【短編版】脇役に成り下がった俺の青春リベンジをS級少女たちが邪魔してくる件
浮葉まゆ@カクヨムコン特別賞受賞
第1話
「青春は誰もが主役だ」そんなCMのキャッチコピーみたいなことはない。
青春という言葉が当てはまる年齢になれば誰でもわかる。
それでも誰もが自分の人生なのだから自分が主役だと言わんばかりに他人を押しのけてスポットライトの当たる舞台の中央に立とうとする。
しかし、本当の主役はそんなことをしなくても意図せずしてスポットライト浴びる。
そして、気が付けば物語はその主役を中心に進んでいくのだ。
これはそんな意図しなくとも主役に躍り出るような彼女たちと主役になろうとしても最後まで背景の一部か路傍の石として役目を終える俺の話だ。
思春期特有の
※
ノートにかりかりと数式を書き進める。
今日の目標である三角関数の応用問題の解答だ。
他の教室とは違う図書室特有の匂いがする。
脳がフル回転しているせいか少し暑い。
この問題が解ければ昨日買ったお気に入りのライトノベル『キツネ娘とのあまあま生活が最高な件』の続きを読む予定だ。ヒロインでキツネ娘である
あまりに続きが待ち遠しくてすぐに読めるように机の上に本を準備しているくらいだ。
解答を書き終えて答え合わせをする。
一発で正解して俺のもふもふタイムよ。やって来てくれ。
願い虚しく俺の出した答えと問題集の答えは違っている。
どうしてだ。解答のプロセスは問題ないはずだし、計算ミスだってないはずだ。なのにどうして違うんだ。
思わず両手を頭に当てて解答を睨んでしまう。
俺の解答に間違いはないはず。ならば、この問題集の解答の方が間違っているのではないか。
『うちとのいちゃいちゃタイムはお預けです』と俺の脳内で夜見さんが手を振りながら去っていく様子が再生されていく。
ああ、そんな。夜見さん待って。すぐにどこで間違ったかを見つけるから……。
解説に目を通そうとしたその時、隣の席の椅子が引かれた。
テストが終わったばかりだから、この時期の図書室は混雑していない。
わざわざ俺の隣に座ろうとするなんて誰だろう。
視線をノートから隣の席に移すと、そこには栗色の長い髪を揺らしながら椅子に座ろうとしている
「おっつー、
無邪気な笑顔を向けながら声を掛けてきた黛は高校生というよりずっと幼い雰囲気がする。この気さくな感じと可愛らしい雰囲気から男子からも人気がある。
「黛さん、どうしてその席に?」
「どうして? それはこの席が空いていたからだけど」
「いやいや、そういうことじゃなくて、他にも空いている席はたくさんあると思うけど」
「適当に選んだのがこの席だったというだけだよ。空いている席が四十席あって、そこから適当に選んで座っただけ。天王寺谷君の両隣の席が空いているから確率は二十分の一だね」
「数学的にはそうかもしれないけど――」
――わざわざ俺の隣に来なくてもという言葉を飲み込んだ。無駄に角の立つことを言わなくてもいいか。
「適当に選べば、この席に座ることも可能性としてはあり得る。でも、普通はそんなことはないって言いたそうだね。そう、例えば、がらがらの電車でわざわざ隣に座ってくる人がいれば警戒するのが普通というところかな」
わかってんじゃねーか。
「それなら、俺はこの状況を警戒すべきだな」
「それはどうかな。知らない人が隣に来れば警戒すべきかもしれないけど、私たちは全く知らない仲ではないし、私の隣に天王寺谷君がいる光景は見慣れたものだと思うけど」
「誤解を招くような言い方はしないでくれ」
「だって、こないだのテストの結果も私の名前の隣に天王寺谷君の名前があったでしょ」
俺にとって黛は同じクラスの可愛らしい女の子ではない。俺の高校生デビューの出鼻をくじき、俺が浴びるはずだったスポットライトを代わり浴びている存在だ。
入学式での新入生代表挨拶。その後の新入生歓迎テストの首位。
俺が手に入れるはずだった全てを黛に取られてしまい。俺は完全に脇役に成り下がってしまっている。
「たしかにいつも俺が二位で黛さんの隣にいるが、その関係はもうじき逆転する」
「そう、そうなの。最近、天王寺谷君がまともな人とは思えない気迫で勉強している姿を見て、これは敵情視察をしなければと思っているところなの」
ナチュラルにこっちをディスってきやがる。
「なら、ますます警戒するだろ」
「まあまあ、そんなに警戒しなくても。敵情視察といっても私はここで本を読むだけだから。別に君の勉強を邪魔しようってわけじゃないんだし」
「じゃ、邪魔をしないなら、別にいいけど」
俺の方がこの場所を離れるということも一瞬考えたが、それでは俺が黛をすごく嫌っているように見える。この様子を図書室にいる他の誰かに見られれば、俺がとても嫌な奴に見えるのではないか。
そうなれば、仮に俺が黛を抜いてテストで一位になったとしても性格の悪い奴として主役になることができなのではないか。
「さあさあ、私のことは気にしないでどんどん勉強を進めて」
「言われなくても、そのつもりだ」
再び三角関数の問題に取り組む。
黛は鞄から一冊の本を取り出して読み始めた。
「「…………」」
なぜだろう。解説を読んでもなかなか頭に入って来ない。
ペンは止まり黛がページをめくる音だけが耳に入ってくる。
「どうしたの? さっきからずっと進んでいないようだけど」
「べ、べつに何もない。ただ、ちょっと考えてただけ」
「ふーん。……あのさ、さっきからちょっと気になっていたんだけど、ここ」
黛は少しだけ身体を俺の方に傾けて、ノートに書かれている数式を指さした。
彼女の肩を流れる髪が俺の方に甘い香りを運んでくる。
ち、近いって。
俺は少しだけ黛から距離を取るように身体を傾けた。
「ここ、計算ミスしてるんじゃない」
「……そうだな」
「やっぱり、そうだよね。さっき見えた時に違和感があったから」
ニュータイプかよ。こっちはそれを見つけるのに一苦労しているのに。
「そんな、一目見ただけでわかるのか」
「うーん、場合によるけど。なんというか、平仮名を習いたての子が「す」の丸の部分を左右逆に書いているのに気づく感じかな」
このディスり方、絶対に俺のこと嫌っているよな。
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皆様お久しぶりです。今回はちょっとした短編ですが、お付合いいただければと思います。全5話の予定です。
次回更新は7月11日午前6時予定です。
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