第1章 タチカゼ、大地に立つ

『ジャポネカリア…』


ここは周りを海に囲まれた巨大な島国である。


この島国は今は3つの国から成り立っている。


1つは北にある軍事国家、『イド帝国。』


1つは南に位置する『ガルニア共和国』である。


この2国の間で領土や資源問題を巡り大きな戦争が起こった。


戦争は1年に渡り、徐々に互いを疲弊させていった。


決着の見えぬ戦争にお互い疲れ果てた両国は休戦協定を結び、互いに領土を侵略させにくくしようと緩衝国を新しく作る事で話はまとまった。


そして生まれたのが北のイド、南のガルニアの真ん中に出来た『ライカ自然保護自由自治区』である。


対外的には自然保護を目的として作られた事になっている。


だがイドには、ライカという国を作ったのにはもう1つ理由があった…


彼らは欲していたのだ、巨大な『実験場』を。


ガルニアとの戦争では間に合わなかったイド帝国の切り札、『キューブシステム』とそれにより造られた『ニンゲンヘイキ』の為の…


正にライカはうってつけの場所だった。


イドは今から3年程前、突如休戦協定を放棄しライカへと軍隊、つまりニンゲンヘイキを進軍させ始めた。


この状況にガルニアは手を出せずにいた。


ここでガルニアもライカへと進軍すれば最早緩衝国の意味が無くなってしまう。


そこでガルニアはライカの人民で構成された反帝国組織を作った。ガルニアとしては自らは手を下さず、あくまで裏からのバックアップだけを行うという形で体裁を保とうというのだ。


こうして後に『蒼の風』と呼ばれる反ゲリラ組織が誕生したのだった…


戦線は最初は完全にイド帝国が優勢であったがある事をキッカケに徐々に戦況は変化しつつあった。


そう、『覚醒者』という存在が…




##########




その3人は背丈くらいはある草牧に囲まれた歩道を歩いていた。


まだこのあたりは紛争の被害を受けておらず、綺麗に敷き詰められたレンガ畳の道が続いていた。


大男が1人、その前を似たくらいの背丈の男女が1人ずつ


というパーティーである。


男の方はツンツン頭の眼の吊り上がったいかにも悪ガキというような顔立ちで、半袖のフード付きジャケットを羽織り、ハーフパンツというラフな出で立ちだ。


女の子の方は髪は両方の小さ目のツインテールがぴょんぴょん跳ね、笑うと犬歯が見える小悪魔的な感じだホットパンツにアーミーの袖なしジャケットとアンバランスな恰好だ。


大男はザ・ボディビルダーという感じの隆々な筋肉にシャツの上から簡易的な胸当てとズボンに脛充てというこちらも軽装な装備である。




「あー、えーと…ランカンの実」


「ミカヘドロ」


「げぇ!なんでお前はあんな気持ち悪い虫の名前を平然と


言えるんだ!?」




タチカゼはセツナに詰め寄る。




「想像しなきゃいいだろ?うるさいなぁ」




セツナはダルそうに返す




「しちゃうだろ!?あんな独特で奇抜なフォルム、すぐぱっと思い浮かんじゃうだろ!?」


「あーはいはい。じゃあ勝手に想像して悶えててくださーい!次オッサンの番だぜ?」


「……あ?」


「おい、オッサン話聞いとけよ!次はミ、ミカ…へ、ヘドロのロだよ、ロ!!」




オッサンは呆れたようにため息をついた





「もう1時間はやってるぞ、しりとり。ガキかお前らは。」


「ガキじゃねぇよ!次の街での飯の奢りがかかってんだ!


絶対に負けられねぇ戦いがここにあんだよ!!」


「アタシも奢りなんてゴメンだね、というかこんな奴に負けるのがプライドが許さない」


「こんな奴だぁ!?お前、俺はお頭だぞ!?頭領だぞ!?


お前達の親分なんだぞ!!?」


「あーはいはい。よ、親分!お頭!大頭領!」


「きーっ!!少しも心込もってないじゃない!!」


「もういい、飯代は俺が払ってやるよ。」


「オッ…オッサーン!!」




タチカゼとセツナは同時に声を上げた、嬉しそうだ。




「そんな事よりセツナ、真面目に探せ!『覚醒者』探しはお前の翠の眼が頼りなんだ。」


「へいへい、人使い荒いんだから。だいたいそんな簡単に


見つかるものじゃないから!常に集中してレーダーを張り巡らしてなきゃいけないんだぜ?いかに神経を削る作業かオッサンわかってる!」


「しりとりしてたじゃねぇーか?」


「シッ!」




急にセツナの顔付きが変わる




「700メートル先、誰か近づいてくる」


「ニンゲンヘイキか!?」




タチカゼは腰に差したカタナの柄に手をかける。




「いや…これは…200…100…来る!」




身構える3人。


すると草むらから男がふらふらと倒れ込むように出てきた。


敵では…ない?


どうやらこの先の街の人間のようだ。


ひどいケガをしている。


タチカゼは急いで近寄り、男を抱える。




「おい!大丈夫か!?何があった!?」


「ま、街…に、イドの軍隊とニンゲンヘイキが…」


「マジ!?」


「おいセツナ!しりとりなんてやってなかったらもう少し


早く気付けたんじゃないのか!?」


「て…てへっ☆」


「言ってる場合か!!セツナ、彼の手当てを!その後、街で合流だ。オッサン、あと街まではどれくらいだ!?」


「あと7、8キロってところだ、飛ばせば15分で着くか。」


「オッサン、10分で着くぞ!セツナ、あと頼む!!」


「あいよ!!」




タチカゼとオンジは勢いよく地面を蹴って走り始めた。




###########




ここはライカの中心より南東に位置する街『ドナ』


ゴイガカと呼ばれる虫の幼虫が成虫になる時に作る「繭」


を使った織物業が盛んな街である。美しくカラフルな色合いの織物は非常に人気が高く、街の特産品となっていた。


だが今は…


街は炎に包まれ、その織物達はもはや原型を留めていない黒い炭の塊となっていた。




イド帝国の軍隊長であろうか?彼がニンゲンヘイキや一般兵士を使い、事後処理を行っていた。




「全員、街の者は殺すなよ!男共は労働力に、女子供は人質にする。抵抗するものは構わん、殺せ!我々イドは、ナメられてはならないのだ!!」


「はっ!!」




ニンゲンヘイキの中に混ざった数人の一般兵士達が声をあげる。




そんな中、タチカゼ、オンジの2人は到着した。


崩れた家屋の陰に体を隠し、様子を伺う。




「クソっ、遅かった!」


「いや、まだ街の人間は連行されてはないようだ」


「確かに!んじゃ行きますか、オッサン!」


「タチカゼ、油断するなよ!」


「おうっ!いくぜ!!」




タチカゼは鞘からカタナを抜き、オンジは拳を強く固める。


それが合図の用に2人は街中に駆け込んでいった。




##########




その異変に気付くのに軍隊長は少し時間がかかった。


おかしい…突然、街の人間達の連行が止まった。


ニンゲンヘイキや兵士達は何をしている?


疑問が膨れ上がる中、向こうの織物街の方が


騒がしくなってきた、叫び声も聞こえてくる。


「いったいなんだというのだ…?」




「フンッ!!!」




オンジの掛け声とともに放たれた拳はニンゲンヘイキ2体の首から上をぶっ飛ばした。




「うへっ、オッサン容赦ねぇなぁ。」




そんなよそ見をしているタチカゼの斜め後ろからニンゲンヘイキ2体が斬りかかってくる。




「おっと!」




なんなく2体の攻撃を躱したタチカゼは返す刀で2体を一気に斬り付けた。


ニンゲンヘイキはその場に倒れ動かなくなった。


ボソッとタチカゼは言う




「お前達がもっと前にもし『覚醒』してくれてたらな…ごめんな…さて後は!」




2人は残った1人の男を同時に見る、どうやらニンゲンヘイキではない一般兵士のようだ。


タチカゼはカタナの切先を兵士の鼻の数ミリ前まで近づけていい放った。




「いっぺん、死んでみる?」


「あひいいいいい!!?」




兵士は傷付いた足を引きずりながら一目散に逃げていった。




「さて、親玉の所に案内してもらいますかね。」


「うむ!まだ暴れ足りんからな。」




いや、十分だろというツッコミをタチカゼは飲み込んで2人は一般兵士の後を追った。




############




「えーい!何が起こっているのだ!?誰か、誰かいないのか!?」




軍隊長が叫んでいると、崩れた家屋の陰から一般兵士が転がるように飛び込んできた。




「ぐ、軍隊長殿!恐ろしく強い2人組がニンゲンヘイキを次々と破壊していき…」


「何!?」


「おそらく例のゲリラ組織ではないかと!?」


「おやおや~?それは俺達の事かにゃ~??」




タチカゼとオンジは軍隊長の前に立った。




「ひぃ!!!」


「さて、どうする?このまま街の人達に手を出さず、兵を引くなら今回は見逃そう。まぁ、いつかイド帝国に乗り込んでどのみちぶっ飛ばすけどな!」


「くっ…我がイドの兵力をナメるなよ!!おい、出てこい!!」




軍隊長の合図と共にどこに隠れていたのか、ぞろぞろとニンゲンヘイキが出てきた。その数、ざっと2、30体といったところか?




「ぞろぞろと出てきやがって、悪いがお前達アーキタイプのニンゲンヘイキじゃ話にならねぇんだよ!いくぞ、オッサ…」




いうが早いか、オンジの蹴りはニンゲンヘイキ3体の上半身を蹴り飛ばしていた。




「バ、バイオレンスだなぁ。ま、俺もちゃっちゃとやりますか!」




と、カタナを抜いたその時だった。


突如、後ろの崩れた家屋の瓦礫の隙間から女の子が出てきたのだ。




「はぁ…はぁ…お…おかあ…さん…」


「え…?おい!?大丈夫か!?」




敵に囲まれているのも忘れ、タチカゼは女の子に近づいた。




「良かった、擦り傷だけか。上手い事瓦礫の間にいて潰されなかったんだな!」




タチカゼがホッと安堵のため息をつく。


その時だった。




「タチカゼェェェ!!!」




オンジの怒号が響いた。




「え?」




と、タチカゼが振り向いた瞬間右目に鈍く酷く重い痛みが走った。


ナイフだ。それはニンゲンヘイキが投げた投げナイフだった


ナイフは深々とタチカゼの右目に刺さっていた、恐らく


脳にまで達しているだろう。




「な…に?」




タチカゼは糸が切れた人形のように、力無くその場に倒れた。




そう、忘れてはならない。


人間は突然、簡単に、死ぬのだ…。

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