陰キャ・リベンジ

双子のポチ 5/26

 ヘイタは胸骨が折れたため、入院するとのこと。

 胸骨とは、胸の骨の事で、分かりやすく言うと、喉元の下あたりから真っ直ぐに伸びた、太い骨のことだ。


 折ったと言っても、医者曰くヒビが入って、ズレてるくらいの骨折で、ポッキリ折れたわけではない。ましてや、粉砕骨折でもない。


 軽い、というのは変な話だが、思ったよりは軽く済んだということだ。


 ケンイチはわき腹を軽く火傷する程度で済んだ。

 スタンガンを当てられた時に、皮膚が少し焦げたのだろう。


 僕は関節と関節の間に、ナイフが刺さったせいで、昨日の夜に緊急で病院へ行った。

 針で縫う羽目になったが、指は動くし、問題ない。


 医者には長いもを切ろうとしたら、ツルッといって切っ先がぶっ刺さったと言っておいた。


 まあ、医者だから、僕の嘘なんてお見通しかもだが、「バカですか?」とお叱りを受けただけで済んだのは奇跡的だろう。


 クソ医者め。


 親からは久々に頭をぶっ叩かれるという事態に発展したが、問題ない。

 足の裏は家の救急箱で、消毒してガーゼを貼っておいたので、たぶん大丈夫だ。


 近いうちに、病院にいるイケメンのクソッタレに、事情聴衆をしないといけない。


 *


 5月26日の朝。

 ドタバタと慌ただしい一日を過ごした前日に比べて、痛みを除けば爽やかな朝だった。


「あー、生きてるわ」


 まるで、昨日起きたことが悪い夢のようだった。

 ネタで『マストダイ』と口にしてる連中とは違い、けが人が出て僕まで負傷している以上、ガチのマストダイだった。


 ようは死にかけた。

 一歩手前だった。


 けれど、こうして生きているのは、僕の頭脳明晰な機転があったからだろう。


 支度を済ませて、玄関を出て、「あぁ、シャバの空気うめえわ」と、刑務所から出てきたばかりの囚人を気取り、小鳥のさえずりを聞く。


 そして、一歩を踏み出し、溜めこんだ息を吐き出す。


「……早くない?」


 昨日、奴隷契約をしたばかりなのに、双子は家の前に立っていた。

 正確には、塀の陰に。


 僕が出てきたのを見つけると、アノンさんが「おはよっ♪」と声を掛けてくる。


 このクソビッチめ。

 こいつのせいで、手の平に穴を開けられ、親と医者に怒られる羽目になったのだ。


 本当の事を言ってもいいけど、事情を深掘りされたら、「なんで学校にいたの?」と詰問きつもんされかねないので、僕は嘘を吐いた。


「お、おはようございます。早いっスね」

「うん。姉ちゃんが、ソワソワしてたから」

「へえ」


 チラ、とカンナさんの方を見ると、ジャンバーに手を突っ込んだまま、無言でいた。眉間に皺を寄せて、機嫌悪そうにしているが、本当だろうか。


「あ、ネックレス、ちゃんとしてきた?」

「したけど」


 家の前だってのに、アノンさんは躊躇いなく、制服の胸元から中を覗き、ネックレスを確認する。


「えらい、えらい」


 にこ、と笑い、アノンさんは先を行く。

 僕は足を怪我してるので、後ろからついていく形となった。

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