非戦闘型奉仕用アンドロイド玲奈と改造人間の俺

椎名千尋

其の一・アンドロイド到着

 通帳を見て溜息をついた、残金は五十万円だ、家賃食費光熱費を考えると、バイトでもしないと高校を卒業するどころか、このボロアパートも追い出されるかもしれない、せめて高校はちゃんと卒業したい、明日バイトの求人雑誌でも買って来よう。


 土曜の朝気持ちよく寝ていると、チャイムが鳴らされた、時計を見ると朝の六時だ、非常識にも程がある、と思いつつドアを開けると白衣を着た若い男二人が立っていた。


「やぁ朝早くにすまない、君に届け物だ」

「人違いじゃないですか? 何も注文した覚えはないですが」

「君が真田海斗君だろ?」

「ええそうですが」

「だったら間違いない、受け取ってくれ」


 と、大きな長細い棺桶のような荷物を押し付けられた、何かはわからないが重い。


「確かに送り届けたよ、後一時間で勝手にロックが解除する、じゃあ良い人生を」


 と男二人はアパートの二階から下りて、白いバンに乗り込み去って行った。


 俺は荷物をワンルームの部屋に運び入れ力尽きた、箱を開けるような箇所はない、男が言ったように、ロックが解除されるまでコーヒーを飲みながら待った。


 七時になった瞬間『ガチャ』と大きな音がして、箱がゆっくり開いた、中に若い女が横たわっていて驚いた、これは人間? 死体じゃないよな? ウエットスーツのような物を着ている、眠っているようだ。


 顔はモデル並みの超美人だ、髪は茶色のセミロングで胸も大きくスタイルもいい、高校生くらいだろうか? 誰かわからないが俺は一目惚れをしてしまった、顔を覗き込んでると女が目を開け上半身を起こした。


「脳波異常なし、心拍数脈拍も異常なし正常に起動」


 俺が喋れずにいると、女がこちらを見た。


「あなたが真田海斗様ですか?」

「あ、ああ俺が真田海斗だけど」

「顔や容姿声紋を確認、真田海斗と認識、これよりご主人様として仕えるプログラムを起動」

「あの、さっきから何を言ってるの? 君は誰? 何が目的でうちに来たの?」

「自己紹介が遅れました、私は非戦闘型奉仕用アンドロイド玲奈と言います、これからよろしくお願いします」

「ア、アンドロイド? 人間じゃない?」

「はいご主人様、アンドロイドです、人間ではありません」

「どこからどう見ても生身の人間だ、日本にこんな技術があるの?」

「まだ非公式ですが最新技術です、なのでご主人様も口外しないで下さい」

「わ、わかったが君の家は?」

「二十四時間ご主人様に仕えるので、ここが私の家になります」

「こんなボロいワンルームアパートで一緒に住むの?」

「はいそうです、お望みなら性交渉も出来ますので」

「いやいや、そんな事はしないが部屋が狭いから困ったな」

「私は気にしません、それよりご主人様エネルギー残量が残りわずかです」

「どうするんだ? 充電でもするのか?」

「いえ、普通の人間と同じく食事でエネルギーを補充します」

「凄いな、何が食べたい?」

「ご主人様私が作ります」


 と言うと玲奈は冷蔵庫を覗き、料理を始めた、どこから見ても普通の人間にしか見えない、暫く待っているとオムライスを二人分作ってくれた、二人で食ったが美味かった。


 食事が終わり玲奈が片付けをしコーヒーを入れた、食費が倍になるなら本気でバイトをしなければいけない。


「困ったな、お前を養う金がない」

「ご主人様はお金が欲しいのですか?」

「ああ俺の全財産では、二人で生活するのは難しい」


玲奈が銀行の通帳を渡してきた。


「忘れてましたが、博士がご主人様にこれを渡せと言ってました、好きに使っていいそうです」


 通帳の名義は俺の名前になっている、開いて見て驚いた、十億円入っている。


「ご主人様それで足りますか?」

「こ、これだけあれば一生金に困らない」

「良かったです」


 玲奈は金については無知のようだ、それと

喜怒哀楽の感情がない。


「玲奈、やっぱりお前はアンドロイドだから心はないのか?」

「心や感情のプログラムは入ってますが、博士も未完成だと言ってました」

「そうか」


 そりゃそうだよな、機械が感情を持つにはまだまだ技術的にも難しいだろう。


「よし、この金で広い家に引っ越そう」

「わかりました」


 数時間後、不動産屋で新築駅前の広い億ションを購入し、すぐに引っ越した、必要な物は新しく買い替え、玲奈の一着しかないボディースーツも目立つので、普通の下着や服と靴を何着か買い揃えてやった。


「これでどこから見ても、普通の人間の女の子だ」

「ご主人様、ありがとうございます」


 一瞬玲奈が照れ笑いしたような表情をしたように見えたが、気のせいだろう、感情はないはずだ。


 玲奈の作った晩飯を食べ、交互に風呂に入り、寝るまで少し話をした。


「お前は何で俺のところに送られて来た?」

「一人暮らしの男の人を無作為に選んだ結果らしいです、詳しくは知りません」

「ふーん、お前みたいなのが日本に何体もいるのか?」

「私で六体目です」

「そうか、お前も夜は普通に寝て睡眠を取るのか?」

「はい、睡眠します」

「そうか、じゃあ今夜はここまでだ、俺は寝る、お前の部屋はそっちだからな」

「はい、おやすみなさい」


 自分の部屋に入ると、真新しい大きなベッドに潜り込んだ、すぐに眠りに落ちた。


「ご主……様……人様」

『むにゅ』


 玲奈に呼ばれた気がするし、何か手触りのいい物を掴んでいる、目を開いたら玲奈の顔が目の前にあって、俺は玲奈の胸を揉んでいた、慌てて飛び起きた。


「すまん、寝ぼけてて」

「何を謝ってるんですか?」

「何をって、お前の胸を触った事だ」

「悪い事なんですか? ご主人様が触りたければいくらでもどうぞ」

「いや、そういう問題じゃないってか、何でお前が俺のベッドで寝てるんだ?」

「二十四時間お仕えするのが役目ですから」

「やれやれ、わかったよ」

「ご主人様、朝食にしましょう」


 朝食後、まだ眠かったのでリビングのローソファーに寝転んだ、数時間して起きると玲奈が膝枕をしてくれてくれた。


「足は痺れてないか? ありがとな」

「ネットでこれがいいと書いてあったので、足は痺れてません」


 俺がローソファーに座り直すと、玲奈がトイレに行って戻って来た。


「アンドロイドでも、人間みたいに小便や大便はするんだな」

「人間の排泄とは異なります、無駄な水分やエネルギーにならなかった物を出すだけですので、匂いもしません」

「ふーん、話は変わるが俺は明日から学校だから、お前は家でくつろいだり家事をしておいてくれ」

「わかりました」

「後、二人の時はいいが、他人の前ではご主人様じゃなく海斗と呼んでくれ」

「はい」

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