生きて動く人間によって実演されている社会学と経済学!

普段日本で意識する事が少ない差別や不平等に取り組むというテーマを見出してしまうほどに「戦い、抗う」人々の物語は大学講義に使っても良いほどに巧みに出来ている。

最初は悪者が作った胸糞悪い環境で大勢が「しょうがない」と諦めて受け入れている。そこに主人公が悪役を懲らしめる方法を発見して、悪役を打倒する事で問題は解決するに違いないと考えるスタート地点。
よくあるラノベ展開である。

すごいと思うのが、現実的な掘り下げにある。いざ悪者を打倒したら見えてくるのは、悪者も社会の仕組みに「しょうがない」と受け入れて、それなりに世渡りをしていただけということ。

人は社会に属している限り、社会に組み込まれて生きていくのだ。その関係によって生まれる社会構造が敵となると、倒すだけでは人々の生活を破壊するだけになりかねない。

そこで主人公の知識チートが類を見ない形で炸裂する。もちろんよくあるテクノロジーのチートも多少ある。この作品はその先を見る事が出来る。新しい技術が生み出す社会の動き、経済の影響などを知っている事で予測するという超絶チートが脳を溶かす程に気持ちが良い。しっかりと概念を噛み砕いて、仲間達に理解してもらい、実現を手伝ってもらう為に具体化するまでの一連の流れも読みやすい。スッと現代社会の仕組みが元々どのような問題を解決する為にあったのかが伝わるのだ。

人間が歩んできた歴史の汚点や過ちを、やり直しをするごとく。正解を知っているからこそできるより良い社会構造や経済構造をほぼ完成形で一発で出せることがどれだけの奇跡なのか。
これが作中のキャラクター視点から存分に味わえるのが醍醐味だ。それが現実だから、と諦めをぶっ壊す度に一人一人と仲間になり、新しい希望を持ち、主人公の次の一手におっかなびっくりと期待する様子がたまらない。

そう、我々の現実世界でも社会に大きな変化をもたらして来た、より良い社会を夢見て実現した偉人らも強烈なカリスマだったのだ。そんな偉人達の猿真似でしかないと自認している主人公達の謙虚さも愛らしい。

未来の社会を知っているという知識チートを活用してするというのはこう言う事だ。そんな言葉が聞こえそうな程の作品の作り込みはマジで宝に値すると思います!