第69話 モフモフ
「ミア、今『スキャン』したらフェンリルと2匹の九尾を見つけた。この魔物がただの魔物とは思えないんだけど……どう思う?」
「ラノベだと、どちらも強くて主人公の仲間になる魔物ですよね。しかも、その……モフモフ。モフモフですよ!」
なぜ2回言う。ミアにとって大事なことだったのか。
フェンリルは狼の魔物で、神や神の使いとして登場することが多い。
九尾は狐の魔物で、名前のとおり尻尾が9つある。膨大な魔力で妖術系が得意なイメージだ。
魔王からヤバいのに近寄るなと言われてるけど、フェンリルと九尾だぞ。
どうしよう。見たい。見たすぎる。
魔王に相談するのはリタイヤになるのか?
こんなことなら、ルールの確認をちゃんとしておけば良かった。
とりあえずは『ping』で距離と方角を探ろう。
すぐ近くにいると、それはそれでマズいからな。
——俺はフェンリルと九尾の位置と距離を探ってみた。
どうなってるんだ。靄の色の濃さと方角が同じだ。
これは3匹とも同じところにいるってことだよな。
洞穴から出て、少し小高い場所に上り靄のある方を見渡す。
どうやら森の外れの方にいるみたいだ。
「なんか3匹とも同じところにいるみたいなんだけど。神域みたいな特別な場所があるのかな?」
「ちょっと様子を覗いてみませんか? 抱きついたり背中に乗ったりできるみたいですよ。身体が沈むぐらいふかふかしているって何かの文献で見たことがあります」
ダメだ。ミアがモフモフの誘惑に負けている。
どうしようかなと考えていると、フェンリル達のいる方向で爆風が起こり木々が吹き飛んだ。
ちゃぶ台をひっくり返したかのように、木々が地面ごと空に舞う。
「な、なんですか。あれ?」
ミアの驚きに被せるように、今度は剣山のような尖った氷の塊が木々よりも高く突き出てきた。
ここからだとちょうど1キロぐらい離れた場所か?
その後も、落雷や爆発が立て続けにおきる。
「これは……もしかしてフェンリルと九尾がケンカしてるんじゃないでしょうか?」
「俺もそう思う。というか、もう天災だよな…… マズい! ものすごい勢いでこっちに近づいてくる。ミア逃げるぞ」
「え、え、えええぇ!?」
俺達は洞穴のある場所まで下りた。
そしてこの場から離れようとしたが間に合わない。
「ミア! 『
ミアは俺に抱きつき、SPが一番多く込められたざくろ石の『
『ごめんなさい。ざくろ石に込めたSPが切れるとスキルが解除されるから、この方法しか思いつかなくて……』
たしかにこの方法だと、1つのざくろ石で二人にかけられる。
うん。SPの節約は大事だ。
今は動いてはいけない。動くとスキルが解除されちゃうからな。
未整備地区恐るべし。イベントが多いぜ。
俺が必死に邪念と戦っていたとき、森の中から1匹の白い子狐が飛び出してきた。
全身土や埃で汚れていたが、尻尾がたくさん生えていた。
間違いない。九尾だ!
初めて見た九尾に感動していると、九尾は俺達がさっきまで休んでいた洞穴へ一目散に駆け込んだ。
それから数秒もしないうちに洞穴の入り口が消える。
赤い靄は洞穴から移動していない。
もしかしてミアと同じようなスキル……妖術か?
『どうしましょう……逃げます?』
『いや……無理かも。もう1つの赤い靄が接近してきた』
今度は大きいというか巨大な白い狼が森からゆっくり出てきた。
全身血だらけで片方の後ろ足が無く、胴体の数カ所に大きな火傷がある。
鼻をクンクンと臭いをたどるように洞穴に近づいていく。
『あの子狐を追いかけてきたんでしょうか? なんか嫌な予感が……』
フェンリルの前方で風が渦を巻く。渦の回転速度がどんどん上がり30センチぐらいの球体になった。
キュルルルルと高音を発生させ、周りの空気が揺らぎだす。
眉間にしわを寄せ、洞穴のあった場所。今は岩肌にしか見えないが、そこに向かってグルルルゥゥと唸る。
何の変化もないまま1分ぐらい経っただろうか。
しびれを切らしたフェンリルが、荒れ狂う風の球体を放とうとしたとき、子狐が壁をすり抜けるように洞穴のあった場所から飛び出してきた。
マズい。俺達の方に向かってくる。
俺はミアから離れ、フェンリルの方へ走りだす。
『
けど、しょうがないのだ。
もしあの状態でフェンリルの攻撃を受けた場合、俺とミアの距離が近すぎて『心の壁』バリアが中和してしまう。
あの攻撃を直撃するのだけは避けたかった。
「くそがぁぁぁ!」
突如あらわれた俺達に驚いたフェンリルは、怒りの形相になり風の球体を弾丸のように俺に向かって撃ってきた。
俺は風の弾丸に対して『心の壁』バリアを角度を付けて展開した。
キィィィィィィンと甲高い音と共に風の弾丸は右後方の森へ逸れる。
その直後、爆音とともに森の木々が上空へと舞い上がる。
俺は『ルーター』の行き先をフェンリルに設定し、自分にスキルをかけた。
その瞬間、フェンリルが吹き飛んだ。
まさか、今の一瞬で俺はフェンリルの攻撃を受けたのか?
まったく気づけなかった。『心の壁』バリアを張る間もなかったぞ。
とにかくこのチャンスを活かす!
俺は勢いよくライトセーバーを自分に斬りつけた。
スキル『ルーター』が光刃の斬撃の行き先をフェンリルに変える。
俺の体ごとフェンリルまで高速移動し、光刃で胴体を斬りつけたが浅い!
俺が斬りつけた瞬間、フェンリルは後方へ躱したのだ。
くそっ、あんなに負傷しているのに、こんなに強いのか。
え? 気がつくと、もう1つの赤い靄がすぐ近くにあった。
というか、ここから見えてもおかしくない距離のはずだが、全く動く気配がない。
そういうことか!
『ミア! 俺の合図でフェンリルの注意を引きつけて! 一瞬でいいから』
『わかりました。とっておきを思いつきました』
俺は『ルーター』と『心の壁』バリアを駆使しながら、深手のフェンリルと攻防を重ねる。
もうそろそろいくぞ……
「いまだ!」
俺のかけ声に合わせて、ミアは山の斜面にある岩へざくろ石を投げた。
石に当たった瞬間、圧倒的な存在感を持つフェンリルが出現した。
予想外の展開に、俺とフェンリルの思考が止まる。
——ピカッと閃光が走った瞬間、爆裂音と衝撃で俺は吹っ飛ばされた。
俺がいた場所を見ると、落雷がフェンリルに直撃したようだった。
フェンリルの毛という毛が逆立ち、プスプスと焦げたように煙が全身から上る。
『ミア! フェンリルに攻撃だ。どこでもいいから攻撃するんだ』
ミアが斬りつけると、フェンリルは黒い煙となって消滅した。
そして、見たこともない緑色のボウリングの玉ほどの魔石が落ちていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます