第37話  好きな子にフラれました

 このままじゃいけない!

 なぜって好感度が下がるとかフラグが折れるとか、そういうんじゃないからだ。

 好感度が下がったわけじゃない。

 なぜって最初から好感度なんてなかったからだ!

 ゼロからマイナスになっただけ。

 ただ単に嫌われただけである……。


 僕は部屋から出て彼女を追う

 追うがすでに姿はない。

 階段がすぐそこなのだ。


 階段まで行くと、話し声が聞こえた。

 階段の踊り場で誰かが話している。


 そっとうかがうと、会話していたのは白皇先輩と藤堂先輩の二人だった。

 立ち聞きするわけじゃなかったけど、思わず廊下の端っこに隠れてしまう。


「王都に行かないってほんとか」

「うん」

「佐田か?」


「っ! 知ってたの? 小夜子?」

「いや誰かに聞いたわけじゃない」

「でもどうして?」

「お前をいつも目で追ってるからな。そりゃなんとなくわかるよ」

「そう……なんだ。わかっちゃうものなんだね」


「佐田はだけど、ここにはいないんだぜ? ここにいる意味あるのか?」

「佐田くん、この学校大好きだもの。どこか別の場所に転移してたしても、きっとこの学校に戻ってくる気がするの」

「それは考えられるな」

 藤堂先輩は苦笑には温かいものが含まれていた。


「でしょう? 私、ここで待ちたい」

「王都に行けば情報が入る。召喚師が何か知ってるかもしれないだろ」


「響子と小夜子が行く予定なの。あの子たちに頼んでいる」

「すぐに知らせるわけにもいかないんじゃないか」

「理事長先生に聞いたけど、連絡をとる手段はあるんだって」


「俺はつかさに来て欲しい」

「無理」


「俺はつかさが好きだよ。何度でも言うよ。本気なんだ」

「ごめんなさい。私、誰とも付き合う気ない」

「ここは異世界だ。もう本当に親には遠慮はいらない。つかさが佐田と付き合うつもりならそう言ってくれないか」


「そんなこと。私の片想いだもん。言えないよ」

「俺ははっきりして欲しいんだ。つかさが本気で佐田と付き合いたいというのなら、俺だって諦めるよ。応援はできそうにもないけど」


「佐田くんとあんまり話したことないんだよ?」

「それでも生徒会長と副会長だ、まったくってことはないだろ?」


「それはそうだけど」

「佐田はわりと女子と話すほうだけど、自分から話しかけるタイプじゃないぜ……俺、何言ってるんだろうな」

 藤堂先輩の苦笑には自嘲めいたものがあったと思う。


「彰人くんっていいひとだよね……」

「いいひと扱いは初めてだよ」

 藤堂先輩はまた少し笑う。


 ちょっとした沈黙。きっと白皇先輩は意味が解らず愛らしく小首を傾げているのだろう。

「俺はいいひとなんかじゃない。佐田がいないいまがチャンスだと思ってる。つかさと少しでも一緒にいたい……って誰かいる!」


 ヤバい! バレたーーー!

 もうどうしたらいいの?

 とはいえ、ここで逃げたら最悪だ。

 僕は自分から階段に姿を出した。


「おまえかよ、ショータ」

 藤堂先輩は少し安堵するような吐息を漏らした。

「す、すみません!」

「どこまで聞いてた?」

「白皇先輩が、その佐田先輩のこと、好きだってところからです」

「おい! 立ち聞きはやめろよ!」

 藤堂先輩が珍しく怒声をあげた。

「すみません!」

 土下座できるものなら土下座したい。

「ここで聞いたことは一切言うな!」

「わかってます! ほんと、すみません!」


「私を追ってきたんでしょ?」

 白皇先輩は僕をまっすぐ見上げてきた。

「はい……誤解をとこうと思って」


「誤解でも本当のことでもどちらでもいいの。あなたに興味ないから」

 絶対零度ですらなかった。軽蔑ですらなかった。何というのか、本当にどうでもよさそう。

 僕は泣きそうで身体を震わせた。


「つかさ、いくらなんでもそんな言い方……」

 藤堂先輩が引いていた。


「彰人くんは黙ってて。響子と小夜子のこと、感謝するわ。でも二度と私たちに近づかないで」

「は、はい」

「おい……」

「いいの。彰人くん、この話はこれまで」


 白皇先輩はさっさと階段を降りていった。


 僕は涙をこらえるために俯いてまま身体を固くするしかなかった。

 ここで泣くわけにはいかない。

 藤堂先輩に心配をかけたくない。


「おい、大丈夫か? つかさがあんなこと言い方するなんて初めてだぞ、何やったんだよ?」

「へ、へんなことはしてませよ!」

 藤堂先輩に誤解されるのはだけは嫌だった。


「そりゃ、信じるよ 俺だって人をみる目はあるつもりだ」

「と、とにかく僕、先輩に軽蔑されるようなことしたみたいな、誤解されちゃって」

 いや誤解なんだろうか? 新垣先生が来なければ、先生たちとエッチする気だったことは確かなのだ。


「どんな誤解だ 俺が言っておいてやるよ」

「いいです。もう本当にいいんです」


「でもな、俺の気が済まないな。お節介か?」

「いえ! お節介なんてとんでもないです!」

 少しの沈黙が降りた。

 どうすればいいんだろう?

 藤堂先輩の誠意に応えるべきなんだろうか?


「実は僕、白皇先輩のこと好きで」

 もういいや。

 藤堂先輩に軽蔑されても。

 どうせ僕はクズなんだ。


「それだったらなおさらだろ」

「でも、来生先輩や神月先輩も好きで」

「ん? つまり憧れとか、そういうことか」

 はあっ。

 これを言ったら軽蔑される。

 でももういい。もういいんだ。もう藤堂先輩との縁もこれまでなんだ。

 最後は僕のクズっぷりを告白しておこう。

 それが僕なりの誠意だ。


「違うんです。結婚したいんです。三人ともお嫁さんにしたいんです」

 藤堂先輩は笑った。

 笑ったが、どうにも戸惑いも隠せない。


「本気で?」

「本気です。ハーレムを作るのが夢なんです」

 藤堂先輩はまじまじと僕を見た。

 僕が「冗談です」と言い出すのを待つように。


「あーそれは最低だ」

「はい最低です」」

「いいわけできないな?」

「いいわけできないです」


「とりあえずそんなへんな考えからあらためるんだな。そうしたら俺から言っておいてやってもいい」

「本気なんです」


「最低だな?」

「はい」

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