第8.5章 ー翠の記憶【その別れは突然に】ー
セツナはアダムス要塞内の後方支援にまわっていた。総司令部室に続く廊下の守備についている。次から次へとニンゲンヘイキの波が押し寄せて来た。セツナはライフル銃と二丁拳銃を状況に応じて使い分け、何とか奮戦していた。仲間の隊員が隣で敵のライフルに撃ち抜かれ倒れている。
「クッ!!」
セツナは応戦しながら思う。
『明日の日の出と共にイド帝国に進行予定だった・・・その前夜に大量のニンゲンヘイキの奇襲!?
どう考えても話が出来過ぎている・・・スパイがいたのか!?それとも身内に裏切りものが!?』
そんな思考の迷路に迷い込んでいたセツナに、目の覚める様な叫び声が聞こえた!
「セツナ!!ボーっとすんな!!」
声の方を振り向くとニンゲンヘイキが剣を振り上げていた。
その胴体を斜めに太刀筋が走る。敵の胴体は斜めにずれて、下半身から落ちた。
「タチカゼ!・・・ゴメン、ありがと。前線はどうなってるの!?」
「多分もうダメだ・・・第3前線部隊も、もうすぐ突破される・・・今回の戦は俺達の完敗だ。」
「そんな・・・!」
「それよりキバ兄を見なかったか!?突然指揮官がいなくなって前線部隊はガタガタになっちまった。
そこを突かれた!」
「頭が!?こんな大事な時に一体どこへ!?」
その時、コツ、コツ、とゆっくりと廊下の奥から近付いて来る人影があった。
廊下の窓の月明かりに照らされて、現れたのはキバカゼだった。
「よう!・・・なんだ、セツナも一緒か」
「頭!!」「キバ兄!!どこ行ってたんだよ!?早く前線に戻って指揮を!!あんたがいなくてもう
ガタガタなんだよ!!!」
「・・・いや、このまま去ろうとも思ったんだが・・・タチカゼ、お前にだけはやっぱり最後に
会っておこうと思ってな」キバカゼはとても物腰柔らかく言った。
「は?何の話だよ?」タチカゼはキバカゼ意図が全く掴めない。
「俺はイド帝国に行く事にしたよ」
「な!?こんな時に一人で敵国に乗り込むっていうのか!?」
タチカゼの返答に一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐに笑い出した。
「ハハハハハハッ!!そういう意味じゃねーよ!イド帝国側に回るって言ってんだ、そしてこの
戦争をさっさと終結させる・・・」
「・・・頭?何、言ってんだよ?じょ、冗談だよね??」
セツナは訳の分からないという風に顔を歪ませながらキバカゼに聞いた。
「この顔、冗談言ってる顔に見えるか?」
キバカゼはまるで子供に諭す様、優しくに質問答えた。
「・・・何でだよ!?俺に言ったじゃねぇか!!そのカタナは誰かを守る為のカタナなんだろ!?」
「・・・その守りたい誰かが出来たのさ・・・だからタチカゼ、次会う時はどちらが本当に守りたいモノを守りきれるか・・・真剣勝負といこう!じゃあ、またな!」
キバカゼは踵を返した。
「そんなの・・・いかせる訳ないだろおおぉぉぉぉぉおお!!」
タチカゼはキバカゼに猛ダッシュで迫った。
するとキバカゼは体を捻りながらカタナを鞘の中で走らせ、正に『目には見えない』速さで抜刀しカタナを振り抜いた!すると数メートル離れてるはずのタチカゼの体に斜めの斬り傷が刻まれ、血飛沫が飛んだ。
「ぐわあああぁぁぁぁぁああ!!!」
タチカゼはそのまま地面に落ちた。カタナが手から離れ、コロコロと転がる。
「『不知火しらぬい流、抜刀・飛燕』だ。所謂いわゆる飛ぶ斬撃って奴さ。そういえばお前
にはまだ教えてなかったな・・・最後に教えられてよかった・・・」
キバカゼはカタナを収め、踵を再び返し歩き出した。
セツナは唖然とその光景を見ているしかなかった・・・だがハッとある事に気付き
「頭・・・いや、キバカゼ!!この奇襲もまさかあんたが!?」
キバカゼは何も答える事なく深い深い闇の中へと消えていった
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