12月24日
クリスマスイブ当日。
家までやってきたおじさんに連れられ、俺は子供達の家を回っている……はずだった。
「ちっ、しぶとい奴らめ!」
「ぬぅん!」
ソリが急旋回し、こちらに放たれる光線中が頬を掠める。
「あれ、なんなんですか?!」
「残念じゃが説明している暇はない……そうじゃ、儂の思考を盗聴してくれ。それが一番手っ取り早いのじゃ」
なんでこんなおじさんの思考を覗かなきゃいけないんだ。
あと盗聴って言い方やめろ。
「ぐずぐずしてると奴らに撃ち殺されるのじゃ」
「わかりましたやります」
深呼吸をしておじさんの思考を覗いてみる。
すると、あいつらの正体に関する情報が頭の中に流れ始めた。
反クリスマス勢力、反クリスマスエネルギーによって生み出された悪の軍勢。
様々な並行世界でクリスマスを潰し、クリスマスエネルギー、そしてクリスマスエネルギーを扱うことで生じる超人的な力、通称サンタパワーをすべての世界から消すことを目的とした集団。
「何言ってるんですか?」
「そのまんまの意味じゃ」
「はぁ」
もう余計な単語を出さないでほしい。
「見つけたぞ!」
「むぅ、もう追手が来たか」
再び乱射される光線銃が、ソリを傷付けていく。
傷がついたところから黒くドロドロと溶けているように見えた。
「このソリはクリスマスエネルギーで出来ておる、あやつらの反クリスマスエネルギー光線を浴びるとクリスマスエネルギーが相殺され」
「もういいです」
仕組みは特に理解したくない。
しかしこのままではまずい事は理解してしまった。
「……仕方ない、今年はお主がプレゼントを配るのじゃ」
「は?」
「儂はあやつらを何とかする、ソリに付いたナビの通りに家を回りプレゼントを生み出すだけでよい」
「いや、だから」
「頼む! ここで奴らを止めなければ子供たちは笑顔になれぬのじゃ!」
「……わかりました」
そう返事をするや否や、ソリのハンドルを俺に渡し、おじさんはソリの荷台へと移る。
「邪魔する奴は断じて許さぬ! いでよ、高濃度クリスマスエネルギー砲……トナ
おじさんの手にはトナカイの頭を模したバズーカが握られていた。
「クリスマスエネルギー開放、散るがよい!」
トナカイの口から放たれた光線は、悪の軍勢を一人も残さず貫いていく。
「これで――」
「終わったと思ったか? 甘いわ!」
空を見上げると、謎の裂け目から沢山の軍勢が現れていた。
「総戦力で叩き潰してくれる、かかれ!」
「うおぉぉ! リア充死ねぇ!」
「クリスマス滅びろ!」
「な、なんと強い負の感情……否、反クリスマスエネルギーなのじゃ」
非リアとかの妬みがこれなの?
どちらかというと俺もそっち側なんだけど。
「刹那よ、急いでソリを走らせるのじゃ、背後は儂に任せるのじゃ!」
「はぁ……わかりました」
時速2万8000kmのソリは、様々な国の空を飛び回り子供たちの元へ駆けつける。
サンタは壁をすり抜けることもできるようで、その力で子供の部屋へ侵入し、プレゼントを生み出しソリに戻る。
慣れてくると1秒間に5人ほどの子供たちにプレゼントを渡せるようになってきた。
しかし、背後からする激闘の音は激しくなるし、損傷が激しくなってきてソリの速度もだんだんと落ちてきている。
「隙あり!」
「ぐあぁ!」
直後、ソリが爆発した。
吹き飛ばされた俺とおじさんは、高層ビルの屋上へと転がり落ちる。
「……あれ、お星さま見えなくなっちゃった」
「ほんとだね、雲が出てきたみたい」
歩道を歩く子供の声が聞こえてくる。
ちなみに聴力もなぜか強化されているので、屋上にいても余裕で人々の会話が聞こえている。
見上げれば、星々を覆い隠すほどの数多の軍勢が上空にいた。
「ここは……反クリスマスの聖地、日本か。そう、全てはこの国から始まったのだ!」
何やら一番偉そうな男が現れ、そう言い始めた。
今度はなんの茶番だよ。
「我らが王は、クリスマス直前に彼女に振られ、三か月前から予約していたレストランに一人で行くことになったんだぞ!」
「友達とか呼べばよかっただろ」
「な……何たる侮辱! 王は孤高であらせられるぞ!」
「ただのぼっちじゃねぇか!」
「き、貴様ァ! 許さぬ、許さぬぞ!」
突如、強大な黒いエネルギーがそいつの元に集まり始める。
「……もはやここまでなのじゃ」
おじさんは絶望してトナ改を手放してし膝をついた。
「もういい、この世界を爆破する!」
『リア充爆発しろ! リア充爆発しろ!』
「それだとリア充以外も爆発しちまうだろ」
「我らが王の為の礎となるのだ、非リア共は泣いて感謝するだろうよ」
本当に何を言っているんだこいつらは
どんどんエネルギーは集まっていくし、何か手を打たなければいけない。
ふと、おじさんが落としたトナ改に目が留まった。
思わず手に取ると、意識を取り戻したおじさんが叫んだ。
「む、無理じゃ、ここまで高濃度の反クリスマスエネルギーは相殺しきれぬ!」
「じゃあこいつらどうするんですか!」
「もう遅い、メリークルシミマスだ」
強大なエネルギーが天に向かって放たれる。
あ、これダメかも。直感的にそう感じた。
こんな風に世界が滅ぶのか?
クリスマスイブだろ、今日。
別に一人ではあったが、去年だって一人でのんびりケーキ食べてゲームして楽しく過ごしてたわけだし。
……さすがに死にたくないな。
「そうか、ならばその願い叶えるほかあるまい!」
隣を見れば、トナ改に手をかざすおじさんが居た。
「人々に夢と笑顔を届けるのが仕事なんじゃ、お主だって笑顔になるべきじゃろう!」
「おじさん……」
「儂ら二人分のサンタパワーを注げばまだ何とかなるやもしれん。行けるか?」
「や、やってみます!」
トナ改を強く握りしめ、サンタパワーを流し込む。
すると、トナ改は眩く光り始めた。
「こ、これは!」
聖なる光を纏ったトナ改は、世界中から白く光るクリスマスエネルギーを集め始めた。
「みんなのクリスマスを楽しむ心が一つになり、巨大な光を形成してゆく。トナ改……いや、トナ改二と名付けよう。これならば世界を救えるのじゃ!」
トナ改二を握れば、ずっしりとした重さと共に、人々がクリスマスにかける思いを感じ取ることが出来た。
そのままトナ改二を肩に担ぎ、天高く目がけて飛ぶ黒いエネルギー体に標準を合わせる。
「食らうがいい。これが、クリスマスの力じゃ!」
――白い光線が空へと放たれる。
それは黒いエネルギーを貫き、数多の軍勢を巻き込んで爆散した。
反クリスマス勢力は、クリスマスの力の前に敗北したのだ。
空が晴れ、喜ぶ子供達の元に、白の便りが届き始める。
それは、勝利を象徴する為か、はたまたクリスマスを祝福する為か。
沢山の輝きに満ちた世界に、雪が降っていく。
人々はこの雪に何を思うのだろうか。
少なくとも、今世界を救った一人の高校生はこんなことを考えていた。
……もう疲れた
「ダメじゃ、プレゼントを渡し終えてから休むのじゃ」
「嫌だッ!」
もうしばらく、この夜は続く。
皆さんも良いクリスマスを!
クリぼっちと赤服おじさんのクリスマス狂騒曲 輝響 ライト @kikyou_raito
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます