第16話 マルル
翌朝
俺達は朝食を食べた後、さっそくぬいぐるみを作れる人を探しに行く。
異世界人の俺達では闇雲に探しても見つけるのは難しいので、冒険者ギルドの受付の女性に相談した。
「そうですね。クエストとして依頼を出すのは如何でしょうか?」
なるほど、その発想は完全になかった。さっそく依頼を出してもらった。
依頼内容は、大きさは10センチぐらいの猫のぬいぐるみの製作。成果報酬は100ゴールド。材料費は別途支払い。
成果報酬の100ゴールドとギルドへの手数料20%を合わせた120ゴールドをギルドに預けた。
この報酬設定は、受付の人と相談したのでたぶん妥当なんだろう。
それから俺達はEランクの討伐クエスト『廃坑の大鼠の討伐10匹以上』を受けた。
ミアさんのレベル上げと、ゴールドを稼ぐためだ。
レベルは今の時点で俺が10、ミアさんは5まで上がっている。
念のためミアさんに防具は強化ローブと強化外套を装備させた。武器は昨日に引き続き強化スリングショットと強化石で遠距離攻撃してもらう。
――廃坑へ向かう途中。
ミアさんは街を出てから、何か言いたいことがあるのをためらっている様子だった。簡単に表現すると『もじもじ』している。
「タクミさん、実は相談があるのですが……」
「はい。どうしたんですか?」
「あ、あの、相手の名前を呼ぶときに、『さん』付けを止めませんか? 戦闘中あぶないですし……」
「確かにそうですね。僕も賛成です。では、ミアよろしくね」
「は、はい。タ、タクミよろしくです」
俺は早速呼び捨てで呼んでみた。こういうのは時間が経つほど言いづらくなるからな。
ミアの顔が赤くなっていたのが可愛かった。
◇
「本当に行くんですか?」
「うん。とりあえず様子だけでも見たい。危険があったらすぐに撤退しよう」
俺達は廃坑に来ていた。
廃坑の中は蛍石という光る石が2メートル間隔で壁に埋め込まれ、ある程度の明るさが保たれている。
蛍石はこの採掘場から採れるようで、岩石など積み上げられている箇所の近くにもよく落ちていた。
ミアの『デフォルメ』スキルで照明器具とかにできそうなので、いくつかリュックに入れる。
それから少し歩くと、腐った肉のような匂いがしてきた。
身を隠すのに丁度良い岩があったので、俺達はそこに身を潜める。
匂いがする方を見ると、地面から30センチぐらいの高さに沢山の赤い光が動いていた。
俺は警戒しミアの方を向く。
「たぶんあれが大鼠です。攻撃の準備をしてください」
ミアはわなわなと震えながら、ずっと赤い光の方を見つめている。
俺も目を凝らして見ると、6匹の大鼠が動物の死骸のようなものを食いちぎっていた。
ミアの肩をトントンと軽く叩くと、はっとした顔をし俺に気づいた。
少し心配だったが、自分の気持に活をいれるように、俺に向かって強く頷いたので大丈夫だろう。
俺達は岩に身を隠しながら、スリングショットで攻撃した。
最初の攻撃で2匹を倒した。大鼠は仲間が殺されたとき、一瞬周りを見渡しただけで、すぐに食事に戻った。
隠れながら攻撃すれば襲われることはなさそうだ。
俺達は同様の攻撃で残り4匹を倒した。
魔石を取りに行こうとしたとき、ミアが俺のローブの袖を掴んだ。
何事かとミアに聞こうとしたら、ミアは自分の口の前に人差し指を立て、静かにするよう合図を送ってきた。
俺は耳を澄ませる……遠くでカサカサと足音のようなものが聞こえてきた。
まだ仲間がいるのかもしれない。俺達はそのまま様子を見ることにした。
すると奥の通路から大鼠が5匹やってきて、また動物の死骸を食べだした。
大鼠の群れが飢餓状態でいるとしたら……これはマズイかもな。
俺達は岩に隠れながら5匹の大鼠を倒す。
近くに魔物がいないのを確認し、急いで魔石を回収して廃坑から出た。
クエストの達成条件はクリアできたので、今日は無理をせずバーセリーの街へ戻ることにした。
◇
冒険者ギルドでクエスト完了の報告をしたとき、俺達はかなり危険な状況だったと教えられた。
大鼠は大群でいることが多く、罠を仕掛けないで討伐するなんて自殺行為らしい。
俺達が大鼠を狩っていた場所は、先に誰かが動物の死骸で罠をしかけて狩りをしていた場所だった。今回はその偶然に救われた。
次からはクエストを受けるとき、倒し方や注意点も確認するようにしよう。
俺達は魔石を売った110ゴールドとクエスト報酬の100ゴールド、合計210ゴールドを山分けした。
あの危険を考えると割に合わないクエストだったな。
帰ろうとしたとき、受付の女性に呼び止められた。
「タクミ様が依頼されたぬいぐるみの件、応募がありました」
「え、早いですね。どんな方ですか?」
「腕は確かなんですが……ドワーフなんです」
「ドワーフというと鍛冶屋って感じですよね。手芸とかもいけるんですか?」
「ドワーフは鍛冶だけではなく、アクセサリーや手芸にも秀でてます。ただ、ドワーフのことを嫌がる人もいらっしゃいますので……どうされますか?」
「種族的なのはまったく問題ありません。それよりも技術的なことを確認したいので、その方と会えますか?」
「もちろんです。こちらが連絡先になります。マルルさんというドワーフの女性の方です」
俺達は一度宿に戻り、汗を流して軽く食事をしてからマルルさんへ会いに行った。
◇
街の南西にあるスラム地区の近くに、連絡先に書かれている住所のお店はあった。
お世辞にも綺麗とはいえない建物で看板はなかった。
この街でのドワーフへの扱いを考えれば、予想とおりといえる。
俺はドアをノックした。
「マルルさんいますか? 冒険者ギルドでクエストを依頼したものです」
扉の奥からガタッ、トットットット……歩いてくる音がした。
扉が開き、赤茶色の髪を後ろに束ねたドワーフの女性が出てきた。
「ワチがマルルデス。ぬいぐるみ作って欲しい人デス?」
「はじめまして、タクミといいます。ぬいぐるみを作ってくれる人を探しています。正式に依頼する前に、マルルさんの作品を見せていただくことはできますか?」
「もちろん。どうぞ中に入るデス」
……ドワーフのマルルさんはデスっ子だった。
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