とらどし

「この屏風の虎を捕まえてみせよ」

「屏風から虎が出るのだ」

目の前でふてぶてしい身体を揺すりながら爺が言った。

「退治してみせよ」

そうとも言った。なるほど、なるほど、俺はこの話を知っている。だからこう返した。

「なれば、今すぐこの屏風から虎を出して見せてくださいまし」

どうだ、出せぬ、出せぬだろう。このお偉い爺はきっと俺に感服する。そして──

「よかろ」

は?

「虎よ、虎よ、いでたもう」

果たして、虎は出た。足だ。前足が、雷色に、黒の真っ直ぐとした稲妻。しかし虎?これは虎なのだろうか。のっ、そりと出てきた顔は猿、赤い。腹はずんぐりとして、虎のようではない。しかし背はやはり虎である。なんだ、これは。なんだ、なんなのだ。後ろ足は虎、だが尾は狐のように太く先だけが黒い。大きく咆哮する咥内に見えるはおとがいを引き下げたアオダイショウ······なんだ、これは。なん、なんの生き物、一体──


男は食われて、虎と呼ばれた生き物は、ふてぶてしい男に頭を垂れ、屏風の中へと立ち戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る