第33話 “魔人”って、なんじゃい

「まじん? 魔の神か? それとも」

「ま、なる、ひと〜」


 魔人の方か。とはいえ、そんなもんを錬成してどうする。上級魔族に魔人族イヴィラというのがおるが、単なる魔族の一種族に過ぎん。魔力こそ高いが、これといって特徴もない、融通の利かん屁理屈屋どもじゃ。

 人の手で魔人族を作り上げられるかどうかは知らんが、そもそも作り上げたところで意味もなかろう。となれば、あやつらの妄想の産物でしかない“魔なる人”ではないかの。


「とう、ちゃ~く!」


 最深部に滑り込んだエテルナが、するりと優しくわしらを降ろす。

 魔族たちはオルトに守られとるが、おそらく自分たちが救出されたとは思っておらんな。いきなり現れた双頭の黒狼に襲われることになるのかと怯えておる。


「災難だったのう。もう大丈夫じゃ」

「む? なんで、人間が……」


 今度は中級魔族か。どこをどうしてやってきたやら、えらく年寄りの小匠族ドワーフと弱り切った虚霊族フォントマじゃ。意識も朦朧として、見た目は人間の小娘にしか見えんわしが魔王であるとは気づいとらんようじゃの。


「ぬしらは、安全な場所で待っておれ」


 わしは魔族たちを、魔力で形成された“安寧空間ビパークフィールド”に送る。目の前に現れた魔法陣を見てみな怯えた顔をするが、なだめておる暇はなさそうじゃ。


「な、なにを……⁉」

「すまんが取り込み中じゃ。いくらかお仲間が先に入っておるから、話はそやつらから聞け」


 涙目の魔族たちが姿を消すと、倒れていた魔導師たちが黒い靄に包まれて痙攣を始めよった。


「「あがががががぁ……ッ!」」


「アリウス様、魔法陣が」

「うむ。テネルは少し離れておれ」


 魔力供給源であった魔族たちが消えたことで、魔法陣が代わりにあやつらから魔力を吸い上げておるな。自業自得じゃの。自分らの悪行が、己に返ってきただけじゃ。

 近くに立つわしも吸われておるが、この程度であればなんの痛痒もないわ。


「なるほど。このまま魔力を吸い込み続ければ、魔力の圧搾と魔人錬成は行われるんじゃな。どんなもんが出てくるか見てみてもよいかもしれんのう」

“しばらく、かかるかも~?”


 エテルナの試算では、このままの魔力供給を続けた場合には三十分四半刻ほど掛かりよるそうじゃ。おまけに魔導師どもは、その途中に魔力枯渇で死ぬ。

 死ぬのは構わんが、四半刻も待つほど暇ではない。わずかに魔力を解放して魔法陣に注ぎ込む。設定された吸入量に合わせんと許容限界を超えて溢れてしまうので、少しずつ調整しながら嵩まししながら注いでいくんじゃが……誰じゃ、この杜撰な術式を組んだ阿呆は。設定条件が曖昧な上に、許容値が低すぎじゃろがい!


「あ、へーか注ぎすぎかも~?」


 エテルナの警告は間に合わず、ボンッと青白い煙を上げて魔法陣が弾けよった。


「この程度の魔圧で崩壊するとは、ずいぶんと脆い術式じゃの」

「あれ?」


 エテルナの怪訝そうな声に魔法陣のあった場所を見れば、どうにも見覚えのある魔人族イヴィラが倒れておった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る