第5話 “喫緊の問題”って、なんじゃい
「襲ってこんではないか」
“ね〜?”
敵意を持つ相手から威嚇を受ければ、即座に闇討ちが魔族の基本。人間とて貴族であれば同様であろうと思ったのだがのう。
ベッドで転がったまま待つことしばし。わしもエテルナも気づけば寝ておったわ。
「アリウスお嬢様」
「おう、待ち兼ねたぞ」
「え?」
ようやく扉が開き、現れたのは夜も明け日も昇った後。しかも訪れたのはメイドであった。いくぶん年嵩の女で、名はポプラリスというらしい。
アリウスに名を聞かれたことはなかったようで、わしの問いに怪訝そうな顔をしておった。貴族の娘というのは、使用人の名も覚えんもんなのかのう。
「ポプラとお呼びください」
「うむ。早速じゃがポプラ、昨日のメイドはどうしたんじゃ?」
「マルムでしょうか。あの子でしたら……逃げました」
「む?」
わしは足元で姿を消したままのエテルナと目を見合わせ、首を傾げる。
「逃げた?
「あるじ、と申されますと……アリウスお嬢様を、ということでしょうか」
「いや。あれは
わしが言うと、ポプラはわずかに目を泳がせて言葉を濁す。
マルムとミセリアは言葉の抑揚と訛が似通っておった。おそらく、プルンブム侯爵家のある土地の
この屋敷で、マルムは
情報収集能力に長けたエテルナに念話で問うと、おともスライムは嬉しそうにピョンと跳ねた。
“へーか、せいかい♪”
うむ。やはり、わしの勘は冴えておるのう。メイドには見えんようにぷにぷにしてやろう。
「アリウスお嬢様。マルムからお伝えしているかもしれませんが、明日の午後に公爵閣下がお戻りになられます」
「いや、初耳じゃな。公爵……いや父上は、領地に出られたのだったかの?」
「はい」
当てずっぽうだったが、当たりじゃ。まあ、公爵が長く屋敷を空けるとなれば王城詰めか領地訪問しかあるまい。
「領地がどこかは知らんがの」
“ここ〜♪”
わしの頭にエテルナから、王国の地図情報が入ってくる。うむ、便利な家臣じゃ。
アダマス公爵領は、いまいる王都の北西。高位貴族だけあって国の中心から比較的、近いところにある。とはいえ王都を囲うように広大な
早馬や伝書鳩なら一日前後じゃが、どちらも平時に私用で使うものではない。
「エテルナ、アリウスが倒れたのはいつじゃ?」
“え〜っと……四日前?”
公爵は、
「止めたのはミセリアじゃな」
「はい。それと、奥様です」
なるほど、あの母娘は敵と考えてよかろう。
アリウスが倒れたのは四日前。魔力を封じられた人間が昏睡状態に陥るまでに四、五日は掛かるか。となれば、公爵が屋敷を出てすぐに母娘はアリウスを手に掛けたわけじゃな。
公爵が戻る前に、アリウスを亡き者にしようと企んだわけじゃ。
アリウスが力尽きるのに……並みの人間が持つ魔力量であれば二、三日といったところか。そこから“器”に召喚した“魔の者を降ろす”のに一日。ギリギリじゃな。
“ミセリア、イライラしてたの。へーかが、なかなか亡くならないからって”
「まあ、そうじゃろな。魔王の魔力を以てすれば、あんな小細工などないも同然じゃ」
結果が出ないのに焦ったミセリアは、毒殺でも呪殺でもしろと
「うむ。大筋の絵図は読めたがの。どういうつもりなのかは
“こっちから、攻め込む〜?”
「無論じゃ。売られた喧嘩は、買うてやるわい。守りは魔王の性に合わん」
部屋を出ようとしたわしに、ポプラが声をかける。
「アリウスお嬢様、どちらへ」
「ミセリアのところじゃ」
「えッ⁉︎」
当然ながら、わしは小娘の部屋など知らん。アリウスとなって以来、この部屋から出ておらんからのう。ポプラに案内させようかとも思ったが、この後のことを思えば酷な話じゃと考え直す。
エテルナさえ
「さて、参るぞエテルナ。
“はいなー♪”
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます