【新】どんな明日が待ちかまえていようとも、少女は歯を食いしばって今日を走った。

マクスウェルの仔猫

第1話 藤倉君が好きとか……そんなんじゃない!

 


 修学旅行の初日を思い出すたびに、涙が出そうになる。

 

 でも、私が泣いていいわけがない。


 傷つけたのは私で。

 傷ついたのは藤倉君で。


 あの藤倉君のさびしそうな苦笑いを思い出すたび、胸が張りさけそうになる。


 私は自分の片想いを、自分でこわしてしまった。



 修学旅行の初日。

 

 夜ご飯前に部屋で誰かが修学旅行中に告白するって言って、恋バナが始まった。


「えー!桜、とうとう告白するんだ!」

「おー!応援してよね!」


 きゃあきゃあ!と盛り上がる中、私に話が振られた。


はるかちゃんも藤倉に告白しちゃえば?」

「……えっ」


 ボンヤリとジャージに着替えていた私。


 誰にも言ってなかったはずの片想いと、好きな男の子の名前が出てきたことに、息が詰まった。



「えー!及川おいかわさん藤倉君好きなんだ!」

「にぶー!遥ちゃん、藤倉のことよく見てるし、藤倉以外の他の男子と話あんまりしないじゃん」

「えっ……えっ?」


 私は、内緒にしていた片想いがみんなにバレてしまっている事に動揺どうようして。


「ダブルデートで盛り上げるのもアリじゃない?」

「ね、ね!藤倉のどこが好きなの?」


 みんなから問いつめられた私は。

 思ってもいないことを叫んでしまった。



「わ、私!藤倉君が好きとか……そんなんじゃない!」



 私が、そう言った瞬間。

 部屋が、しーん、となって。

 

 そして。


 バターン!!

 どたたたたたっ!


 フスマが倒れて、男子たちが部屋になだれこんできた。


「いってー!」

「うわー?!」

「重いっつの!早くどけ!」


 突然の事に、男子と私たちの悲鳴が重なった。


「きゃー!」

「何やってんのよアンタたち!!」

「サイテー!!」



 悲鳴や叫び、騒がしい物音の中。

 私は騒ぎどころではなく、立ちつくしていた。

 

 倒れ込む男子たちの後ろに。


 同じように立ちつくす、藤倉君がいた。

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