第31話 『俺のスキル』

「ば、バカな。エルフが魔族領に侵入し連れ去ったのだ。そして攫われたのは……魔族のカルラ様だ」


 ゲイルの強く握りしめられた拳は、怒りでプルプル震えていた。

 

 やはり個体の問題じゃないな。種族的に完全にアウトだ。


「我々は人族に何の恨みもないが、このままだと王女を救うため人族と戦うことになる。エルフの企みだと知っていてもだ」


「なぜアーサーを見張っていたんだ?」


「『剣聖』はの男だ。王から信頼されているあの男は、今回の件を必ず知っている。だが、直接会うことはできないのだ。『剣聖』が魔族に敵意を持っていた場合、我々と全面戦争になる恐れがあるからな」


 ゲイルは俺達を見る。


「だから『剣聖』の屋敷に出入りする人族を狙った。何か知っている可能性にかけたのだ」


「なるほど。けれど、アーサーに協力をお願いしても無理だな。メルキド王はエルフに逆らえない」


「そうか……やはり、力ずくで王女を救出するしかないか」


 ゲイルが意思を固めたようにつぶやいた。


 ミアが何か言いたそうな表情で俺を見る。

 安心してくれ。俺達の行動も決まっている。

 

「俺達も手伝うよ。エルフに恨みがあるからな」


「ありがとう。だが、今回の救出作戦にタクミ達を組み込むことはできない。メンバー全員の信用を得るには時間が足りないからな。これは俺の勝手なお願いなのだが。もし、俺達の救出作戦が失敗したとき……、い、いやなんでもない。忘れてくれ」


 確かに、知り合ったばかりの奴に、大切な作戦を教えるとかないな。


 俺はゲイルから離れ、ミアを手招く。

 ミアはとてとてと近寄ってきた。


「ミア、ここには2しか居ないから話す。魔族の王女救出作戦が失敗しそうになったら、魔族を助けるぞ。この話は誰にも言わないように」


「ふふふっ。わかりました。ピンチのときは勝手に助けましょう!」


 ゲイルはゆっくりと身体を反転させ、俺達に背を向けた。


「……すまない。本当にありがとう。これは俺の独り言だ」


 俺とミアは笑った。


 ◇

 

 あの後、ゲイルは仲間と会うと言ってすぐに別れた。


 俺達は今日泊まる宿屋を探すことにした。

 ゲイルに案内された酒場から近いところに、いつもより少し高級な宿屋を見つける。

 俺達は、奮発してその宿屋に決めた。

 王都には今日と明日の二日間しかいないからな。


 ――そして今、食事を終えたところだ。

 

「この後、ちょっと相談にのって欲しい」


「相談ですか? わたしなんかで良ければ、どんどん相談してください!」


 ミアは嬉しそうだった。


「実は、について一緒に考えてほしいんだ」


 俺は前から疑問だった。


 『心の壁』バリア同士がぶつかるとバリアが消える現象『中和』。

 ミアの『デフォルメ』スキルを何度試しても、『中和』を外した『心の壁』は作れなかった。

 

 つまりミアの『デフォルメ』スキルでも、『できること』『できないこと』があるのだ。

 俺の『改ざん』スキルも同じで、『できること』『できないこと』がきっとある。


 ミアに声をかけたのは、スキルの説明には記載されていない『できること』『できないこと』のルール。

 この『スキルの隠しルール』を調べるのが目的だ。


 それには、ただ1つ注意することがあった。


 ミアに余計な先入観を与えてしまうと、ミアの『デフォルメ』スキルに制限を設ける恐れがある。

 例えば、象のぬいぐるみに『デフォルメ』スキルを使って、鼻から水を出せるようにする。

 俺の予想だと、鼻から出せる水の量は無制限だ。

 けれど『デフォルメ』スキルを使う前に、俺が『象の鼻にためられる水の量は10リットルぐらいで、無制限に水は出せないからね』と教えた場合は、鼻から出せる水の量に制限がつくだろう。


 俺は、それが怖い。

 ククトさんとマルルさんを蘇生したい俺達にとって、それは詰むことになりかねない。

 けれど、ククトさんとマルルさんの蘇生に必要なアイテムを探す上でも、『スキルの隠しルール』を見つけたい。


 そこで考えたのが、『俺のスキル』について話し合う方法だ。

 『俺のスキル』の話だから、ミアのスキルとはまったく関係ないよという理論だ。

 大切なのは、ミアがこれから行う実験結果を他人事と思えるかどうか。

 これから行う『スキル』の実験結果がどうなろうとも、ミアの『デフォルメ』スキルに結びつけないよう誘導するんだ。

 

 ――俺の部屋に移動する。


 奮発しただけあって、部屋は広かった。

 いつも泊まる格安の宿は、部屋にベッド1つあるだけ。

 この部屋には、ベッド以外にも4人がけのテーブルセットが備えられている。


 俺達は椅子に座る。


「俺のスキルを今から書き出す。自分でも気づかないことがあるから、思ったまま意見を聞かせてほしい」


 俺は自分のスキルを紙に書き出した。


------

スキル

『分析』:対象に触れて情報を取得する。取得した情報は表示できる。対象に触れている時間が長いほど詳しい情報を取得できる。

『改ざん』:触れた対象に書かれてある文字を1文字だけ変更できる。

『なりすまし』:ステータスの表示内容を偽りの情報に変更できる。

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 ミアは少し考えた後、頷き顔を上げた。

 目がキラキラしている。

 あの表情は何か思い付いたに違いない。

 

「『改ざん』スキルって凄すぎです。漢字1文字の名前……例えばですけど、にできるんでしょうか?」


 まさか無生物から生物に変えるなんて発想が斬新すぎる。

 いきなりぶっこんで来たな。


「さすがにでは無理じゃないかな」


 これできると神になれそうだけど……


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