第2話 早いもの勝ち

「ごめんなさい」


 仲間に誘ってくれた相手に、そう返事をした。


「誘ってくれてありがとう、けれど俺は自分のペースでやりたいから」


 男は腑に落ちないという顔をしているが、それ以上尋ねようとはしなかった。

 俺は極度の人見知りというわけではないが、人付き合いが疲れるタイプだ。

 特に陽キャ因子の強いグループには入れない。いや、入りたくないんだ。

 

「……わかったよ。もし入りたくなったら声かけてね。時間をとらせて悪かったね」


 そう言い残して男は仲間の元に戻っていった。


「なんだアイツ、せっかく声かけてやったのに……」

「ボッチが恩を仇で返すとか、マジキモいんですけど……」


 小さい声ではあるが、隠す気のない声が聞こえてきた。


 良かったよ。誘いを断って。

 俺の方がマジ無理だって言ってやりたいが、今は時間が無い。


 ステータス画面の制限時間を確認すると後5分しかなかった。


 魔法、攻撃、時間、空間といったチートをイメージできるものは全て(検討中)か(済)になっている。生産系も同様だ。


 けれど、俺はあることに引っかかっていた。

 

 スキルじゃなくて『スキルの素』なんだよな。


 『元素』が『物質』の根源をなす要素のように、『スキルの素』は『スキル』を構築するための要素ではないのか。

 

 スキルの素は組み合わせて使える?

 スキルの素は汎用性の高い方が良いのでは?


 考えながら、ふと周りを見ると空間内に残る人数は20人を切っていた。


 制限時間を見ると後3分。


 もうじっくり考えている時間はない。

 自分の直感に従ってスキルを選択することにした。


 :

・癒やし(済)

・連絡(済)

・光(済)

・強奪(済)

 :


 まずい。(済)を目に入るたび焦りが増してくる。


 :

・筆

・接触

・爪

 :


 あっ、何かが頭に過った。


 漫画やアニメでは、強すぎるスキル、またはスキルを強くするには何らかの制約がある。

 例えばMPの消費が多かったり、使用回数に制限があったり。


 『接触』なんてスキルを強くするときの制約に良さそうじゃないか。

 悩んでいる時間もないので『接触』を選択した。


 やばい。あと2つもある。急がないと。


 :

・糸(済)

・合成(済)

・抽出(済)

 :

 

 ダメだ。ほとんど(済)になっている。


 そ、そうだ! 一番下から上に向かって探そう。ほとんどの人は上から下に探しているはずだ。


 急いで一番下の項目までスクロールさせた。


 制限時間は残り2分。


 :

・罠(済)

・文字

・猫

 :


 頭の中でひとつのアイデアが閃いた。


 もしこれから始まる世界が想定と違う場合、そのとき俺は最弱な異世界転生者になるだろう。


 みんながスキルを使い人生を謳歌するなか、俺は村人Aとなって一生畑を耕すのかもしれない。


 けれども、俺は自分のアイデアに全てを賭けることにした。


 『文字』を選択し、最後のスキルの素を探す。


 俺のアイデアのために必要なスキルの素。


 最後の1ピース。


 ――制限時間:残り1分


 :

・隠蔽

・飼育

・変化

 :

 

 ぐぬぬぬぬっ…… なかなか良さそうなスキルの素に目がいってしまうが我慢だ。


 今さら方針を変えても手遅れだ。


 最後の1つ。


 早く出てきてくれ。


 ――制限時間:残り10秒


 :

・修正(済)

・変更

・鉄

 :


『時間になりました。これより転移が始まります』


 ステータス画面に文字が表示され、俺の身体は光に包まれた。


 次の瞬間、景色が変わり目の先には天井が見えた。


 ◇

 

 ここは何処だ? 周りを見渡してみる。


 木造作りの10畳ぐらいの部屋に、俺が横になっているベッドが1つ。


 どうやら制限時間一杯まで粘って、強制的に転移させられたらしい。


 とりあえず現状を確認することにした。


「ステータス」

 

------

名前:アライ タクミ

状態:正常

レベル:1

HP:10

SP:10

スキルの素:

・接触

 触っている対象への効果を上げる

・文字

 文字の効果

・変更

 変更の効果

------

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