第12話 ミアさんのスキル

 ミアさんの職業は『画家』だった。


 とりあえずミアさんとパーティを組むか決めないとな。

 俺の『改ざん』スキルで強化したスリングショットと強化石を渡せば、戦力としては問題ないだろう。けれど、俺にとってはあまりプラスにならない。

 

 ミアさんのスキルの素……スキル……


 ん? そんなことができるのか……


 俺の頭にひとつのバカげたアイデアが思いつく。


「正直言うと僕はミアさんのことをまだ信用できていません。だから、僕のスキルのことはまだ秘密にしておきたいんです」


「はい。さっき知り合ったばかりですので当たり前だと思います」


「けど、僕のことを信じてほしいんです。今から僕のスキルをミアさんに試したい。上手くいけばミアさんのスキルは大化けする……かもしれません」


「……痛かったり、死んだり、ケガしたりしますか?」


 憂いに沈んだ顔でこちらを見ている。

 

「いえいえ、成功しても失敗してもケガや痛みを負うようなことはありません。だから安心してください」


「わかりました。そういうことでしたらお願いします」


 そう言うと、ミアさんはホッと胸を撫で下ろした。


 俺は頷き、ミアさんの右手を両手で包むように握った。


「あっ……」


「これから5分ぐらい、この体勢でお願いします」


 ミアさんが顔をちょっと赤くしながら頷く。俺は目をつぶり『分析』スキルを使った。


------

名前:ヤマモト ミア

職業:画家

レベル:1

HP:10 / 10

SP:10 / 10

・『素材』対象を素材にする。

・『特徴』特徴の効果。

・『表現』対象を表現する。

スキル:

・デフォルメ 素材の特徴を誇張、強調して簡略化・省略化して表現できる

------


 表示されたステータス画面は、予想通りの内容だった。

 これならいけるかもしれない。


 次に『改ざん』スキルを使った。


 ……

 …………


 改ざんは成功した。

 『デフォルメ 素材の特徴を誇張、強調して簡略化・省略化して現できる』に書き換えたのだ。

 

 ミアさんに『デフォルメ』スキルの効果が変わったことを説明したら、ミアさんは目を大きく開いて驚いていた。

 

「では、ちょっとスキルの効果を試してみましょう」


 そう言って俺は近くに落ちていた木の枝をミアさんに渡す。


「はい?」


「木の枝を誰もいない方に向けて。それから木の特徴をイメージして、『デフォルメ』のスキルを木の枝に使ってみてください」


「す、すみません。ちょっと意味がよくわからなくて……」


 困惑したような目つき俺を見ている。

 確かにいきなりこんなこと言っても意味わからんな。

 ここは丁寧に説明しよう。

 

「木の特徴ってどんなことイメージしますか?」


「えーっと、すくすく伸びていくイメージですかね」


「じゃあ、頭に白いキャンバスを思い浮かべて、木の枝を描いてください」


「……描きました」


「こんどは『伸びる』ってことを漫画やアニメのように、大げさな表現で木の枝に描き足してください」


「なるほど、アニメみたいに、大げさにですね……」


 声をかけるのが憚られるぐらい、ミアさんは集中している。


 ――3分ぐらい経ったとき、ミアさんの持っている木の枝が淡く光りだした。

 

 ズヌッ、……グババハババッ


 音と共に小枝がすごい勢いで伸びていった。


「ストップ、ストップ。ミアさん止めてください」


「はっ!? うわわわわっ」


 目を開けて、今の状況に気づいたミアさんは声を出して驚いていた。

 イメージするのを止めたらしく、小枝は2メートルぐらい伸びて止まった。


「こ、これはどうなってるんですか!?」


「ミアさんの『デフォルメ』スキルの効果ですね。思った通りの効果です」


「えーーーー」


 まだこれで驚かれては困るのだ。

 俺にはこの先のアイデアがある。


「では次のステップにいきましょう」


「ま、まだあるんですか!?」


「もちろんです。次の実験の前に、さっきの木の枝を元の状態に戻してください」


「は、はい。えーっと、あっ、できました」


 今度はすんなりと元のサイズに戻せた。

 この異常な状態をだんだん受けいれられるようになったみたいだ。

 

「その木の枝が素材になるようイメージしてください」


「素材ですか?」


「そう素材です。その素材で木刀を作ると、持ち主の意思で木刀を自由に伸び縮みできるようになるイメージです」


「如意棒みたいな感じですね。……やってみます」


 ――3分ぐらいすると、ミアさんは俺の方を向いた。


「たぶんできたと思います」


 ミアさんから渡された木の枝に意識を集中し、少し伸びるようイメージした。


 グッグググ…… 木の枝はイメージ通り伸びた。


「うおおおおおっ! 伸びた。伸びましたよ」


「す、すごいです。本当に伸びるなんて……タクミさん、本当にありがとうございます」


 それを言った時のミアさんは、暗くなっていた心の中に一点の明かりが灯したように、希望が見えてきたような明るい顔だった。

 

「いえいえ、すごいのはミアさんのスキルですよ。僕はちょっと手を貸しただけです。パーティの件ですが、僕と組んでもらえますか?」


「是非! よろしくお願いします」


 こうして俺とミアさんはパーティを組むことになった。

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