お願いだから死んでください

野水はた

第1章

第1話 自問自答


 そういえば、わたしは自分がどういう産声をあげたのか覚えていません。


 泣いたことには変わりはないのでしょうが、それが嬉しさからくるものだったのか、悲しさからくるだったのかは分かりません。


 望まれて生まれたのか、意図せず生まれたのか。わたしの誕生は祝福されていたのか、それとも忌み嫌われていたのか。たった二つの分岐する答えにすらたどり着けないわたしは、自分の生まれた意味を見つける資格すらないのかもしれません。


「あの、一つ聞いてもよろしいでしょうか」


 タオルを絞る一ノいちのせさんが頷いたのを確認してから、わたしは口を開きます。


「わたしは一体、何者なのでしょうか」


 ただの疑問。ただの探究心。ただの好奇心に、なんの変哲もない自分という存在の確認にすぎませんでした。


 それなのに、一ノ瀬さんは悲しげな表情をして、わたしを抱きしめます。


「体を温めて、栄養のあるものを食べる。それから安静にしていれば、絶対に大丈夫。あなたはここで暮らしていけば、他の人と同じようにこれからも生きていけるから」


 一ノ瀬さんがわたしの背中をさすりながら、何度も大丈夫と繰り返します。まるで自分に言い聞かせるように、わたしを諭すように。わたしが頷くと、一ノ瀬さんは体を離し、わたしの両頬に手を添えました。


「一緒に頑張っていきましょうね」


 この人には、何が見えているのでしょう。


 そもそもわたしは、誰なのでしょう。


 会話を通しても伝わるものはなく、また、求めた答えも得られませんでした。


 わたしは、生きられるのか、生きられないのかが聞きたかったのではありません。


 なんのために生きているのか。


 それを、教えて欲しかったのです。


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