第0章 ー蒼い眼の怪物ー
「ハァ・・・ハァ・・・」
こんな馬鹿な話があるか!?いくらニンゲンヘイキとはいえ5対1だぞ!?
何故こちらが追い詰められている!?
これで対ニンゲンヘイキ迎撃部隊だなんて、聞いて呆れる・・・。
彼はニンゲンヘイキと距離を取って追いながら、仲間との合流を目指していた。
『ニンゲンヘイキ』・・・それは人の姿をしているがその中身はまるで別物。
まさに化物だ。一切の感情がなく容赦なく人も物も壊し続ける、正に『殺人兵器』だ。
その時、追っていたニンゲンヘイキの前に人影が現れた。
同じ部隊のガンテツだ。
「ガンテ・・・!」
それは声を掛ける間すらも与えなかった。目視で確認出来ていたはずのニンゲンヘイキの姿が消えた。
次にその姿が見えたのは、ニンゲンヘイキの持つ剣がガンテツの胸を貫いて持ち上げてる姿だった。
「ガンテツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
堪らずニンゲンヘイキの前に飛び出した。
それと同時に他の仲間達も飛び出してきた。
どうやら近くまで集まって来ていたようだ。
「ガンテツ!今、助ける!!」
ガンテツは口と胸から大量の血を流しながら、震える両手でがっしり剣を掴んだ。
「グフッ・・・い、今だ・・・全員で・・・一斉にかかれば・・・たの・・・む!」
「ガ、ガンテツ・・・クッ・・・皆!行くぞ!!」
ガンテツの覚悟を受け、全員で一斉に各々の武器を振り下ろした。
相手は完全に無防備だ。確実に手応えはあった。あったのだ・・・その時だった。
ニンゲンヘイキはガンテツを貫いたままの剣を振り回し全員を吹っ飛ばした。
その勢いでガンテツは飛ばされゴロゴロと地面を転がった。
彼は薄れゆく意識の中で確かに見た。ニンゲンヘイキにつけた傷がみるみる塞がっていくのを。
ニンゲンヘイキは彼の前に立った。
「傷まで・・・再生する・・・なんて、反則・・・だろ!?何でお前らは・・・人間の姿を・・・
している?人間の姿をして・・・『心』はない・・・のか?」
その言葉を言うと同時にニンゲンヘイキの剣は彼を貫いた・・・。
ぽつ・・・ぽつ・・・と雨が降り始めていた。段々雨は強くなっていく。
その雨の中、ニンゲンヘイキは剣を突き立てたまま立ち尽くしていた
『コ・・・コ・・・ロ・・・?』
二ゲンヘイキが呟くと突然頭に激痛が走る。
「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」
あまりの激痛に転げ回るニンゲンヘイキ。頭の中ではけたたましい警告音が鳴り響ている。
『エラー!エラー!ジンカクケイセイプログラム二ジュウダイナエラーガケンシュツサレマシタ
エラー!エ・・・ラ・・・』
突如彼は転げ回るのを止めた。そしてゆっくりと立ち上がり、周りを見渡した。
「何だ・・・これ・・・は?」
彼は顔を手でペタペタと触りまくる。
「俺は・・・何だ・・・誰だ?」
そのニンゲンヘイキは茫然と立ち尽くしていた。
そこに三人組の小部隊が到着する。二人は男性、一人は女性だ。彼らはすぐに状況を把握した。「クソッ!!・・・皆、済まない・・・。」
「頭かしら!あいつ・・・!」
そのニンゲンヘイキはゆっくりと迎撃隊員に刺さった剣を抜き、頭と呼ばれる男に力任せに剣を振るい襲いかかって来た。頭はその剣をカタナで受け止める。
「頭!!」
「大丈夫だ、お前達は隊員達の救助を!まだ助かるかもしれねぇ!!」
「答えろ!!俺は誰だ!?」
興奮状態でニンゲンヘイキは頭に問いかける。
「お前・・・覚醒者か!?」
頭は相手の剣を弾いて距離を取った。
「任務変更!ニンゲンヘイキの破壊・・・じゃなくて覚醒者の保護、だな!」
頭はそう言うと腰に差した二本目のカタナを抜いた。二刀流の構えである。
「あまり傷つけたくないからな、一気に決めるぞ!!」
その言葉と同時にドウッと地面を蹴って頭が一気にニンゲンヘイキとの差を詰めた、速い!!
ニンゲンヘイキは完全に反応が遅れた。
「いくぜ!『二刀・絶華』!!」
ニンゲンヘイキがカタナで受ける余裕もないまま胸に十字の傷ができ、血飛沫が舞う。
すぐさま様、頭はニンゲンヘイキの背後に回り込みカプセル型の注射針を打ち込む。
ニンゲンヘイキは昏倒してそのまま前のめりに倒れた。
「一丁上がり!・・・じゃなかった!!サルトビ、カエデ、皆は?」
サルトビは首を横に何度か振った。
「キバカゼ隊長、こちらの隊員ももう・・・」
「そうか・・・。あ、カエデ!隊長じゃなくて『頭』な!」
「はい!キバカゼ隊長!!」
「・・・ワザとやってる?」
「頭!これ・・・!!」
サルトビはニンゲンヘイキ・・・もとい覚醒者の上半身抱えていた。するとみるみるうちに
カタナでつけられた十字の傷が塞がっていく・・・。
キバカゼは急いで右目を指で上げて瞳を確認した。蒼い眼だ、瞳が蒼い炎のように輝いている。
それに共鳴するかのように3人の緋い左眼も輝いたようにみえた。
「おいおいこりゃ・・・レア物じゃねぇか!!」
「蒼い眼のニンゲンヘイキなんて初めて見ました!キバカゼ隊・・・頭!」
「頭!こいつが『蒼の風』に入ってくれりゃあスゲー戦力になりますよ!!」
サルトビは興奮してキバカゼに言った!が、それをキバカゼは目で制止する。
サルトビはうぐっと口を紡ぐ。
「こいつがこれから戦いに参加するかどうかはこいつが決める事だ!俺達が口を挟む事じゃねぇよ。
これからこいつは『人間』として生きてくんだ。出来れば自分で選んだ人生を歩んで欲しいよな。」
二人は深く頷いた。
サルトビはガンテツの前に行き、膝をついて座り込んだ。
「・・・こいつ、俺がニンゲンヘイキって分かってもしつこく絡んできて・・・いい奴で・・・」
サルトビはそこで言葉に詰まった。
「・・・無理して付き合わなくていいんだぞ、サルトビ。戦争はまだまだ続く・・・こんな思い、何度もする事になるぞ・・・」
キバカゼはサルトビの方を見る事なくいった。
サルトビは鼻水をズズッーと吸い込み、ニカッと気味悪い笑みを浮かべた。
「なーに言ってんすか!付いていくに決まってんでしょ!!」
キバカゼはふっと鼻で笑い二人に言った。
「じゃあ・・・行くか!次の戦場へ」
二人ははい!っと力強く答えキバカゼの後に続いた。
いつの間にか空は晴れていた。この時間なら夕日が綺麗に見えるはずだが、この国では、空全体が霧のようなものに包まれていて薄っすらとしか見える事はなかった・・・。
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