美味しければいいってもんじゃない——最高のクリスマス・ディナー
蜜柑桜
前夜 聖夜は誰がためにある
クリスマスとは、イエス・キリスト誕生を祝う日である。その前の日曜日から遡って四週間前から始まる
そんな神聖な日々である——はずが。
十一月のアドヴェントが始まる頃、否、その前から日本ではどうだ。ハロウィンが終わったと思えば街中にクリスマス・ソングが流れ、イルミネーションがきらめき、文具店ではクリスマス・カードが並び、洋服店宝飾店化粧品店の店頭にはクリスマス・プレゼントギフトが陣取り、一気に高級感溢れるムードに様変わりである。
一方、カフェは欧米から輸入されたクリスマス・スイーツ、すなわちスペキュロス、シュトレン、ブッシュ・ド・ノエルがケースを彩り(なぜミンス・パイとクリスマス・プディングはないのだろう)、有名パティスリーのクリスマス・ケーキは予約殺到で高額にもかかわらず受付初日から予定数終了。通常のガトーは当面販売を停止します状態。
レストランといえば「大切な人と特別な一日を」との謳い文句とともに高級クリスマス・ディナー、乾杯シャンパン付きコースなどといったスペシャル・メニューで通常より千円増し(しかし特別なのはキリスト及びキリスト者にとってである)、それでも名店の空席は瞬く間に埋まる。
神聖な聖夜はどこへ行ったのだ。
贅を尽くし、その裏では利率が計算され、愚かしい人間よ、七つの大罪を知るがいい。
(「七つの大罪」とは主にカトリック教会において、人間を罪に導く原因のことである。虚栄(または尊大)、貪欲、法外かつ不義な色欲、暴食および酩酊、憤怒、嫉妬、怠惰を指す。反省せよ)
そのような財を散らした煌びやかな夜など、清く正しく美しく生きる女子大学生、嘉穂には無縁である。聖家族よろしく寒い馬屋でつつましやかに幼児の到来を祝う身として恥じることなし(無宗教だけれど!)
もし教会に深夜礼拝があるのであれば、蝋燭を灯しその時まで勉学に励むのも吝かではない(下宿にあるのは蛍光灯だけれど!)
世間の華やかさに背を向け、質素倹約、穏やかに過ごすクリスマス。
それこそ敬虔な態度というもの——であると論理的に思うのだが。
「二十四日の嘉穂宅パーティ、着くの六時くらいでいい?」
真っ暗なスマートフォンを明るく照らし出す通知ウィンドウ、ツリーや星の絵文字が入った見るも楽しげなメッセージ。
——宗教行事ではあるのだが。
「嘉穂のクリスマス料理、楽しみにしてるから!」
やはり、愛する友のため、期待に応えぬわけにはいきませんでしょう!
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