第28話 《無限の者》
「ここにいる三人の若者とは話しをせねばならぬと思っていたところだ」
カディアさんは僕たち三人の前に立った。
「ふむ」
となにやら納得した様子。
「なかなかの美丈夫ぶりだ。さすがは《無限の者》の候補である」
カディアさんは藤堂先輩とタカ先輩を見上げて満足げにうなずいた。
「む」
とカディアさんが僕を見た。
「貴公が気を落とすことはないぞ。なにごとも例外というものがある」
例外って……。すみませんね! 美丈夫じゃなくて!
カディアさんはタカ先輩の真正面に立った。
微妙にそわそわしはじめた。
「そなたの名前を聞きたい」
「俺ですか?
「トージョー・タカフミ……」
カディアさんは、フフと微笑んだ。
「ところでトージョーは既婚者だろうか婚約者がいるだろうか恋人がいるだろうか?」
カディアさんは早口でまくしたてた。
「姫さま!」
緑髪のミリアさんが割って入った。
「御立場をお考えください!」
はあっとため息をついたのは銀髪のアノアさんだ。
「
「いつもではない! 心外だ! 私はただ単に好ましい男にだな……」
「それが『いつも』と言うことです」
「私には時間がないのだ。あやつと結婚する前に、恋をしておきたい。それが悪いことか?!」
「開き直った」
「開き直りましたね」
「こうなれば、お館さまに報告するしかありません」
「好きにせい! それくらいで私の心は折れぬ!」
「では御母堂に……」
「私が悪かった! それだけはやめてくれ!」
「はあっ」と緑髪のアノアさんのため息のあと、理事長室に沈黙が下りる。
カディアさんは僕たちの視線が集まっていることを思い出したように、「んんっ」と咳払いをすると、威儀を正した。
「ここにいる三人が《無限の者》の候補である。王都に連れていく」
カディアさんは宣言した。
「他の召喚されし者たちもいずれは王都に連れていかねばならない。《無限の者》である可能性があるゆえ、捨ておくわけにはゆかぬ」
「そうおっしゃるのであれば」
蒼麻貴子先生の顔には決然たるものが宿っているようだった。
「全校生徒全員で王都に向かいましょう」
カディアさんは思案するように沈黙した。
「全員か……難しいな。たが、よいアイデアかもしれぬ」
「姫さま!?」
緑髪のミリアさんがうわずった声をあげた。
「軽率です! この城の者全員では受け入れ先がありません!」
「野営をすればよい。軍旅と思えば……」
「それが問題なんです!」
緑髪のミリアさんの剣幕に、カディアさんは首をふっただけだった。
「
カディアさんの口ぶりには皮肉な響きがあった。
「叛意ありと疑われます! 戦争になります!」
「それもよいかもしれぬだろう? 王家の味方が誰か思い知らせてやる」
「姫さま~」
緑髪のミリアさんの泣きが入ったところで、銀髪のアノアさんが助け船を出した。
「姫さま、あまりミリアをからかわないでください。こいつに洒落は通じません」
カディアさんは、悪かったと言いたげに手を振った。
「そういうことだ、ソーマ殿。全員というのは無理だ」
「集団行動は身を守る基本です。異郷の地でバラバラになるつもりはありません」
「バラバラにはせぬ。貴公とそこの者たちに先に王都に出向いてもらう。そののち残りの者たちを王都に呼び寄せる」
「わたくしには、生徒はもちろん、教職員全員に責任があります。彼らを置いてゆけません」
ふっとカディアさんは息をついた。
「よき
カディアさんはすっくと立ち上がった。
「なににせよ、父上に相談せねばなるまい。少し先走ったようだ。許されよ」
蒼麻貴子先生も立ち上がった。
「お父上にはよしなにとお伝えください」
カディアさんたちを校庭まで見送ったのは、理事長室にいた蒼麻貴子先生はじめ全員だった。
グリフィンを間近にみて、僕は少し興奮したけど、他のみんなはおっかなびっくりだった。
グリフィンが颯爽と舞い上がると、誰とも知らない賛嘆の声があがった。
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