ひげを剃る。そしてオッサンを拾う。俺もオッサンだけど。
笹 慎
賢者モード・序
年末年始の休暇中に、FANSAのブラックフライデーセールで買い込んだ
「…ぬわッ!!?」
愛用していた最推し女優の
きららちゃん、ごめん! 痛かったよね。
などとキモイことは思わずに、普通に捨てるけどな。でも燃えないゴミの日、だいぶ先だな。
ところで、君たちは、オナホールの正式名称をご存知だろうか。
(あ、オナホールって言っちゃった。まぁいいか)
特許庁での意匠登録の際は、「精子採取装置」や「射精促進器」といった名称が人気のようだ。医療機器かよ。俺としては「精子注入器」を推していきたい。適度にアホっぽくて良い。
巨大通販サイトAmazones.comで新しいオナホールを探しながら、そんなことを考えていた。
なん……だと……星花きららちゃんの第二弾が発売されてるじゃあないか。しかも今回は後ろの
ダメだ。お急ぎ便じゃ間に合わない。今すぐ欲しい。
そうだ! 驚安の殿堂ロシナンテに買い行こう! そうしよう!
そして、俺はここ数日剃っていなかったヒゲを剃り、スウェットの下をジーンズに履き替えて、MA-1を羽織ると、超寒い新年の街へくり出した。
◇◇◇
人は卑しい生き物です。
つい下半身に血が集まると、著しく知能が下がってしまいます。
結論から言うと、ロシナンテの成人向けコーナーには、星花きららちゃんの第二弾オナホールは売ってなかった。くそ……ロシナンテ、俺はお前の品ぞろえを信じてこのクソ寒い中を来店したっていうのに!
でも使い捨ての超有名な赤いヤツのストックがなかったことを思い出して、3本ほど買った。
使い捨ての赤いヤツをカバンに入れておくと、仕事で多少ムカつくことがあったとしても、「ま、俺のカバンの中には、オナホールが入ってるしな」みたいな無敵感があるのでオススメである。実際、大事な仕事の前に、トイレで使うとスッキリして頭が冴えわたります。
あ、でもよく職質受けるタイプの見かけの奴はやめておけよ。
ちなみに俺は、レジはあえて女性のレジに並ぶクズ派です。それに紙袋にも入れてもらったりもしません。エコだからね。俺は環境に優しいんです。決してビニール袋から透けて見せて喜んでいるわけではありません。
黄色のビニール袋をブラブラしながら帰路につく。寒いが冬の夜は嫌いじゃない。オリオン座が見えたりするし。まぁ、オリオン座しか知らんけど。
橋を渡ろうとすると、中央に人影が見えた。とりあえず素知らぬふりで後ろを通り過ぎる。横目で確認すると、背広を着た中年男性だった。
んんんんん!!!?
靴脱いで揃えてたぞ……。
え? 死ぬの? 川に飛び込んじゃう系???
慌てて振り返ると、中年男性はすでに橋の防護柵に足をかけていた。
「待て待て待て待てぇ!! 新年早々、縁起がわるーい!!」
そう叫びながら、俺は走り寄って、オッサンを後ろから羽交い絞めにする。
「離してくださぁい!! もう私なんて死んだ方がいいんです!!」
暴れるオッサンの禿げ散らかした髪の毛の一部が顔にへばりつく。キレそう。なんで禿げてる奴って残った髪の毛を無駄に伸ばすんだよ。俺なら坊主にするわ。ステイサムのように!!
ま、俺はフサフサの家系だけど。高みの見物。
「……はぁはぁ……とりあえずオッサン、俺の前で死ぬのはやめろ……」
どうにかオッサンを橋の防護柵から引っぺがした。オッサンが二人して橋の真ん中に四つん這いになって、ハァハァしてる様はだいぶ気持ち悪いが深夜のせいか人通りがなくて助かる。
「……オッサン、あれだ。死にたいのはわかったから、とりあえず……とりあえず一発ヌキに行こう。大事な決断するなら、賢者タイムにした方がいい」
黄色のビニール袋から飛び出した赤いオナホールがゴロゴロと橋の中央まで転がっていった。
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次回予告『賢者タイム・破』
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