未来を決める衝撃の神託


 おれの名前は霧雨きりさめ水月みなつき

 ロリコンである。

 小さな胸が好きな人間である。

 百合好きである。

 個性豊かな属性が好きである。

 そして行き過ぎた爆乳に並々ならぬ嫌悪感を示す人間である。

 

 現状報告。

 エルフ幼女に転生した。以上。

 自分磨きもせず、将来のために漫画同好会に入って、ヤンデレに目を付けられた後輩を助けたら殺された。

 あれは酷い事件だった。

 その後輩はそう、なんか部活にひとりは居るちゃら付いた奴だった。

 どうもヤンデレに前から付けられていたり、所持品を漁られたりして困っていたらしい。

 ある日全員集まっているときに部室の中で、後輩が意を決した表情で相談してきたんだ。


「助けてください! ストーカーに目を付けられて! どうかっどうか助けてください!」


 ってさ。

 いや知らねぇよって話。

 親に相談しにくい。

 警察に言っても事件が起きるまで動くことはできないだの言われて取り付いでもらえなかったらしい。

 だから友人や部活動にいる先輩後輩、信用のおける人に助けを求めたんだと。


 おれの人生には関係の無い話だしどうでも良かったんだけど、部室に居る奴らはそうじゃなかった。

 一部の奴は一様に後輩を助ける流れになっていたんだ。

 

 正直なところ、この後輩は良い奴だ。

 ムードメーカー的存在で率先して動けるし、良いところ探した方が早い。

 話上手だし、最新のトレンドとか常にチェックしているから知らないことがあればすぐに教えてくれた。

 おれも何度か世話になったから、部活の空気的にも手を貸すかってなったんだ。

 そうしておれが殺されたのは文化祭の終わった日だった。

 打ち上げの役割分担でおれとその後輩が買い出しに選ばれたんで一緒に出掛けたんだ。

 そしたら、


「そうよ、私より神無月くんと仲が良いアンタが悪いの! 死んで当然よッ!」


 とかいう意味分かんねぇ理由でストーカーにナイフを刺されて死んだ。

 男同士だよ? 見境なくね? 頭腐女子かな?

 後輩は救急車呼んでくれていたみたいだけど即死だった。

 人って死ぬと俯瞰視点で世界を見ることができるようで。

 おれがおれの死体を見下ろしていた。

 その後、おれの死は無駄なのかどうか気になった。

 なので確認したところ、ストーカーは捕まっていた。

 そんで神無月の奴も数か月経った頃に知らない彼女を作って付き合っていた。

 しっかり爆発するよう呪いを掛けてきたから、もう良いかなって完全に意識を閉ざした。


 次の瞬間なんかおれは美幼女エルフ、ライカとして目を覚ましていた。


 うーん、自分でも何を言っているか分からない。

 確かに異世界へ行って優しい可愛い女の子に囲まれたいなぁとか思っていたよ? 

 だって現実の女子は基本腹黒しかいないから。(偏見)

 けどさ、なんで女?

 幼女のすべすべお腹をいつでも見れるからいいけど。

 それとエルフ……なんだけど……おれは唖然としていた。


「お主の適性クラスは戦士じゃ」


 首に掛かるほどの顎髭を携えた老齢のエルフ、ニルスさん。

 その祈るように目を瞑っていたニルスさんに、おれはハッキリとそう宣告されていた。


「戦士……ですか?」


「うむ」


 おれが聞き返してみるも答えは変わらない。

 神託を受けとった様子のニルスさんは目を閉じて頷き返す。

 巨木の切り株をくり抜いて作られた教会。

 まさしく精霊の寵愛を受けたかのような雰囲気だ。

 突き抜けの天井から差し込む安らかな日差し。

 小さな光の粒がまばらに零れ落ち、おれを含めた3人のエルフを照らしていた。

 ここはエルフの教会ともいうべき祠。

 3歳になると、神様直々にその人にとって何が得意かの適性能力、クラスを言い渡される場所だ。


 何度も言おう、おれはエルフだ。

 おれが生まれ変わった後のかあさんもねえさんも知人も隣人も、みんな魔法使い適性と出ている。

 これは最も長寿な種族だからだ。長く生きられるため知識を蓄えやすい。

 精霊とも密接な関係であるため、内包する魔力量も多い。

 なんていうのは建前で、そういう風に神に作られたって、だから魔法使いが適性って出るのが普通だって本で読んだことがある。

 なのに……戦士……? 


 おれは例えようのない痛みを頭に感じて足がふらつきそうになる。

 だがまだだ。まだ気落ちする時間じゃない。

 エルフといえば、魔法使いのほかにも名手として知られている分野があるんだ。


 老齢のエルフに変わって、狩人っぽい風貌をした男性のエルフ。

 おれの正面にいるリンドマンさんが3歩前に出てくる。

 右手にはエルフの森で取れる木材から作った魔法の杖。

 そして左手には……、


「あまり気落ちするものでもないぞ。なに、我らには弓の道もある。これを目指すといい、ライカ」


 リンドマンさんは頼もしくもある声で、左手にある弓と矢筒をおれに渡してきた。

 そう、弓だ。

 エルフには弓もある。

 この村、魔法使い多すぎて弓使いひとりとしていないけど……。

 けどおれは弓の名手になって、女の子を助けまくって、百合を眺める生涯を送るんだ。

 これは俺にとって僅かな1歩に過ぎない。

 けど確かな! 記念すべき! 第1歩なんだ! 

 おれは膨らんだ妄想に顔をニマニマさせながら、早速もらった弓の弦を指で弾いた。


 ――プツンッ!


 ……物凄く嫌な音がした気がした。

 具体的には糸が切れるような音。

 いやだって、貰ったばかりだぞ。

 そんなことあるか? 

 現実を否定したくて、おれは弓に目を落とし、思わず顔をそむけた。

 切れていた。

 新品で、授けてもらったばかりの、これからの未来含めて、綺麗に千切れた弓が。

 マジ……ですか……。


「おかしい……。強度は確かめたはずだが……。すまんライカ、使ってくれ」


 怪訝な顔で弓へ目を向けたリンドマンさんは、申し訳なさそうな口調でおれの持つ弓を取り換えた。

 ……なんか申し訳ない。

 これリンドマンさんの愛用なのに。

 ……使っていたところ見たことないけど。

 今度は大切に使わないとなぁ、何がいけなかったのか、とおれは弓の弦を弾く。


 ――プツンッ!


 ……もういやぁ。

 呆然と言葉を失ったおれに対して、ニルスさんは顔を愕然に染め、さらに最悪なことを宣言してきた。


「す……で……? 素手じゃと? ライカの最も適した武器は素手。なのに格闘家、モンク適正は皆無。長年神託を受け取ってきたが初めてじゃ」


 素手……。

 素手って……あの素手?


「嬉しくねぇわそんな初事例!」


 ニルスさんに続いて、おれは自分の内側にある慟哭を叫んでいた。

 わっけわかんねぇんだけど!

 素手と言えば格闘家の適性によくある武器種だろ!


 だがおれの驚愕を嘲笑うかの如く、ニルスさんの追撃が止まらない。

 

「もうひとつの能力は……ヴァイキング? ヴァイキングとは?」


 おれはあんぐりと口を開けていた。

 ヴァイキング……。

 その意味、海の人とか海賊とか海岸付近に住む戦闘部族。

 ここ森なんだけど!?

 マジでバグりすぎだろ神託!

 適性クラスが戦士(素手)でヴァイキングの海とは縁遠い森に住む筋力弱々種族、エルフとか聞いたことないんですけど!


 ――ああ、ファンタジー世界に飛ばされ早3年。

 外の世界に飛び出て、可愛い女の子を集めて目の前で繰り広げられる百合世界を見たいというおれの夢はどうなるんだ。

 目が覚めたら幼女で、エルフなのに適性能力がわけ分かんなくて。

 この先おれは、やっていけるんだろうか?

 あぁ、なんか頭がフワフワする。

 世界もグルグル回る感じがして。妙な吐き気もする。

 意識が消えゆく感覚の中、次第におれは床に倒れて。


「「ライカ!」」


 ニルスさんとリンドマンさん、2人の声を最後に、おれは完全に意識を失った。

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