第64話 再戦

 その後、他のスキルでも検証したが、『デフォルメ』は『ざくろ石』に込められなかった。スキルの性質によっていろいろ制約はありそうだ。

 だが、使い方次第で俺達のスキルの幅を間違いなく広げてくれる技術だ。

 余裕があるときにせっせと『ざくろ石』にスキルを込めれば、SPの節約にもなるしな。


「とりあえず『ざくろ石』とスキルの検証はここまでにして、魔王を倒す作戦を考えよう。もちろん『ざくろ石』にスキルを込めながらね』

 

 ミアは少し引いていたが新しいスキルを沢山使い、スキルを成長させ発動時間を減らすことは基本だ。

 『ざくろ石』に頼れないとかもあるのだから。


 ◇


「——それで新しいスキルは生まれたのか?」


 俺達はゾフにある魔王の屋敷に来ている。


「はい。スキルだけじゃなく『ざくろ石』の検証もある程度終わってます」


「ほう……ということは、次の戦闘で成果を見せてくれるのだな?」


 俺が頷くと魔王はニヤリと笑う。

 

 ◇


 ——俺達は地下洞窟の検証していた区画へと戻ってきた。


 魔王の屋敷でスキル『スキャン』を使い、魔王の情報を取得済みだ。

 ここに移動するまでの間、魔王を対象にした『ping』の『ざくろ石』を俺とミアの2人分作成した。

 1つあたりSP12の量で作ったので120秒。つまり2分間は『ping』のバフがかかる。


「さてと、そろそろ準備はいいか?」


 俺達は頷き、戦闘態勢をとった。

 魔王が指でかかってこいと合図する。


「いくぞ!」


 俺とミアは、左手に持つ『ざくろ石』の『ping』を使う。

 戦闘中、石をずっと持ち続けるわけにはいかないので、石に込められた全てのSP12を一度に使った。

 これにより、120秒間スキルがかかった状態になるのだ。


「なんだこの感覚は…… 何かスキルを使ったな」


 魔王にはすぐにバレたようだが関係ない。

 先の戦いと同じように、俺とミアが攻撃を繰り出す。

 魔王は何かを観察するように避け続ける。

 

「スキルを使ったようだが、何も変わっておらんぞ。この程度か……」


 魔王の姿が消えた瞬間、俺の頭の中にある赤いモヤモヤが左後方に移った。

 俺が左腕と足を使い防御態勢をとった瞬間、魔王の蹴りがくる。

 左腕で防ぐことは出来たが、威力に押され後方へ飛ばされた。


「ほう、今のを防いだか…… どういう仕掛けかは知らんが、少しは成長したようだな。しかし攻撃の威力を上げれば、防御したところでダメージを負うぞ」

 

 確かにその通りだ。

 だから、


「これで終わりだ」


 その瞬間、魔王は一気に俺との距離を詰め、俺の顔面めがけて拳を繰り出した。

 俺は両腕をクロスにし、防御姿勢をとる。

 これなら、半端な攻撃ならダメージは入らない。


 警戒の外から繰り出された拳は、鈍い音と共に顔面にめり込んだ。

 

 ……何が起きたんだ。あまりの予想外の出来事に頭が混乱する。

 目がチカチカしやがる。危険だ。冷静になれ。

 ……膝をつきそうになるが、なんとか耐える。

 がそんな無様な姿をさらせるか。

 オレは睨んだ。目の前に平然と立っているタクミを。

 

「くそっ、何をしやがった?」


 俺はスキル『ルーター』で魔王のパンチの行き先を変えたのだ。

 いろいろ条件があるスキルだが、上手くいってくれた。

 大分混乱しているな、今がチャンスだ。

 俺は攻撃を仕掛ける。

 大丈夫、ミアのは終わっている。


 動揺しているせいか、今までかわされていた攻撃が魔王に当たる。

 まぁ、当たるといっても防御されているのだが。

 魔王は警戒しているのか、攻撃してこない。

 余程、さっきの顔面パンチが効いたのだろう。


 なにしろ、威力増し増しの魔王が放ったパンチだ。

 俺のパンチなんかよりも、さぞ効いただろう。

 

 魔王が俺との距離をとるために、俺のボディへのパンチに合わせて後方へバックステップする。


「なっ……」


 魔王は目を見開き、驚きの声が口から漏れる。

 後ろに移動したはずが、前に移動したのだ。


「ぐはっ…… どうなって……る!?」

 

 俺のボディへのパンチが、無防備な魔王の腹に入る。

 今度は左へサイドステップするが、また俺の前に戻ってくる。

 俺の罠にはまっていると判断した魔王は、後方へ大きくジャンプした。


 とりあえず前回の借りは返せたかな。

 次はミアの番だ。

 

 ◇ 【魔王エンツォ視点】

 

 オレは大きく弧を描きながら後方へジャンプした。

 この区画の天井すれすれ、10メートルほどの高さまであがることで、頭を整理するための時間を稼ぐ。

 

 どんなスキルなのか知らんが厄介だな。

 あの感じからして、設置トラップ型のスキルだろう。

 とりあえず空中にスキルは設置できまい。

 攻撃系のスキルを用意してくると思っていたが……さすがはタクミだ。おもしろい。


 まずは戦場を変えるか。あの場所はマズい。

 どの辺りにするか周りを見渡したとき、着地先の地面が無くなっていた。

 

「ば、バカな……。何が起こっている」


 オレの降りる先に巨大な裂け目ができていたのだ。

 いつの間に……音も立てずにこんな裂け目を作るのは不可能だ。

 これもスキルなんだろうが、確証がない以上このまま落ちるわけにはいかない。


 SPを変換して火の魔法を後方へ放つ。

 その反動を利用して裂け目を超えた場所に着地する。

 裂け目を振り返ろうとしたとき、急にミアの気配がした。


 ミアが驚いた姿勢で立っていた。

 さっきのはミアのスキルか?

 何かされる前に、とりあえず倒す。


 オレは立ち尽くすミアに接近し、足に軽く蹴りを入れる。

 その瞬間、ミアの足が砕けた。


「なっ!?」


 そんなバカな。オレは軽くしか蹴ってないぞ。

 オレは慌ててミアを見た。

 ミアだったものが岩に変わる。


 ペチッ!


 ん? なんだ?

 オレの背中に何かが触った。

 振り返るとミアがオレの背中に拳を打ち込んでいた。


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