長ぐつをくれた猫〜役に立たない猫などいらん!と投げ捨てておいて、本当の遺産がお猫様だと分かったからって今さら戻ってこいニャ?もう遅いのニャ!勇者の武具は真の勇者に上げちゃったニャ!〜

古芭白 あきら

第1話 追放とお猫様

 

「貴様みたいな役立たずはこのバ家には不要。さっさと出て行けラカ!」



 吾輩は猫である。名前はロペなのニャ。


 それで吾輩の目の前で追放宣言しているのは勇者バ・バ・ジアントの末裔、バ家の長男コーザなのニャ。


 相変わらず尊大な奴ニャ。身体も無駄にデカけりゃ態度も無駄にデカくなるのニャ。



「やっと口うるさい親父が死んでくれて、これで自由を満喫できるよね」



 続いて次男のイスゲ。コイツはとんでもない親不孝者ニャ。腹も余分に厚けりゃ面の皮も無用に分厚いのニャ。



「俺は我が勇者の家に伝わるこの宝剣を――」


 コーザが装飾華美な剣を掲げて悦に入ってるのニャ。


 あれは勇者の末裔バ家に代々受け継がれた勇者が魔王を屠った……と言われているだけのただのナマクラニャ。バーカ、バーカ、バーカなのニャ。


「――僕はこの勇者の盾を貰うよ」


 続いてイスゲが光る宝石を埋め込んだ盾に頬擦りしているニャ。



 あれは勇者が鍛治の神より賜わったいわれを持つ……だけのただのガラクタニャ。付いてるのも宝石じゃなくてガラス玉ニャ。マヌケ、マヌケの大マヌケなのニャ。



「よって三男のラカには何もない」

「そうそう、僕らと違ってチビで貧弱なラカには無用の長物ばかりだしね」

「この家も俺らのものだから、お前の居場所はないぞ」

「そうさ、さっさと出て行けよ」



 2人の兄に罵倒され、ラカが顔面蒼白ニャ。まあ、元からまっちろい奴だけどニャ。



「待ってよ兄さんたち。家から追い出すなんて酷いじゃないか」

「うるさい黙れ!」

「ヒョロっちいくせに、ちょっと顔が良いからって僕のレミーちゃんにちょっかいかけやがって!」



 イスゲはマヌケの上にバカなのニャ?

 レミーはお前なんて全く相手にしてないニャ。


 レミーって言う小娘はラカの幼馴染でありふれた栗毛色の髪だけど、綺麗なエメラルド色の瞳と愛らしい顔の美人ですっごく目立つ娘なのニャ。


 レミーとラカは間違いなく相思相愛のバカップルなのニャ。羨ましいのニャ。コンチクショーなのニャ。



「この家を追い出されてラカが見窄みすぼらしくなれば、レミーちゃんもきっと目が覚めて僕に惚れるに違いないさ」



 ラカが落ちぶれてもお前の腹は引っ込まないのニャ。よってレミーがお前に惚れる確率は最初からゼロニャ。イスゲは己に科せられている非情な現実が見えてないニャ。



「俺は小娘なんて興味はねぇ。この勇者の剣で名を上げてゆくゆくは国一番の美女と名高いレミリア王女と」



 コーザがグフグフ笑って気持ち悪いニャ。


 しかし、そんな装飾品の剣で、どうやって名を上げるのニャ?

 図体がデカいと頭の血の巡りが悪くなるのニャ?



「だいたいお前は前から気に入らなかったんだ。親父に気に入られているからっていい気になりやがって」

「全くだよ。いつもいつも小言ばかりでうるさくて堪らなかったんだ」

「親父がくたばった今ならなんの気兼ねも要らねぇ」

「自分たちの父さんに対して酷いよ兄さんたち!」



 まあ、コーザとイスゲは生前に親父さんが嘆きまくった終わったコンビ、すなわちオワコンなのニャ。今さら更生なんてむーり、むーり、のリームーなのニャ。



「うるさい!」

「そうさ、自分ばかり良い子ちゃんにして親父に目をかけられてたみたいだけど、もう僕らの天下さ!」

「お前を庇う奴は誰もいないぞ。分かったらさっさと出てけ!」

「うわ!」


 ラカがコーザに摘み出されたニャ。

 まあ、吾輩には関係ないのニャ。



「コーザ兄さん僕たちは血を分けた兄弟だろ?」

「確かにお前も親父の息子だ……だが俺は許さねえ、認めねえ!」

「まあまあ兄さん、ちょっと落ち着いて」



 何ニャ?



「ラカも親父の息子で、僕たちの兄弟だろ?」

「イスゲ兄さん!」



 ラカがイスゲの助け舟にキラキラお星さまの期待の目を向けてるニャ。だけど、イスゲがここにきて心を入れ替えるわけは天地がひっくり返って無用になってもあり得ないニャ。



「このまま遺産をやらずに追い出したら僕たちの沽券こけんに関わるだろ?」

「それはそうだが、俺はラカにはビタ一文やるつもりはねぇ!」

「何も渡すのは物やお金じゃなくったっていいじゃないか」

「なに?」

「つまり……さ」



 イスゲが意味ありげに吾輩をチラリと見たニャ。お猫様である吾輩が可愛すぎるのがいけニャいのニャが、男の流し目なんて気持ち悪いだけニャ。


 そのイスゲの視線に気づいたコーザがにやりと笑ってるニャが、悪人ヅラが極悪人ヅラになるだけニャ。



「なるほど……な!」

「ニャッ!」



 いきなり吾輩の首根っこを掴んで持ち上げやがったニャ。お猫様になんて無体を働くニャ!

 コイツはとんでもない悪党ニャ。



「ラカ、俺は慈悲深いからお前にも親父の遺産を分けてやる」

「この猫も家にずっといたし立派な財産だろ?」



 お猫様は人類の何にも勝る至宝ニャ。だから財産だと言うのに異論はないニャ。だけどこの扱いには断固抗議するニャ!



「ニャー、ニャー、ニャー!」

「うるさいクソ猫!」

「この猫いっつも俺たちを馬鹿にしているような気がしてムカつくんだよな」


 ちッ!

 勘のいい奴ニャ。



「そら受け取れ」

「ロペ!」



 放り出された吾輩をラカが慌てて空中で受け止めたニャ。褒めて遣わすニャ。



「じゃあな」

「そのクソ猫と仲良くやれや」

「これでレミーちゃんは僕のもの……ぐっふっふっふっ」



 吾輩とラカの目の前でバタンと閉められた扉……


 これはいかんニャ。


 ラカは別にどうでもいいニャが、吾輩まで家を追い出されてしまったのニャ!

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