第五話 安全保障理事会
ICAの大規模軍事攻撃をうけて、国連では緊急の国連安全保障理事会が開催されようとしていた。
名だたる各国から代表が招集され、各々の席につく。
プレイスランドのルスタ・グロウリー議長が今回の概要について説明する。
「今回行われた国際企業連合ICAの大規模軍事攻撃だが、これは海賊対処活動に対して行われた民間武装組織の結成に対する国連の特例承認を濫用した侵略の可能性がある。証拠については未だネット上で公表されていないが、その有無に関わらず、国連への報告も一切なく電撃的かつ恣意的なこの攻撃はボジル国の主権と領土の一体性を著しく侵害する可能性が高く、民間人の死傷者が出たという報告もあがっている。また、今回完全自立型無人機という人間の最終決定を伴わない兵器が大量投入されたことについても懸念するところである。これについて各国の意見をお聞きしたい。まずは、フェザストュール国から。」
フェザストュールの代表 フォルソ・フォルニコスが資料を見て答弁する。
「今回の軍事攻撃は背景が不明なものの、非常に懸念するところであり、動向を注視しています。我々はICAの今後の発表を待つべきかと考えます。」
続いてミネリヴの代表が発言する。
「我々は中立の立場だが、ICAの今回の軍事的制裁は、もはや越権行為と言わざるをえない。今はICAに自制を促し、これ以上の暴走を食い止め、綿密な調査と交渉で、安全保障理事会として平和的解決を目指すべきである。」
ここでスズトニアの代表、ラル・バルクホルンが挙手をする。
「我々は概ねICAの軍事的行動を支持する。」
議長とコーランドの代表の眉がピクリと動き、怪訝な表情をする。
フェザストュールとミネリヴの代表は興味深そうに少し前のめりになる。
「我々スズトニアはICAの軍事的制裁は国連の承認の範囲内であると解釈する。国連への事前通告を怠ったことは懸念すべきところだが、長年苦慮してきた海賊対処活動の根源を解決しようという試みは、国際秩序と経済発展に大きく寄与するものである。スズトニア政府としては、海賊対処活動並びにその根本的解決までをICAに任せてみてはどうかと考えているのだが、、、」
「占領された領土はどうするのだね?」
腕を組んだフェザストュールの代表がスズトニア代表に目をやり、鋭く問う。
「国連の管理下に置かれるまではICAが政治的空白を埋める働きをしてくれるものと期待している。ICAは昨今から〘人にも地球にも優しい都市〙《Kind To Both》を目指した構想がある。我々はICAに先進的な技術と構想の面で学ぶべきところは多い。我々はICAにこれからの人類発展につながる都市開発モデルを示してほしいという考えもあるのは事実だ。」
と手を広げ他の代表に訴えかける。
アニョハ代表のイニョシ・マタンゴが苦言を呈す。
「スズトニアがICAを高く買っていることは分かった。だが、それは表向きで、裏ではICAとの特別な関係が構築されているという懸念があるのは周知の事実だ。ICAではスズトニアの軍事企業の兵器が一部使われ、総裁がスズトニア人で3代連続で選出されるという事態も起こっている。これは癒着していると考えない方が可笑しいと思うが、、、」
スズトニア代表が、
困ったように顔をしかめ、
「そのような事実はない。陰謀論を助長するだけだ。」と
一蹴する。
コーランドの代表、アールス・サグロスは
少し声を荒あげて
「ICAとスズトニアの癒着については分からないが、ICAの軍備拡張は元々国際社会で懸念されていたことだ。それに、自立型無人兵器という戦争を助長する兵器の積極使用は断じて認められない。」
だがスズトニアのラル・バルクホルンは努めて
冷静に「ICAの軍備拡張は海賊勢力の拡大に伴って致し方なかったことだ。それに、自立型無人兵器の登場は、双方の戦闘員の死傷者数を激減させ、安全に攻撃できるゲームチェンジャーとなることに我々は大きく期待している。」
スズトニアのラル・バルクホルンはそう演説し、話を締めくくった。
評決の結果、スズトニアが拒否権を発動し、ICAへの国連安全保障理事会としての関与は行われないことになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます