デレデレ・カンナ 6/11

 早速、暑くなり始めた今日この頃。

 僕が病院の一階にまで下りると、カンナさんはそわそわした様子で、入り口の所に立っていた。


 たぶん、アノンさんに聞いたり、自分なりに考えたんだろうけど、今のカンナさんは前とは違う。


 ヤンキーのように、表でジャージを着る事がなくなった。

 白いフレアスカートに、青いシャツを着ていて、別人のようになっている。三つ編みはしているが、二つに分けた髪をさらに一本に束ねて、三つ編みポニーテールにしていた。


 前髪はちょっとだけ下ろし、まさに清楚である。


「あ、モリオ」


 僕を見つけると、小走りで寄ってきた。

 すかさず、腕を絡めてガッチリホールド。

 身長差があるので、無理をするとアームロックのように、技になってしまうので、毎回決められている。


「いでっ」

「ごめん」


 ふわり、と良い匂いがするのだ。

 あの凶暴なカンナさんは、どこに行ったんだろう。


 そんな事を思いながら、自動ドアを潜る。

 病院から出る間際、ダルそうな男の人とカンナさんがぶつかった。


「あ、すいま……」


 相手は謝ろうとしていた。

 ところが、どっこい。


「コラァ。どこ見てんだよォ」

「すいません!」


 背筋を伸ばして、男の人は病院に入っていく。

 中身は変わらない。というのが、すぐに分かるので、ノスタルジックな気持ちは一瞬だけである。


「ふん。クソ野郎」

「か、カンナさん。清楚な見た目で、それはギャップあり過ぎるよ」

「……ごめん」


 女の子って、怖いなぁ。


 *


 カンナさんのアプローチが極限に達していると錯覚するが、気のせいだろう。だって、まだ一線を越えてない分、底が見えないのだから。


「ふー……っ、ん。モリオぉ❤」


 僕は今、自害橋の下にいる。

 人目につかない河川敷。

 日陰で地べたに座らされた僕の上に、カンナさんが跨り、頭を抱き抱えられていた。


 胸元からは蒸れた空気が漏れていて、汗ばんだ肌が見えている。


 こう言えば、分かりやすいだろうか。

 死んだふりをしていたら、メス熊に圧し掛かられて、持ち帰られそうになっているやつ。


 僕の太ももはすでに限界だった。

 太ももだけじゃない。

 股間もだ。


「くっ、……カンナさん」


 言っておくが、快楽で我慢できないわけじゃない。


 いッッッたいのだ。


 ミシミシと音を立てて、軋む太もも。

 ぎりぃ、と陥没する局部。


「こ、こういうのは、家に帰ってから……っ。いでっ!」

「やだ❤」

「あの、カンナさん?」

「や~だっ❤」


 デレ状態のカンナさんは、駄々っ子だった。

 しかも、格闘技の経験者で、常に技を覚えてはトレーニングをしている人だ。実戦経験が豊富で、重量級女子。


 僕には勝ち目がなかった。


 頭に頬ずりをされ、首筋や頬にキスの雨を降らされる。


「ん~……ちゅっ」

「や、やめ、ま、ぐおおおっ!」


 第三者から見れば、非常にエッチな光景。

 腰を振られながら、顔にキスをされるのだから、当然だ。


 だが、当事者は苦しんでいた。


「い、ででで。ま、まった。潰れるぅ! 潰れる!」

「愛で潰してるし❤」


 ちっげぇよ!

 物理的に体重で潰されてんだよ!


 声にして言いたい。

 でも、傷ついたらへこみモードになって、アノンさんが動いてくる。

 前門にカンナさんが両腕を広げて構えていて、後門ではアノンさんがナイフを持って接近してくるのが、僕の現状。


 ふと、カンナさんが腰の動きを止めた。


「……はぁ、はぁ、ど、どしたの?」


 目を潤ませ、カンナさんが股下をタッチしてきた。


「……大きく……なってる……❤」

「生存本能が働くと、男の人って勃起するんだよ。知ってた?」


 これ、ガチ。


「モリオは、したいの?」

「今は、そうだねぇ。んー、保留ってこと、でぇっ!?」


 頬を両サイドから掴まれ、カンナさんの目つきが鋭くなる。


「……嫌なの?」


 控えめに言って、ブチギレていた。

 女の子の誘いを断るとロクな事がないというけど、選択肢は欲しい。

 じゃなかったら、強制ルート確定じゃないか。


「き、キスはしたい」

「それ以上の事は?」

「大事にしたい」

「ふふん❤」


 ご満悦の顔だった。

 大事にされることで、カンナさんは悦ぶ。


 近くにメンヘラがいるせいだろう。

 そいつの知識や吹込みがあって、カンナさんはヤンデレに加えて、メンヘラの気が入ってきている。


 これは非常に危険な兆候だった。


「ん」


 と、顎で差され、僕は口を閉じて顔を傾ける。


「し、舌出して」

「え? なんで?」


 普段の僕なら気づいていたのに、この時は恐怖と緊張で錯乱状態。


「出せや!」

「ひいいっ!」


 恫喝どうかつをされて、僕は言われるがままに、舌を出した。


「あー……むっ」


 鼻から漏れた息と息がぶつかる。

 舌から伝わる感触は、色気がない例えで申し訳ないが、真空状態だった。真空の中にぬめり気があって、頬を擦られつつ、唇の柔らかい肉で咀嚼そしゃくされている風だった。


 もう、……レ〇プだよ。

 女の子による、女の子のレ〇プだよ。


 そんな事を思っていると、口を離したカンナさんが、にっと笑う。


「絶対、離さないから❤」


 ヤンデレによる本気の宣戦布告を僕は受け取った。

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