🔹第一章『幼少期』 第1話『異世界転生』

 「おめでとうございます。 旦那様、奥方様、男の子です。」


 「おぉマリーナ、今回も男の子だ。 よくぞ頑張って我が子を産んでくれた。」


 「ハアハア‥、有難うアナタ… ハア‥ ちゃんと産まれてきてくれてよかったわ… グス‥」


 意識が覚醒していく中、男女の喜ぶ声が聞こえる…。 しかもダンディーそうな声と暖かく優しそうな声だ…。

 ふと目を開けようとするが上手く瞼を上げられない…。

 その代わりに誰かに優しく抱きかかえられる感触と暖かな温もりが感じられる。


 そして意識が完全に覚醒し理解した。 どうやら俺は無事異世界で『赤ん坊』として転生できたらしい。


 それに言語は日本語ではないが、不自由なく聞き取れた。


 出産の喜びなのか何やら周りが騒がしくなったせいか物凄い不快感に包まれて軽く涙腺がこみ上げる。 しかし思考は前世のままなので泣く事は無かった。


 『成程、新生児が泣くのは不快感を抱くからだと言われているがこの感覚なのか…。 こんな些細な事なのに確かに凄く不快だな…。』 と俺は勝手に赤ちゃんの気持ちを理解した。


 「おかしいわね…。 普通の子なら『産声(うぶごえ)』を上げるものなのだけどこの子は泣いてくれないわ。 産声を上げない子は何らかの障害が残ると聞いたことが有るのだけどこの子は大丈夫かしら…。」


 妻であろう女性が心配そうだ。


 母さんすまん、それは俺のせいだ…。 親心的には病気の心配を考えたら俺は泣いた方が良かったのかも知れないが、俺は前世で嫌という程泣いたし泣いてる位ならこの転生した世界の知識をよく知っておきたいから泣いている事が非効率なので泣く気はない。


 『だから申し訳ないが俺は泣かないぞ~。』 と心の中で軽く謝りながらもう一度目を開けようと頑張ってみる。


 瞼が重く目を開ける事が大変だったが少しだけ目を開けることが出来た。


 目の前には、金髪で緑というよりも翡翠色の眼で涙を流している可愛い系巨乳美女と、同じく金髪で蒼眼の顎鬚が綺麗にキマッているイケメンおじ様の2人が笑顔と泣き顔で俺を見下ろしていた。


 暫くするとぼやけた視界が時間と共に徐々に鮮明になっていく。


 よく観察してみると両親は身なりが良く、一見高貴な貴族に見えるが王様では無さそうな感じがする。


 出産した部屋は夫婦の寝室らしく、【ロココ調】によく似た家具や花柄の絨毯、天蓋の付いた大きなベッドと天井にはシャンデリアがあり、かなり豪華な作りをしている。 よく見ると部屋には助産師であろうおばさんも部屋に居た。


 さっき父親が「今回も男の子だ。」と言っていたので多分兄がいるのであろう。


 予想だと王族でもなく貴族を継げる長男でも無さそう…。本当に【運999】の効果は有るのか?と運最大値の効果に対してさっそく疑問を思ってしまった…。


 少し心配そうな母親に比べて父親は嬉しそうな顔をしていたが、辺りをキョロキョロ見渡しながらしかめっ面をする俺に対して父親は「妙な子だな、本当に障害でもあるのか?」 と父親は酷い事を言う…。

 「確かに未だに泣く気配すらありませんし不思議な子だわ…。 それに髪色も少し黒いような…。」


 俺の髪色はどうやら『黒髪』らしい。


 確か髪色は遺伝するって言われてるし、転生時に前世の血を受け継いでるのか? 前世の遺伝は正直嫌なんだが…。

 それかパツキン両親の家系に黒髪がいたのかもしれない…。


 「確かに黒いな…。 黒髪なんて『とある一族』以外は居なかったハズだしその一族はとうに滅びている。 髪色は遺伝すると聞くが我が『デュフォール家』の先祖にそのような髪色は居なかったハズだ。 マリーナの家系はどうだ?」


 「ええ、私の家系も黒髪は居なかったハズよ。」


 どうやら転生後の親の髪色の遺伝の線は薄いようだ。 そうなると転生前の遺伝か…嫌だな…。


 「そういえばスピルメノン教法王国の教皇側近の『預言者アーダム』が10年前に『今後20数年~30年の間に魔王が復活する可能性が有り、対抗する為に10年後に神の化身の赤子が世界に降臨する。成長するとその姿は凛々しい黒髪の【勇者】になり、魔王を倒し世界に平穏をもたらす。』と言っていたがまさかな…。」


 「あらあら、もし我が子が予言の子だというのなら私が【魔法】を教えてあげようかしら。」 と母親が言い出す。


 えぇっ? 何その厨二病設定の預言…。 【勇者】とか御免だぞ、俺は転生前に出来なかったより良い人生を謳歌したいだけで勇者になりたいわけでは無い。 もうなんか既に『フラグ』が出ている感あるが気にしない事にしよう…。

 それにしても女神様が言っていた通り剣や魔法があるファンタジーな世界なんだな…。 母親は魔法使用できるらしいし興味が有る。 是非教えてもらいたいな。


 「いや、剣も教えたい。 もし予言の子なら【祝福の儀】でかなり良い【固有スキル】を貰えるに違いない。 【勇者】の他にもしかしたら【剣聖】や【魔剣聖】という歴代なれたものが数少ない最強スキルも手に入れられるかもしれん。」


 「よし、我が子の輝かしい人生の為にも、なんとしてでも【真眼の水晶】を手に入れよう。 そして7歳までに我が子の伸びやすいスキルを英才教育で確実に伸ばす事にしよう。」


 おいおい、なんか勝手に話が進んでるぞッ? 俺は前世みたいに親に縛られ生きていくのは嫌だぞ…。

 それに期待されても俺が預言通りの子じゃなかった場合の親の反応が怖い…。 これ本当に【運999】有るのか…。


 「あらあら、そんな事言ってると『ジャック』や『エドガー』が可哀そうよ。」と母親は父親を窘める。


 「長男のジャックは私の跡継ぎとして英才教育を受けさせてるからいいだろう。 突出して強くは無いが、能力も平均的に安定しているから私の跡継ぎで確定だ。 次男のエドガーはまだ1度しか【真眼の水晶】を使用していないが身体能力は長男のジャックを超えているみたいだ。 人の言う事は聞かんし、自由奔放過ぎるから跡継ぎは無理だろうが【騎士団】にはなれるだろう。」父親はしれっと倅たちの人生計画を決める。


 おぉ、兄が2人も居るのか。 しかも親に決められた人生のレールを走らせられてるっぽいしなんか可哀そうだな…。

 まぁ貴族のようだしこの世界では当たり前の事なのかもしれない…。


 「よし、そうと決まればお前の名前は『アラン』を授けよう。 『アラン・デュフォール』だ。 かつて1100年前に存在した【勇者】の名前だ。 いい名前だろう?」


 「あらあら、いい名前ね。 『アラン』今日から宜しくね。」 と父親が命名した名前に満足しているようだ。


 【勇者】と同じ名前とか恥ずかしいのだが…。


 それにしても情報量が多過ぎて疲れてきた。 赤ん坊の体で体力無いしな、今日は情報をまとめてさっさと寝る事にしよう。



◆分かった事


・日本語じゃない転生後の世界の言語が元から理解で出来るという事

・パツキン美女&イケメンの三男である事。

・『跡継ぎ』の言葉や服装や部屋の内装からみて『デュフォール家』の貴族の息子である可能性が高いという事。

・俺の『黒髪』は前世の遺伝の可能性が高い事。『とある一族』も黒髪だが既に滅びているという事。

・『預言者アーダム』によると『黒髪』は魔王を倒し世界に平穏をもたらす【勇者】である可能性がある事。

・『預言者アーダム』の預言が本物なら。今後10数年~20年の間に魔王が復活する可能性が有るという事。

・少なくとも母は【魔法】、父は【剣】の腕を持っていおり、【剣、魔法、魔物】が存在するファンタジー世界という事。

・【祝福の儀】が何かは分らんが【固有スキル】が貰えるらしい事、その【固有スキル】には【剣聖】や【魔剣聖】が存在するという事。

・【真眼の水晶】が何かは分からないが「なんとしてでも手に入れよう」との事なので、かなり大事(モノ?)な可能性が高いという事。

・この世界に【騎士団】が存在する事。

・俺の名前が『アラン・デュフォール』で、かつて1100年前に存在した【勇者】と同じ名前だという事。

・「7歳までに」というのが気になる。何か期限でもある言い方をしているが内容は不明という事。

・母は「あらあら」が口癖っぽいという事…。←(どうでもよ…)




 「さて、ジャック達にも新しい弟が出来た事を……」


 俺は父親の言葉を聞き終える前に深い眠りについていった…。

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