境界の観測者
やーしん
第1話 旅の始まり
特に変わりのない日々、私の人生を形容するならこの言葉が適切だろう。
私は先程、死んだらしい。らしいというのはこの瞬間、死を実感していない。分からない。
たぶん一瞬の出来事だったのだろう。あまり覚えていない。正直なところ、死んだんだ、みたいな感覚だ。
「よく語るな。」
目の前にいる人物は私に語りかける。私に何の用だろうか。すでに終わっている身。
「そう、急ぐな。語ろうではないか。そこに、座ってくれ。」
その案に乗ることとした。
「君の今までの人生を話して欲しい。どんなことでもいい。くだらないこと、楽しかったこと、悲しかったこと、悔しかったこと。君がどんなことを考え、感じ、何をもって生きたのか、話して欲しい。」
私は口をつぐんだ。どうしたものか、何を話そうか。私は、ひとしきり考え、しゃべり始めた。
「私は、田舎に生まれて…」
私は、自分の経験を話し、自分の人生を語った。そして、泣いた。
彼は、途中質問をはさんでくれたり、詳しく聞いてくれたりと、思い出しやすくしてくれた。
とても有意義な時間だった。
すると、彼はおもむろにしゃべりだした。
「合格だよ。次の世界でも頑張ってくれたまえ。終わったらまた語ろう。」
どういうことなのか、言う前に私は、意識が薄れていった。
*
私は目を覚ますと、森の中で木の上で寝ていた。
小鳥が体の上に乗っており、すやすやと眠っていた。
「アルト。家に帰って来て。」
風に乗り、言葉が聞こえてきた。驚きに駆られていたが、私はこれまでのことを思いだした。
私は、この世界にエルフという種族に生まれ変わった存在ということに。
やはりと言えばいいのだろうかこの世界に魔法と言いうものが存在する。
そんなことより、姉のルナに呼ばれたため家に戻らなければ。
私は、帰路を辿った。
「アルト君。外に出たいかしら。」
ルナ姉は唐突に聞いてきた。我々エルフは基本的に生まれた森から出ることは滅多に無い。
なのに、今回の質問だ。一体どういうことだ。
「どういうことルナ姉さん。僕は一度も言ったことはないよ。」
僕は、当たり障りがない回答をした。
「私が気づいてないと思うの。学校の図書館でもずっと他の種族について調べていたりしていたのでしょ。」
痛いところを突かれた。無意識のところにあった私の意識が思い出す前の意識に影響を与えていたのだろう。
「アルト君のことなのだから一応は決めているのでしょ。」
感の鋭さは一級品だ。ここは包み隠さず話した方がいいだろう。
「僕は、学校を卒業したら外に出るよ。この世界を見て回るよ。」
「そうなのね。もし、龍神国の学園にくることがあれば寄ってね。」
ルナ姉は今、龍神国にある学園で教師をしている。
あんまり詳しくは知らないのだが。
こうして、私はエルフの里の学校を卒業した。
あまりにも特段変わらない日々を過ごして卒業した。
特にこれといった感想はなく本当に終わった。
*
私はマジックボックスの中に必要なものを詰め出発の準備を始めた。
この世界に魔法やら魔物やらうろついているそんな世界に身一つで行くわけにもいかない。
なので、剣を携行していくことにするのだが、まずうまく使うことが出来ない。
人並にも使えないのだ。特段、エルフという種族が不得意というわけでもない。槍や斧といったものも使う人もいる。ただ、ほかの種族に比べて力が低いというのもある。
「アルトや。」
家に一人の老人が訪問してきた。
といっても、エルフ基準の老人なので、あまり歳をとっている見た目をしていない。
「長老様。いらしていたのですか。姉はいませんがこちらへどうぞ。」
「いや、結構。すぐに失礼するよ。」
長老様はいわゆるエルフの里の族長として君臨する長だ。そんな方が家に来ることが珍しい。
「アルト。君が、外に出ると聞いたのでね。それで訪ねてみたのだがね。」
「ありがとうございます。」
正直私はこの居たたまれないのだ。
「私の昔話を聞いてくれるか?」
唐突に話し始めた。急ぎでもないので育ての親でもある族長の話を聞き始めた。
「私は、昔、人族で言う、冒険者だった。仲間と一緒に炎龍が住む火山を探索したり、大蛇を退治したり、大海原に出て異なる大陸を旅したものだよ。そうしていくうちに私たちの中で人族の二人が結婚してパーティーを抜け残ったメンバーはそれぞれ好きな道を進んだものだ。そうしていくうちに次第に一人一人と旅立ったのだよ。」
私は、それを真摯に聞いた。
長老様は、自分と同じように旅に出ていろいろと経験したのだろう。
喜びや悲しみを仲間と分かち合い、そして別れ各々それぞれの人生を歩んでいった。
「私は、十分に生きたよ。アルト君。君はどういう人生を歩むのか分からないが、その瞬間を生きて欲しい。私は、君に可能性を感じている。可能性は時には足を引っ張るかもしれない。でも勇気をくれる。あなたには、諦めて欲しくない。」
彼女には、私には見えない何か先が見えているのだろう。
「ということで行ってらっしゃいな。元気でね。」
彼女はそういうと、帰っていった。その背中は少し寂しく思えた。
そうして、準備を終えた私は、この里を後にした。
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