第4話 冒険者ギルド
村長から教えてもらった建物の前に来た。
建物の看板には見たことのない文字が書かれている。だけど、なぜか『冒険者ギルド』と読める。
そういえば村長と話していた言葉は日本語だったのか?
これについてはあまり深く考えてはいけない。
ラノベ愛読者の俺にとって予想の範疇だ。
冒険者ギルドのドアを開け建物の中に入る。
拍子抜けだ。部屋の中には誰もいなかった。
受付ぐらい誰かいろよとツッコミたい。
受付カウンターの上を見るとベルがあった。
これを鳴らせってことかな。ベルを手に持ち振ってみる。
カランカラン。
カウンターの奥の部屋から、ドタッ、ガサッ……と音がした。
奥の部屋から出てきた女性は、年齢40歳ぐらいの肝っ玉母さんという感じだった。
「いらっしゃい。ここでギルドマスターをやっているハンナだよ。といっても、働いてるのは私しかいないんだけどね」
このぐらいの村だと、ギルド職員は1人で足りるらしい。
「めずらしいね。見たことない顔だから、あんた異世界人かい?」
「はい。さっき村長にも言われました。この世界のこと全くわかりませんが、よろしくお願いします」
「あら、なんか妙に落ち着いてるというか、慣れてる感じがするねぇ」
ラノベ愛読者の俺にとって、初めての冒険者ギルド訪問は予習済みだ。
「冒険者登録したいんですが、どうすればいいですか?」
「この登録用紙に必要事項を書いてちょうだい。代筆が必要かい?」
「自分で書ける気がするので、試してみます」
「はい、これが登録用紙だよ。試してみますって、ほんと慣れてるねぇ……」
どれどれ、おっ、不思議な感覚だけどこっちの世界の文字が書ける。
日本語を意識しすぎると、文字が日本語になる。何も考えずに書くのがコツか。
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名前:アライ タクミ
出身:
職業:
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「出身の欄は、なんて書けばいいですか?」
「出身欄のところは、異世界人は初めて訪れた地名を書く決まりがある。だから『ロゼッタ村』って書くんだよ」
「職業欄は?」
「自分のなりたい職業だね。そうそう、異世界人にはこれを伝えるんだっけ。あんた『スキルの素』って持ってるかい?」
俺は頷いた。
「スキルの素ってのは、異世界人しか持っていないんだ。冒険者登録して経験を重ねると、自分の職業に関連したスキルを身につけることがある」
スキルきたぁぁぁぁー! 夢にまで見たスキルが手に入る。
叫びたいほどの歓喜をなんとか抑えた。
「とても嬉しそうだね。ここからが肝心なところだよ。『スキル』は『スキルの素』から生まれるんだ。スキルの素と関係ないスキルは生まれない」
『元素』が『物質』の根源をなす要素のように、『スキルの素』は『スキル』を構築するため要素。
つまり、『剣のスキルの素』からは、魔法関係のスキルは生まれないってことだ。
よしっ! ここまでは予想通りだ。
「じゃあ質問だ。注意しないといけないことは?」
「職業ですね。スキルは職業に関連したものしか身につけられない。スキルはスキルの素から作られる。だから、スキルの素と相性が良い職業を選ぶのがポイントってとこかな」
「正解だよ! こんなにすぐ理解できたのは、あんたが初めてだよ」
スキルの素と相性の悪い職業を選ぶと、スキルが発生しない、または使い勝手の悪いスキルになる。
スキルは1つだけでなく、どんどん増えていくようだ。
スキルの素って思ったよりキャラメイクに影響しそうだ。
あっ、大事なこと聞かないと。
「職業を変えたいときはどうすればいいんですか?」
「職業は一度登録すると変えられないよ」
「え? 冒険者ギルドを脱会して、再入会するときに職業変えてもダメですか?」
「実は『職業』なんて言ってるけど、実際は魂との契約なんて言われてる。スキルを身につけるには具体的なイメージが必要で、それを『職業』という言葉を使ってイメージしやすくしてるのさ」
なるほど魔法系のスキルを身に付けたければ、魔術師や僧侶とか。
火の魔法に特化したければ、火魔法使いとか。
……そもそも火魔法使いなんて名前の職業はあるのか?
ん? ……まさか。
「職業って、もしかして自分が知っていれば、他の人が知らない職業でもいいんですか?」
「もちろんいいさ。職業は自分がスキルを身につけやすくする為のものだからね」
おいおい、マジかよ!
これ大事なんてもんじゃないよ。
ゲームだったら最初からやり直すレベルの情報だ。
俺のスキル素は3つ。
・接触
・変更
・文字
相性の良い職業は……やっぱりこれかな。
俺は登録用紙に残りの必要事項を書き込んで、ハンナさんに渡した。
「じゃあ登録するから、ちょっと待ってなよ」
――ハンナさんが奥の部屋に入ってから5分が経った。
「はいできたよ。これが冒険者カードだよ。それにしても、聞いたことない職業だね」
渡された銅製のカードには俺の情報が彫られていた。
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名前:アライ タクミ
出身:ロゼッタ村
職業:ハッカー
ランク:F
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