第14話 収納アイテム

「この後、俺の部屋で話したいことがあるんだけどいいかな?」


「え……あ、はい。……わ、わかりました。けど、先にあ、あせ、汗を流してからでも良いですか?」


 ミアさんは急にしどろもどろな口調になった。


「ああ、俺もそうします。じゃ、ミアさん準備できたら俺の部屋に来てください」


「は、はい。わかりました」


 俺は部屋に戻り、桶の水で身体の汗を拭いた。風呂に入りたい。

 そんなことを考えていると、ミアさんが俺の部屋にやってきた。


 ミアさんは、出会った頃は不安や疲れが全身から滲み出て、顔もかなりやつれていた。


 今は自信が目に戻り、日本人と外国人のハーフの様な整った顔でかなりの美少女だった。髪は綺麗な艶のある紺色ロングで色気がある、その反面、雰囲気は愛くるしかった。


 マジか……こんなに可愛かったとは。気づかなかった。


 じーっと俺が見ていると、ミアさんの頬が赤くなる。

 

「あ、あのぉ……」


「あっ、すいません。どうぞ。狭いけどベッドにでも座ってください」


「え、いや、そのぉ……」


 なんだ、この気まずい空気は……


「実は、ミアさんのスキルについて話したかったんです。食堂だと他の人に聞かれる可能性があるから」


「あ、ああ、そ、そうですよね、気を使ってもらってありがとうございます」


 顔がさらに真っ赤になり、うつむいた。


 なんだこれは。可愛すぎるだろ。

 いや、まさかね。そっちの勘違いしてたのか?


 何をするにも、まず自分が強くならないとな弱点になりかねないからな。

 俺は意識しないように頑張った。いや我慢した。


「えーっとですね。ミアさんのスキルをどうやったら活かせるか、もっと研究が必要だと思ったんですよ」


「はい。私も何に役立つのかなって相談したかったんですよね」


 ミアさんの『スキルの素』と『スキル』を思い出してみる。

 

【スキルの素】

『素材』対象を素材にする。

『特徴』特徴の効果

『表現』対象を表現する。


【スキル】

『デフォルメ』素材の特徴を誇張、強調して簡略化・省略化してできる


 『素材』のスキルの素は、『素材を対象にする』ではなく『対象を素材にする』となっている。


 だから、ミアさんは木の枝を自由に縮小できる素材にできた。


 けれど、この『素材』が真価を発揮するのは『デフォルメ』スキルと組み合わせたときだ。


 『デフォルメ』スキルは、にしか効果がない。

 『素材』のスキルの素は、できる。


 つまり、ミアさんの『デフォルメ』スキルは、にもミアさんがイメージした特徴を付与できるということだ。

 ただし、『特徴を誇張、強調して簡略化・省略化して実現できる』ので、複雑だったり、複数のかけ離れたイメージを付与することはできないだろう。


 この『素材』と『デフォルメ』は、どんなに低く見積もっても、その能力は世界を変えてしまう。恐ろしくて考えたくもないが、核ミサイル並の兵器もイメージできれば作れてしまうのではないか。蘇生できる薬とか……


 俺が『デフォルメ』の『改ざん』を解除すれば、ミアさんのスキルは元に戻る。

 だが彼女か素材化したモノの効果は、そのまま残るだろう。

 だから、素材を作るときは俺の目があるときだけにしないとな。


「ミアさんの素材化は、一度作ってしまうとミアさんの手を離れていても使えます」


「はい」


「理不尽な奴らが、その素材で作った武器を持つ、とても危険です」


「それはとても危険ですね」


「だから、このスキルは慎重に使う必要があります。スキルを使うときは、その用途とかを僕とミアさんのダブルチェックをした後以外は使わない。約束できますか?」


「はい。私もその方が助かります。こちらからもお願いしたいです」


 ここからが本番だ。

 俺には最優先で欲しいものがある。

 ラノベ定番の収納アイテムだ。時間も止められたら最高だ。


 ミアさんの『デフォルメ』を安易に使うのは危険だ。

 それはわかる。けど、そのリスクをはるかに上回るリターンがあるのだ。


「ミアさん、収納魔法とか収納ボックス、収納バッグって言ったら何をイメージしますか?」


「ラノベとかでよくある、異次元に収納できるから容量無制限、時間も止まるから料理も冷めないし腐らないって感じですかね」


 最高だ。ここまでイメージできてるなら話は早い。


「……それ、欲しくありませんか?」


「え! そ、それはあるとかなり便利だと思いますけど……作っちゃいます?」


 小悪魔的な微笑に意識を持っていかれそうになったが、なんとか耐えた。

 俺は邪念を捨てて、『デフォルメ』スキルで、リュックを異次元収納できるようお願いした。


 ――しばらくするとリュックが淡い光に包まれた。

 

「一応できたんですけど……どうしても入れたものを取り出せる理屈というか、イメージが湧かなくて。失敗してたらごめんなさい」


 早速リュックを開けてみると、きれいな虹色模様のシャボン玉の膜のようなものがあった。とりあえず、強化石を1つ入れてみた。


 スッ--


 強化石は消えた。


「「おおおおおっ!」」


 俺達二人は驚きの声をあげ、成功に喜んだ。


 けれど、俺達はこの虹色の膜に入れた強化石を取り出せなかった。虹色の膜に手を入れる勇気が持てなかったのだ。


「ちょ、ちょっとこれに手を入れるのは厳しいですよね……」


「ミアさんの言うように、確かに取り出せるイメージがまったく湧かないです。というよりも手を入れたら、その手が消滅するイメージしか湧かないです……」


 ミアさんにスキルを解除してもらいリュックを元に戻した。


 強化石は戻ってこなかった。たぶんだが、異次元を漂ったままだろう……怖すぎる。


「ミアさんが確実にイメージできる収納アイテムってありますか?」


「あるにはあるんですが……その、あ、青い猫型のロボットのポケットとか」


「ああ……」


 確かにその4次元なポケットは、子供の頃からずっと刷り込まれているから、間違いなく成功しそうだ。


 ミアさんに青い猫型のロボットをスケッチしてもらった。


 ポケットだけでも良かったのだが、間違いがおこらないよう猫型のロボットもセットで作る。


 明日、このスケッチを元にぬいぐるみを作れる人を探すことにした。

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