第6話 初めての戦闘

 俺は見晴らしのいい草原に立っていた。

 緑の匂いが小学校の頃の夏休みを思い出させる。


 俺はゴールドを稼ぐため、魔物狩りに来ていた。場所は村の近くの森は視界が悪いので、歩いて10分ぐらいにある草原にした。


 探している魔物は、スライムとゴブリン。


 村を出るときに門衛の男から「おまえのランクだとスライムかゴブリンだな。この辺は弱い魔物しかいないが、他の魔物はまだ止めておけ」と忠告されたからだ。


 装備のレンタル代と飯代、最低でもこれを稼がないとな。

 レンタル代がスライム1匹って、ギルドマスターのハンナさんが言っていた。


 スライム10匹ぐらい倒せば、明日の朝分までの飯代は稼げそうだな。

 

 ん? ……あれがスライムか。


 水色の球上のモノがバッタのように跳ねているのが見えた。

 1回に跳ねる距離は50センチ程度だ。気づいていればまったく怖くない。

 

 HPが10しかないので、遠距離攻撃で戦うことにした。

 武器は『改ざん』スキルで攻撃力を『+9』にした石ころだ。


 俺は『改ざん』スキルで加工したものを強化と呼ぶことにした。


 だから、この石ころを石と呼んでいる。


 まずはキャッチボールぐらいの速度で、スライムに強化石を投げてみた。


 バシャッ!


 強化石はスライムの身体を貫通した。スライムは水風船が割れたときのように弾けてしまった。


「……へ?」

 

 あまりの呆気なさに思わず声が出てしまった。


 弾けたスライムの破片は黒い煙に変わり、空気に溶けていった。

 そこに小さな宝石のような石が落ちていた。

 この綺麗な石が魔石と呼ばれ、電気のようにエネルギーとして使われるらしい。


 魔石は冒険者ギルドで買い取ってくれる。


 買い取り相場は、スライムの魔石は2ゴールド。ゴブリンは5ゴールドだ。

 

 俺はスライムの魔石をリュックに入れた。強化石も忘れずに拾う。


 次はゴブリンを探すことにした。

 

 少し離れた川岸に、緑色をした子供ぐらいの体格の魔物を見つけた。


 あれがゴブリンか……よし、1匹だけだ。


 右手に強化石、左手に強化ナイフを持ち、そっと近づいていく。

 けれど、まわりには隠れる場所がないため簡単に見つかってしまった。

 

「ギギギギッ」


 ゴブリンは棍棒を手に持ち襲いかかってきた。


 まだ距離はある、慌てるな。


 確実に外さない距離まで引き付ける。


 ……5メートルぐらいの距離で、俺は強化石をゴブリンめがけて思いっきり投げた。


 ズボッ!

 

 強化石はゴブリンの胸を貫通した。


「……へ?!」

 

「ゲフ……グェェ…………」


 ゴブリンはそのまま動かなくなり、黒い霧となって消えた。


 魔石が残り、ゴブリンの持っていた棍棒も黒い煙となって消えた。魔物の装備も本体を倒すと消えるようだ。


 まて、まて、それよりもだ。


 いくらなんでも魔物が弱すぎないか? リアルに紙装甲ではないかっ!

 俺は魔物との戦闘で勝利したことに喜ぶ、ではなく戸惑っていた。


 冷静になって考える。


 もしかして、俺が強すぎるのか……なんて勘違いはしない。


 普通のナイフで攻撃力+3。強化石は+9。


 これは、ドラ○エであれば、武器が2つぐらいグレードが上の武器で戦ってることになる。

 強化石がチート武器だったのだ。


 俺はSPが回復する度に、『改ざん』スキルで強化石を作った。


 普通の石だと投げた後に見つからなくなる可能性が高いので、川で色の付いた投げやすい石を見繕った。


 ◇

 

 俺が村に戻ったときは、もう夕暮れだった。


 冒険者ギルド入り、ハンナさんを呼んだ。


「この魔石の買い取りお願いします。あと、おすすめの装備が買える店と食事のできる店を教えてください」


「さっそく魔物倒してきたんだね。どれどれ、スライムの魔石5個、ゴブリンの魔石10個……」


 ハンナさんが固まってしまった。


「あんた、何人で狩りに行ってたの? えっ、1人だってぇ!?」


 大丈夫だよハンナさん。ラノベ愛読者の俺にとって予想の範疇だ。

 

 ハンナさんはすごく驚いたあと、同じくらい褒めてくれた。


「魔石の買い取り代金は冒険者カードに記録するかい? 買い物したとき冒険者カードから支払えるから便利だよ。荷物にならないからね」


「それは便利ですね。冒険者カードに記録してください。あっ、今日と明日の2日分の装備レンタル代を払うので、差し引いてくださいね」


 今日の稼ぎは、魔石買い取り代金60ゴールドだった。

 冒険者カードを渡して、装備レンタル代を引いた56ゴールドを記録してもらった。

 

 とりあえず食べる心配はしなくて良さそうだ。

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