第12話

 千里が目を開けると、忠雄が顔を覗き込んでいた。

「あ……」

 忠雄は千里と目が合った瞬間に微笑んだ。

「おはよう」

 起き上がろうとしたが、体に力が入らず首を動かすことしか出来かったので、顔を横に向けると、子供を見ながら笑う義母の姿が見えた。その隣で義父も微笑んでいる。

「ああ……、お義父さんもお義母さんもこちらに着いたのね」

「うん。着いてからずっと孫の顔を見てるよ」

 微笑んだ忠雄の顔を見ながら、千里も微笑む。

「ねえ、アタシ、アナタに聞きたいことがあるの」

 忠雄にそう言うと、優しく頷いた。

「なんだい?千里」

「嬉しい?」

 その言葉に、忠雄は少しビックリしているようだった。

「さっきもこの子が生まれた時に言ったじゃないか……。忘れちゃったのか?勿論……、嬉しいよ。嬉しいに決まってるじゃないか」

「そうよね……」

 忠雄のその喜びが、千里の耳から入り伝染していく。

 ああ、嬉しい。

 本当に嬉しい。


 や っ と 、

 こ の 瞬 間 が 来 て 。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る