第70話 九尾
茂みから血だらけの大きな狐が出てきたかと思えば、力尽きてバタッと地面に倒れた。
そしていつの間にか、さっき逃げていた子狐が駆け寄っていた。
倒れている大きな狐からも尻尾が9本生えている。
ミアが駆け寄ろうとしたので、俺は手で止めた。
『あれは九尾だ。迂闊に近づくと危険だ』
『でも怪我しています! さっき一緒に戦いました。友好的な魔物かもしれないです。助けましょう!』
俺だって助けたい。リドのように魔族と友好的な魔物もいる。
けど、人族でも友好関係は築けるのか?
手負いのフェンリルでさえあの強さだったのだ。
決して油断していい相手じゃない。
「安心しろ。その九尾はオレの知り合いだ」
ん? 俺は突如聞こえた声の方を向くと、そこには魔王がいた。
「「ぬぁぁぁぁぁ!」」
いつの間にあらわれた! 心臓に悪すぎるだろっ!
ミアも気づいてなかったらしく、俺と同じく声を上げていた。
「大きな声を出すな。警戒されるだろうが。マリよ、久しいな。すぐに傷を回復させてやろう」
魔王は倒れている九尾の治療を始めた。
傷口に手を突っ込み、骨や筋肉、内臓といった部分を1つ1つ丁寧にポーションをかけていく。
ポーションは傷を塞ぐが、元の状態に戻るわけではない。
骨が折れ、内臓に刺さった状態でポーションを使うと、その状態のまま傷口は塞がってしまうのだ。
「よし、あとはこの魔石を使え。この人族達はオレの仲間だ。警戒する必要はない」
九尾は魔王が地面に置いた魔石の山を、バリバリと食べ始める。
魔王と九尾は無言で目や手振りだけでコミュニケーションを取り始めた。
これはカルラとリドのときと同じだ。
九尾は魔族と話せる魔物なのだろう。
その間、子供の九尾が俺とミアの元に近づいてくる。
子狐は少し警戒しているようだったけど、ミアは「か、可愛い!」と言いながら、まるで子犬を相手にするように撫でまわしていた。
俺はフェンリルと九尾のケンカを見たときから気になっていたことを魔王に質問する。
「エンツォさん、九尾とフェンリルはどうして戦っていたんですか? 魔物は人族、ドワーフ族、エルフ族を襲うけど、魔族と魔物は襲わないと聞きましたが」
「前にも説明したが、魔物は魔石が大きくなるにつれて知能が上がる。Sランクともなると、魔石を食べることで進化できることに気づく魔物が出てくるのだ。そいつらは魔物を襲うようになる」
九尾が何事かと魔王を見つめるので、魔王が俺との会話を九尾に説明し始めた。
途中で九尾がガブガブと魔王の右足を噛んでいた。
「タクミよ。九尾はもともと群れない。単体で暮らすのだ。この騒動の切っ掛けは、フェンリルが幼い九尾を襲ったところを偶然このマリが見かけたらしい。そして止めに入ったら、戦闘になってしまったそうだ…… 私は悪くないと言っている」
「エンツォさんは、フェンリルと敵対しているんですか?」
「いや、さっきおまえ達が倒したフェンリルは、ハフという名でオレの知り合いだ。オレは誰とも敵対しないし誰の味方でもない。バランスをとるために多少動くことはあるがな。そういう訳で、そのハフの魔石はもらっていくぞ」
「いいですけど、どうするんですか?」
「フェンリルに適した瘴気がでる場所に置いてくる。そうすればまた復活するからな。ただ、あの大きさになるには100年はかかるがな」
そんなにかかるのか。
魔物はざくろ石と『罪』があわさり『魔石』になる。『魔石』が『瘴気』を吸収して魔物になる。
だから、繁殖活動はないそうだ。
「復活するときに以前の知識や記憶、性格といったものは引き継がれるんですか?」
「ある程度は引き継がれるみたいだぞ。詳細はわからん」
俺は幼い九尾を見る。ミアが自分用の
さてと、そろそろレベル上げに戻らないとな。
俺はレベルを確認してみると、『50→56』に上がっていた。
……まさか、そんなに強敵だったのか。
負傷していない状態で戦っていたらどうなっていたんだ?
今になって少し恐怖がこみ上げてくる。
「ミア、そろそろいくよ」
俺が声をかけると、ミアは何か言いたげな表情で俺を見てくる。
「あのぉ……この子もついて行きたいって言ってまして……私が責任をもって面倒を見るので、連れていっていいですか?」
いやいや、犬を拾ったのとわけが違うのだ。
そんな顔で俺にお願いされても困る。
というか、魔王からマリと呼ばれた九尾もこっちを見ているし。
「勝手に連れて行くわけにはいかないよ。マリさんや本人の希望もあるからね」
「ワッチはついて行きんす。助けてもらった恩もあるし、もうミアっちとは友達でありんす!」
なんだろう……幻聴か?
九尾がしゃべったような……
「おい、何が起きている? なぜ九尾が言葉をしゃべられるのだ?」
魔王が驚いてるだと!?
俺と魔王は確認をとるかのように、マリさんの方を向いた。
するとマリさんは首を横にぶるぶると振った。
まさか……ミアか!
なんでも翻訳してくれるあの食べ物を、スキル『デフォルメ』で作ったのか!?
「ミア、怒らないから正直に答えてくれ。何か食べさせなかった?」
ミアは笑顔のまま、俺と目線をあわせようとはしなかった。
「さっきミアからもらいんしたえ。美味しかっ…モ……グゥ……」
ミアは慌てて幼い九尾の口を手で塞いでいた。
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