第11話 異世界人
「おいまて、おまえ異世界人か?」
「…………」
俺は状況を把握するための情報が欲しかったので、無言のままでいた。
「無言ってことは、おまえ異世界人だな」
おっさんが決めつけたように言い放つ。
周りとかけ離れた高級感のある服で着飾ったエルフの男が、軽蔑するような目で俺を見て言った。
「職業とスキルの素はなんですか? 速やかに答えなさい」
その見下した口調に、俺は怒りよりも警戒の気持ちが強くなる。
「なぜ教えないといけなんですか?」
「ありがたく思いなさい。使えそうなら、私達のパーティに入れてあげようと思ってね」
冗談ではない。いいように使われ搾取され続ける生活しか見えない。
「お断りします。さようなら」
とにかくこの場から離れたかった俺はそう言うと、エルフの横を通り過ぎようとする。だが、おっさんが俺の進行を邪魔するように前に出てきた。
おっさんは自分のパーティの方に顔を向ける。
「ヒロシ、どうだこいつ使えそうか?」
「いや、ダメだな。遠くから物投げて戦う感じだ。ザコ相手にはいいが俺達には不要だな」
「ちっ……やっぱり使えねーか。昨日の奴といいハズレばかりだな」
おっさん達は俺に興味を失くしたらしく、こちらを振り返ることなく街の奥の方へ歩いていった。
やっと目の前から消えてくれたか。
あのヒロシとかいう奴、名前からして異世界人だな。しかも鑑定持ちか。
俺の装備の異常さについては気づいてなかったな。念のため装備も『なりすまし』スキルで偽装しておくか。
俺は疲れたので、今日はもう宿屋で食事して寝ることにした。
◇
朝ベッドで目覚めた。
ロゼッタ村の部屋よりも布団の質が良く、ぐっすり眠ることができた。
1階は食堂になっていて味は不味くない。というより、この世界に来てから一番美味しかった。
昨日はおっさんとエルフのパーティに絡まれたが、とりあえずEランクに昇格しとくか。またバカにされるのも嫌だしな。
◇
冒険者ギルドに入り、クエストボードの前に立つ。
ちょうど良さそうなクエストを探していると、後ろから声をかけられた。
「あのぉ……ちょっといいですか……?」
自信の無い小さい声の主を見ると、15歳ぐらいの少し小柄な女の子だった。かなり疲れ切った顔をしている。
「なんでしょうか?」
「わ、わたしとパーティ組んでもらえないでしょうか。本当に、本当にお願いします」
切羽詰まった顔で、深々と頭を下げてくる。
「えっ、ちょ、ちょっと落ち着いて。どうしたんですか?」
「わたし、弱いし何もできなくて、だから誰もパーティ組んでくれなくて……どうやって暮らしていけばいいかわからなくて」
答えはなんとなく予想できるが聞いてみる。
「家族はどうしたんですか?」
「いません。3日ぐらい前この世界に来たんです。来た当初は他の人達もいたんですが、私のスキルの素と職業がわかるとパーティから外されてしまって……」
……予想とおりの答えだった。
この街にきた目的は異世界人に会うこと。このまま放置するのも寝覚めが悪くなりそうだ。
「ちょっと食事しながら話を聞いてもいいですか? 僕もお腹減ってるんで。奢りますからこの街のこと教えてください」
「えっ……いいんですか! ありがとうございます。私の知ってる事ならなんでも聞いてください」
◇
スキルの話とかも聞きたかったので、適当に肉やパンを買って、公園の人気のないベンチで食べることにした。
「お、おいしいです。ぐすっ……昨日から何も食べてなくて、本当にありがとうございます」
「気にしないで、沢山買ったから好きなだけ食べて。あっ、僕はタクミです。名前からわかるとおり異世界人です。この隣の村に転生しました」
「やはりそうなんですね。わたしはミアです。この街に転生しました」
ん? 異世界人の識別方法があるのか? 気になったので聞いてみる。
「昨日、ギルドの外でエルフやおじさん達に話しかけられてるの見ちゃったんです。私も実は同じように異世界人だろって話しかけられて……」
「あっ、そういえばあいつら、昨日も異世界人をスカウトしようとしてたって言ってたな。ミアさんのことだったんですね」
「はい。なぜか職業とかスキルの素とか知られていて、大声でバカにされてしまったから……その後はどこのパーティにも、入れてもらえなくなって。実際にわたしは弱いからしょうがないんですけどね」
やはりあのヒロシって奴は鑑定持ちだな。
「嫌だったら断ってほしいんだけど、ミアさんの職業、スキルの素、持っているスキルを教えてもらえないですか? 何か力になれるかも」
ミアさんは頷き、ステータスを教えてくれた。
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名前:ヤマモト ミア
職業:画家
・『素材』対象を素材にする。
・『特徴』特徴の効果
・『表現』対象を表現する。
スキル:
・『デフォルメ』素材の特徴を誇張、強調して簡略化・省略化して表現できる
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なるほど、確かに戦闘は厳しいな。かといって生産職としても微妙。
「もしかして、ミアさん日本では画家でした?」
「はい。美大で絵画を専攻してました。冒険者登録するときに、どの職業にもなれるって言われて、憧れてた画家で登録しちゃいました。……ここは日本じゃないのにほんとバカですよね」
……一緒に転生してきた奴ら。誰か止めろよ。
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