小咄集

明星浪漫

肢体

狂った男の独白

ぼくは彼女の肢体にそつと手を這わせた。つるりとした陶磁器のやうな肌は人の温さがある。それでも寝たまんま起きない彼女はさながら人形である。常なら美しく風に舞つている緑の黒髪を優しく撫でてやつた。頬を赤く染めてうすく閉じられた目蓋はきつとぼくからの接吻キスを待つているのだろう。


 ぼくは焦らすやうに彼女の前髪を撫でてやつた。形の良い額に唇を寄せ、ぼくは眉を顰め、また接吻してやつた。頬にも唇を寄せてみると、彼女の頬から色が消えた。詰まらん奴だな。ぼくの唇は赤く彩られた。


 ぼくは彼女はきつと甘いものだと思つていた。いつも甘つたるい声で鳴くから、彼女は佳好帝良かしべりやよりも甘いのかと思つていた。だがどうだ。彼女は苦い。初等部の頃の鉄棒を思い出す。


 ぼくは閃いた。そうだ、腹に砂糖でも詰めてやつたら、苺じゃむのやうに甘くなるやも知れぬ。


 ぼくは彼女の死体にそつと手を這わせた。


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