第23話 “圧力波”って、なんじゃい
「さて」
引き上げてゆく若い大工たちとすれ違いながら、わしとテネルはダンジョンの入り口に向かう。
入り組んで狭い場所に入ることになるので、エテルナは馬の姿を解いて不可視のスライムに戻っておる。
「アリウス様、エテルナは?」
「そこじゃ。ぬしの隣におるぞ」
「?」
エテルナは体色を少しだけ揺るがせると、ひょいっと手を振るような仕草を見せる。
伯爵家令嬢としては肝が据わっておるようで、テネルは驚きつつも嬉しそうな微笑みを浮かべた。
「ふふっ♪ やはり、ただの馬ではなかったのですね。エテルナは、アリウス様の
「いや、
それを聞いて納得したような顔になるあたり、この
「お嬢様」
最後に残っていたらしい入り口警備の領兵がテネルに声を掛けてくる。
「お役目ご苦労さまです。これから視察を行いますので、領兵のみなさんは
「ですが……」
「こちらは問題ありませんよ。お父様と領兵指揮官に対して、アダマス公爵家からの正式な文書もいただいています。先ほど、本人から合意も取れました」
不承不承という顔ではあるが、警備兵たちは持ち場を明け渡した。
ダンジョン入り口から離れる前に、わしらの武器と装備をちらりと確認しておる。咎めるというよりも、自家の令嬢を心配してのものじゃな。
「お嬢様、騎士見習いになられたわけじゃないですよね」
「この服と剣は、アダマス公爵家でお借りした物です。騎士を目指す予定はありません。……いまのところは」
「領兵としては、そう願いたいですが。お嬢様なら、騎士としても大成されるとは思いますよ」
「ふふっ♪」
領主の娘と領兵の会話としては、馴れ馴れしいと言われかねんものではあるが。この距離感の近さと信頼感は、伯爵家の家風を感じるところじゃな。わしとエテルナは、伯爵領に好感を持つ。
「ちと尋ねるが、
「いいえ。ここ数日で入った者は全員、退去を確認しています」
「うむ、ご苦労。後は任せよ」
わしとテネルに頭を下げると、領兵たちは今度こそ撤収していった。ここから先は、人間のおらんダンジョンに入るわけじゃ。どうにも心が躍って仕方がないわい。
「エテルナ、活性化の兆候は」
“かなり、すすんでる~”
「そうじゃテネル、この先は面倒なことが起きるやもしれん。ぬしもエテルナと
「ぜひ、お願いいたします」
テネルはしゃがみこんで、エテルナと触れる。すぐに嬉し気な思念が、エテルナ経由でわしの頭にも伝わってきよった。
「エテルナちゃん、とお呼びしてよろしいですか?」
“はいな~♪”
「では、参るぞ。まずは状況の確認じゃ。活性化の進行具合によっては最深部まで攻め入ってコアを砕く必要もあろうが、問題は……」
“そこで、なにが起きてるか~?”
「それじゃ」
ダンジョン内にはエテルナが
斥候として最短距離を最速で抜けておるとのことなので、到着も時間の問題じゃろ。
追いかけねばならんと考えたところで、鞘豆の形になったエテルナがわしらを振り返る。
「テネル、ゆくぞ」
「まあ、またエテルナちゃんに乗れるのですね♪」
駿馬のエテルナに乗って気に入ったようじゃ。お供を褒められて、わしも悪い気はせん。
前にわしが乗り、後ろにテネルを座らせる。エテルナに任せておけば、まず落ちる心配はなかろう。
“どのくらい、はやくする~?”
「コアまで全速力で頼む。テネルも、それで良いかの」
「もちろんです」
エテルナがするすると
「「……っぐううぅ……ッ!」」
速さだけでいえば、平地を駆け抜ける
なんぼなんでも、速過ぎるじゃろがーい!
そら全速力を望んだのはこっちじゃ。ダンジョンの対処が急務なのも事実。それを怖いから速度を落とせとは言えん。というか、声も出せん。念話であれば止められるとは思うがの。
「うぎゃぅッ!」
大人がなんとか通過できるかどうか、という狭い通路を凄まじい速度で突破するエテルナ。
狭い空間で圧縮された空気がボガンと轟音を発し、気圧変化で耳がキーンとなる。
「お、おいエテルナッ、大丈夫か、これ……ッ!」
「ええ。後ろから、妙な地響きが聞こえていますけれども……」
“みち、くずれちゃった~”
「うぉい!」
突っ走るエテルナのまわりでバビンボブンと鳴っておるのは隘路の高速通過で圧縮された空気だけではないのう。
「さっきからビチビチと飛び散り弾けとるもんは……」
「魔物ですね」
それが何なんかは、よう見えんが。まあよい。わしが知りたいのはひとつだけじゃ。
“いまのところ、
「では、蹂躙じゃ!」
“ぎょいー♪”
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