第63話 ミアの新スキル

 俺の目の前に、地の底が見えないほどの巨大な裂け目ができていた。


 まさか、ミアここに落ちたんじゃないだろうな。

 俺は『ping』スキルを発動する。対象はミアだ。

 どうやら、一度『スキャン』で情報を取得してしまえば、以降は『ping』で対象として選べるみたいだ。

 

 うぅぅ…… 発動までの時間がもどかしい。

 まだ1分過ぎたくらいだ。

 スキル『ping』入りの『ざくろ石』を量産しといた方が良さそうだな。

 そんなことを考えていると、突然、俺の目の前にある巨大な裂け目が消えた。


「なっ、なんだ!?」


「ふっふふふ。やったー! タクミを驚かせることに成功しました!」


「…………」


「ん? あれ、もしもし。ごめんなさい。ビックリし過ぎましたか?」

 

 何が起きた?

 ミアが突然現れたのは、隠れていたからだろう。

 それはいい。けど、あの巨大な裂け目はなんだ。

 幻影系のスキルは俺には効かない。

 精神攻撃耐性の装備を身につけているからだ。


「ミア、これは……新しいスキル?」


「はい。そうです! スキル『現実絵画だまし絵』です」


「トリックアートってこと? でも、あれは絵に近づいたり、角度を変えて見たりするとすぐに見破れるよね。あの巨大な裂け目は近づいてもまったく分からなかったんだけど」


「トリックアートは錯覚とかを利用して描きますが、わたしのスキル『現実絵画だまし絵』は、写真のような写実的な絵を描いて、それに音や匂い、存在感などの『特徴』を付与してます。だから絵だけど現実そのものに感じるんです。近づいてもわからないと思いますよ。おもしろいですよね」


「いやいや、おもしろいって……凄すぎでしょ!」


 なるほど、俺にスキルをかけたわけじゃない。

 ミアはスキル『現実絵画だまし絵』を地面に対してかけたんだ。

 だから、精神攻撃耐性のアクセサリーは機能せずに、俺はだまされた。


「急にだまし絵が消えたけど、あれはミアがスキルを解除したから?」


「はい。スキルを解除すると絵は消えます。あと、絵に触れても消えます」


「これは使えるよ! なんでも描けるの?」


「私がしか描けません。あとはスキルを発動するのに最低10分。10秒ごとにSP1消費します。絵のサイズが大きくなると、それに比例して発動までの時間やSPの消費が増えますね」


 あの裂け目は、地下洞窟で見かけたやつか。

 

「さっきの裂け目は、どのぐらいかかったの?」


「あれだと、発動するのに30分。10秒ごとにSP4消費しました。『ざくろ石』でどうなるかってところですね」


 なるほどな。

 俺のスキルもそうだけど、ミアのスキルも『ざくろ石』の恩恵を大きく得られる。


 それにしても、ミアの『スキルの素』と『職業』の組み合わせは、相変わらずチートだ。

 俺は改めて、ミアにステータスを見せてもらった。

 

 ------

名前:ヤマモト ミア

職業:画家

レベル:45(New)

HP:450/450(New)

SP:414/450(New)

スキルの素:

 『素材』対象を素材にする。

 『特徴』特徴の効果。

 『表現』対象を表現する。

スキル:

 『デフォルメ』素材の特徴を誇張、強調して簡略化・省略化して現できる

 『現実絵画だまし絵』素材の特徴をリアルに表現した絵を描ける

------


 『デフォルメ』と違って、『現→現』にしても、効果は変わらなそうだ。

 スキル『現実絵画だまし絵』の絵は、すでに現実と区別つかないレベルだったからな。

 

「タクミのスキルはどうでしたか? 興味あります!」


 俺の新しいスキル『スキャン』『ping』『ルーター』をミアに説明した。

 詳細については、俺もこれから検証するところだ。


「今から2時間ぐらい、スキルと『ざくろ石』を検証しよう。目標は魔王を倒せるようになること!」


「えっ!? 倒しちゃうんですか?」


「あっ、いや、本当に倒しはしない。さっきの戦いで手も足もでなかったからさ、見返してやろう」


「そうですね! わたし達に時間を与えたことを後悔させてやりましょう。ふっふふふ」


 まさか……魔王に蹴りを入れられたことで、何かヤバいスイッチも入ったか?

 こ、怖いです。ミアさん。


 ◇


 ——それからミアと『ざくろ石』の検証を行った。

 検証してわかったことをまとめるとこうなる。


・『ざくろ石』に込められるスキルの量は、石の大きさによって変わる。

 スキルの量とはSPのことだ。SPを多く消費するスキルは、大きな『ざくろ石』が必要になる。


・『ざくろ石』には1つのスキルしか込められない。

 『スキャン』と『ping』を同じに石に込められない。


・『ざくろ石』に込めたスキルは誰でも使えるが、スキルの所有者は変わらない。

 『ざくろ石』に込めた『スキャン』をミアが使っても、『スキャン』の結果はに表示される。


・『ざくろ石』に込めたスキルの内容は、スキル所有者以外は変えられない。

 ミアが猫の絵の『現実絵画だまし絵』を『ざくろ石』に込めた場合、誰でも『ざくろ石』を使っても猫のだまし絵が設置できる。しかし、ミア以外は『ざくろ石』に込められた猫の絵を、違う絵に変えることはできない。


「なかなか複雑ですね…… 『ping』はわたしには使えないんでしょうか?」


「いや、たぶん使える。検証して気づいたんだけど、スキルの込め方に抜け道がある」


 俺は、スキル『ping』を込めた『ざくろ石』を2つミアに渡す。


「この2つの『ざくろ石』は違うモノが入ってるんですか?」


「説明するより実際に使ってみた方が早いかな。あと『ざくろ石』はわざわざ割らなくても込められたスキルは使えるよ。『ざくろ石』に込められたスキルを放出するイメージでやってみて」


「はい。ではまず1つ目使いますね」


 ミアは『ざくろ石』を持つ手に、意識を集中する。


「あっ…… タクミのいる方向に赤いモヤモヤが出ました。この色の濃淡で相手との距離がわかるんですね。あっ、消えた」


「SP1の量しか込めなかったから10秒しか使えない。もう1つの石にも『ping』を込めてある。対象を俺にして使ってみて」


「はい。使ってみます。……あれ? 何も起きませんね。石もまだ輝いてるからスキルが使われてない?」


「大丈夫。想定通りの動作だから。1つ目は『ping』の対象を俺にしてスキルを込めた。2つ目は『ping』の対象を決めないでスキルを込めた。ミア、その『ざくろ石』を俺に戻して」


 俺はミアから『ざくろ石』を受け取り、対象をミアにして『ざくろ石』に込められたスキルを使う。


「……よし。動作した。ミアには使えなかったけど、スキル所有者の俺は問題なく使えた。つまり、スキル所有者に依存する部分を全て解決してあげれば、他の人でも使えるってことだ」


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