゃ私の結婚は相手が誰だろうと絶対に成立しないのだけど…。でも、裏返せばきちんと挨拶に来られる人狼であれば嫁にやっても構わないともとれる遠回しなコメントとも言う。
ここは童話の森。
人間の他に妖精や精霊、ドラゴンなんかも棲んでいるので人狼はわりとメジャーな存在。異種族間結婚だって珍しくはない。どこかの国ではこの森をモデルにしたお話が作られているとかいないとか。
私はリリィ。14歳、人間。
小麦色の髪をゆるくまとめた2本のおさげに空色の瞳。赤いフード付きのケープがトレードマークの元気で明るい女の子。
最近の悩みはもうすぐ誕生日が来て成人を迎えること。
年頃の乙女の願いといえば思い当たっていただけるとは思うのだけれど、お察しの通り生涯の伴侶の件だ。
(はあ…、嫌だな)
成人を目前にして、両親や家族、村のみんなも私の婚姻のことばかり話す。
「そろそろリリィちゃんもお年頃だね」
「お父さんにいい相手を見つけてもらわないとね」
「リリィちゃんがお嫁に行っちゃったらさみしくなるなぁ」
大きなお世話である。
小さな村でろくに娯楽もないものだから、こういうときは村人の好奇心を一身に受けてしまうんだよね。
私の村には同じくらいの子供がほかにいないので、今すぐ結婚を言い渡されることは無いと思うのだけれど、誰かが持ってきたどこかよその村からの縁談が突然舞い込んでもおかしくない。
(きちんと恋もしたことないのに)
贅沢な悩みだって分かってる。
恋物語のように大恋愛ができるなんて思っていないし、この村で恋愛結婚をした夫婦なんて数えるほどしかいないのも承知の上だ。
でも、ちょっとくらい夢を見たっていいじゃない。
あの私につきまとっている人狼は、もしかしたら本当に私に恋い焦がれているのじゃないか~とか。種族の壁を気にして遠くから見守ってるんじゃないか、とか。
ずっと遠巻きにしているから正確には分からないけれど、長身ですらりとした手足、腰まである灰色の長い髪。顔の造形までは正直分からないけれどたぶんイケメンだと思う!
人間の雌は15歳になったら成人とみなされて縁談が舞い込むんだけれど、あの人狼はそのことをちゃんと分かっているんだろうか…。
イライラする。
おそらくだけれど、一年くらい前から彼は私の側にいる。
彼が現れてからこの近辺の森には野生の狼を見かけなくなった。ずっと つきまとわれても嫌な感じがしないのは、たぶん向こうは私を守ってくれているつもりなのだと思う。
正直今のままでもありがたいことなのかもしれない。
でも、それとこれとはまた別だ。
まだあの人狼の顔もきちんと拝んでいないんだもの。
名前だって知らない。
出会い以前!
この関係が恋に発展するかしないかなんてそれ以前の問題だ。
うちは代々優秀な猟師の家系なんだから、そっちが来ないなら、こっちから行ってやる。
アグレッシブな赤ずきんをなめないでよね。
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